※このシリーズの各巻感想は以下をご覧ください。
かつてはバットマンの相棒、ロビンとして、また独立してからはヒーローNightwingとして戦っていたDick Grayson (ディック・グレイソン)。全世界に正体をばらされたため死を偽装した彼がSpyral(スパイラル)という組織のエージェントとして戦うこのシリーズ。第3巻ではディックの帰省も描かれます。
【基本情報】
Writers: Tom King, Tim Seeley
Artists: Mikel Janin
Cover by: Mikel Janin
発行年 2016年
公式サイトはこちら。
やや散漫な印象を受けた2巻とは違い、油断のできない物語がずっと続いていくという印象の第3巻でした。
まず、2巻のラストでスパイラルの中間管理職として働いていたMinosが殺されたことにより、
・これまでディックのパートナーだったHelena Bertinelli (ヘレナ・ベルティネリ)が中間管理職ポジションに
・ディックのパートナーはTigerというエージェントに
変わりました。ディックが他の組織のエージェントを殺しているという容疑を掛けられるという話が冒頭にあり、その後ディックがゴッサム市に帰省する話が入ってきます。ゴッサム市に帰省する話についてはネタバレを含む感想を下の方に書きますが、気になるのはヘレナ・ベルティネリが組織の中で浮いているっぽいところです。
1巻~2巻まで中間管理職だったMinosも、蓋を開けてみれば組織内の他のメンバーから全く信頼されずまともに情報も貰っていなかったようなのですが(今思うと可哀想)、ヘレナも彼女の知らないところで勝手に組織内の陰謀が進んでいるような……中間管理職は爪はじきにされる伝統でもあるんでしょうかスパイラル。
そんな中、ディックはゴッサム市に帰省します。以下、ネタバレを含む感想です。
そもそも、ディックはバットマンの指示で死を偽装してスパイラルに潜入しました。スパイラル潜入後は、時々バットマンに連絡をしていました。しかしバットマンからの連絡が途絶え、スパイラルにいる意義を見失うようになります。というわけで、自分に偽装した殺人犯の件を(一応)解決した後に、スパイラルをやめると宣言してゴッサム市に帰るディック。
実はバットマン(ブルース・ウェイン)は記憶を失っていたのでした――という展開になるのですが、この展開は印象的でした。
というのも、自分に偽装した殺人犯の件でディックは「お前は誰だ」という問いに対峙しています。一方、師匠であるブルースは記憶を失い、執事のアルフレッドに教えられた範囲でしか自分のことを理解していません。
思えば2巻で中間管理職だったMinosも「名前を失い、記憶を失い、残っているのは痛みだけだ」というようなことを言っていました。この作品のテーマは「自分とはだれか、自分を定義するものは何か」ということであるかもしれません。
そして、ゴッサム市に住む兄弟たち――Jason Todd(ジェイソン・トッド)やTim Drake(ティム・ドレイク)、Damian Wayne(ダミアン・ウェイン)と、元恋人のBarbara Gordon (バーバラ・ゴードン)に会いに行き協力を求めます。ディックが死を偽装していたことに怒ったり、生きていたことに喜んだりと反応は様々ですが、監視の目を考え、暗号で協力を求めるディック。
暗号の中の一節で、バーバラには
"I WILL ALWAYS COME BACK.""TO YOU... TO YOU."
「僕はいつだって戻ってくる。君の所に……君の所に」
と言います。これだけロマンチックなことを言っておいて暗号かよ……という気持ちはなりますが(今のディックはヘレナのことも気になっていますし)、暗号としてもわざわざこういう文を選んだところにはディックの気持ちが隠れているのでしょう、たぶん。
もっともこの頃のBatgirl誌(感想はこちら)ではバーバラはルーク・フォックスと付き合っているので、突然ディックが帰ってきても困る、みたいな感じになってしまっていたのですけどね。