※このシリーズの各話感想は以下をご覧ください。
Geoff Johns氏によるTeen TitansのBOOK 3を読みました。この頃のDCコミックス社のヒーローたちの世界ではInfinite Crisis(感想はこちら)に向けて着々と状況が悪化しているようなのですが、若手ヒーローチームTeen Titansもそういった情勢と無縁ではいられず振り回されることになります。
【基本情報】
Writers: Judd Winick, Geoff Johns
Artists: Matt Clark, Mike McKone, Various, Carlos D'Anda, Tony S. Daniel
Cover by: Mike McKone, Marlo Alquiza
発行年 2019年(単行本の発行年。連載されていたのは2005年頃)
公式サイトはこちら。
この巻には主に、
・Robin(ロビン、ティム・ドレイク)の父親が亡くなった話
・Dr. Lightがティーンタイタンズへの復讐を始めたため、タイタンズみんなで力を合わせる話
・スーパーマンとレックス・ルーサー、二人のDNAから生み出されたクローンであるスーパーボーイがレックス・ルーサーに操られる話
・死者が蘇りすぎることを不審に思ったRaven(レイブン)が、死後の世界との間にある扉を閉めようと奮闘する話
が収録されています。死んだはずのドナ・トロイが突然蘇っていたり、ワンダーガール(キャシー・サンズマーク)の父親がゼウスであるといつの間にか明らかになっていたりと話がとびとびの印象を受けますが、同時期に連載されていた他誌でのエピソードを踏まえているためこういうことになっているのだろうと思います(ドナ・トロイに関しては The Return of Donna Troy (感想はこちら)、ワンダーガールの父に関してはWonder Woman by Greg Rucka Vol. 2 (感想はこちら)に詳しく描かれています)。
こういうところは、リアルタイムで連載を追いかけていると複数誌に物語がまたがっていてダイナミックだと思うのですが、連載終了後に読み始めると分かりにくくなってしまう部分ですね。最近のアメコミだと、他誌のエピソードを踏まえている部分には大体 「○○誌の何話を読んでね!」という作者からのコメントが添えられているので親切になったのだなと思いました。
それはともかく。
筆者が好きなのは、ロビンの父の死を描いたエピソードとスーパーボーイのエピソードです。以下それぞれについて、ネタバレを含む感想です。
・ロビンの父の死のエピソード
ロビンの父の死そのものというよりも、そこから浮かび上がってくるバットマンとディック・グレイソン(初代ロビン)、それにティム(三代目ロビン)の関係が印象的でした。また、BOOK 3の後半で「復活した死者」として登場するジェイソン・トッド(二代目ロビン)と合わせて、バットファミリーの愛憎が描かれてたと感じます。
そもそもBOOK 2で少し将来の自分たちの姿を見ることになったティーン・タイタンズですが、バットマンの三代目相棒ロビンであるティム・ドレイクは
「僕はバットマンにはなりたくない」
と言っていたのが印象的でした。
その後、このBOOK 3までのどこかのエピソードでティムのお父さんが亡くなったようなのですが、ティムはそれを仲間たちに話すことができないでいます。そして、
「僕はついにバットマンみたいな考え方をするようになった」"... I'M FINALLY THINKING LIKE BATMAN."
と思いつつ、閉塞感を抱えていきます。父の死を隠していこうと思っていたロビンでしたが、チームメンバーとのやり取りの末に父の死をチームに明かします。そこでメンバーに慰められ、
「一週間で初めて……僕はバットマンみたいに考えるのをやめた。そしてタイタンズの一員みたいに考えるようになった」"FOR THE FIRST TIME IN A WEEK... I STOP THINKING LIKE BATMAN. AND I START THINKING LIKE A TITAN."
と思うのでした。
このタイタンズの一員、というのは文字通りの意味でもあるのですが、エピソードの冒頭にバットマン(ブルース・ウェイン)とナイトウィング(ディック・グレイソン、初代ロビンにしてティーン・タイタンズの創設メンバー)を対比している場面があることを考えるとディック・グレイソンのことを指しているのではないかと思います。
ティム・ドレイクにとって、ヒーローとしてのお手本になるのは師匠であるバットマンか、先輩であるディック・グレイソンかということになると思いますが、ティムはグレイソンの方の道(=友達と気持ちを分かち合いながら生きていく道)を選んだのだなと思えるエピソードでした。
……そして、本の後半になると「復活した死者」として、二代目ロビンであったジェイソン・トッドが登場してティムに絡みます。彼はロビンとして活動する中でジョーカーに殺され、その後を継いだのがティム・ドレイクです。死の世界からよみがえったジェイソンはティムがロビンとして活動していることに納得がいかないらしく、自分より優れているところを見せろ、とティムに迫ります。さらにジェイソンはティーン・タイタンズとしても短期間活動していたようなのですが、他の死んだメンバーのように自分の像がタイタンズの本部に飾られていないことに激怒し、飾ってある像を壊して回ります。
同情には値するのですが、ロビンのコスチュームを身に着け(蘇ったジェイソンのキャラクターにはあまりに似合わない……)、死んだメンバーの像が飾ってある広間の壁に
「ジェイソン・トッドはここにいた」"JASON TODD WAS HERE."
と書き残していくジェイソンの姿はあまりにも痛々しく、誰か彼の友達になってあげてください……と切実に願わずにはいられません。友達ができるかどうか、がロビンたちの将来を決める大事な要素かもしれません。
・スーパーボーイのエピソード
スーパーボーイはスーパーマンのDNAとスーパーマンの宿敵であるレックス・ルーサーのDNAから生み出されたクローンであることがBOOK1で判明し、ずっと思い悩んでいました。ティーン・タイタンズのメンバーの中ではロビン(ティム・ドレイク)とは親友、ワンダーガール(キャシー・サンズマーク)とは恋人ということでこの二人と特に関係の強いスーパーボーイですが、DNAに関してはティムにだけ相談してカサンドラには何も言っていません。
タイタンズのメンバー全員に自分の秘密を明かそうとしたところでタイミング悪くルーサーに操られて暴れまわることになるわけですが、対ロビン戦では手加減する様子がないわりに対ワンダーガール戦では涙を見て止まるなど、彼女のことは覚えているらしいことが明らかになります――このあたりの、親友と恋人の使い分けがなんだかリアルだなと思ったのでした。
いろいろあった後に、最終的にスーパーボーイの気持ちに最も寄り添えたのは悪魔の父を持つレイブンであった、という展開が筆者は大好きです。何人か友達がいると、ピンチの状況に応じて頼る相手を変えることができて、そうしたことからもティーン・タイタンズがコンビやトリオではなく、チームというのはいいなと思いました。