Vol. 2 (感想はこちら) に引き続き、Vol. 3を読みました。話としてはまだまだ続くのですが、この巻のラストではいったん小休止といった趣になります。
【基本情報】
Writer: Brian Azzarello
Artists: Dan Green, Tony Akins, Cliff Chiang, Amilicar Pinna
Cover by: Cliff Chiang
発行年 2014年
公式サイトはこちら。
Vol. 1、2では人間であるゾラが大神ゼウスとの間に子供をもうけてしまったので彼女を女神ヘラの手から守ろうと奮闘していたダイアナですが、Vol. 2ラストで生まれた子供をこれまで協力してくれていた伝令神ヘルメスに奪い去られ、豊穣の神デメテルのもとに連れていかれてしまったのでした――というところから始まるこの巻。
ダイアナがゾラの子供を探して駆け回る姿を描きながら、各登場人物の思惑を少しずつ描き出していきます。また冒頭には、ダイアナの子供のころの話が収録されています。
今回登場する、ギリシア神話に由来する人物たちの簡単な説明は以下にまとめます。
War: 戦争神。おそらくアレスのことと思われるが、作中ではずっと"War"と呼ばれている。
ディオニュソス:酒とブドウの神。ゼウスの子。
アテナ:知恵と武芸、工芸の神。ゼウスとその最初の正妻、メティスの子。
Vol. 2からの流れで神託の神アポロがオリュンポスの王位を奪っているのですが、彼は彼で「ゼウスの子供たちの誰かに再び王位を奪われる」と恐れている様子。ゼウスの子供たちに召集をかけますが、アテナのみ現れません。
アテナは多くの神話でお父さんにとても忠実なので、これは納得の展開です。
アテナは一般的に、知恵があり、武術にも長け、高潔である――と描写されることが多いので、オリュンポスの神々の中で一番ダイアナに似ている存在だと思います。今後このストーリーの中で登場してほしいです。
さて、アポロが王位を奪取するとともにヘラは力を失い人間界に降りてきたらしく、ダイアナの保護下に入ります。同じくダイアナの保護下にゾラがいますが、ゾラは今まで彼女に散々命を狙われてきたわけでこの二人はとても揉めます。といってもヘラは神としての力を失っていますので、TVのチャンネル争いなどの低レベルな戦いになります。……ヘラ様、もうちょっとプライドを持たないとすっかりギャグキャラに……。
一方ダイアナは自らと同じくゼウスが人間の女性との間にもうけた半神たちの力を借りてヘルメスに迫っていきます。ところでゼウスがいつまで経ってもでてこないのですが……
と、そんなことをしているうちに話の本筋らしきものが動き始めました。以下、ネタバレを含みます。ほぼ、ギリシア神話の解説でもあります。
今後の展開のカギを握るであろう、First Bornという存在が登場しました。彼はゼウスとヘラの第一子だそうで、父の地位を脅かすとして殺されるはずでしたが生き残り、今になって目覚めた――ということらしいです。
なるほど、と思いました。きっとVol. 4以降で作中でも説明されることと思いますが、ギリシア神話には父殺しの話がつきまとっているのですよね。
ギリシア神話の世界を統治する権力は、
ウラヌス→クロノス→ゼウス
と父から子へ受け継がれていますが、この代替わりは決して平和に行われたものではありません。
クロノスはウラヌスを倒して王位につきましたし、我が子に追われることを恐れて子供たちを生まれる度に丸のみにしています。ゼウスは母の機転で父から隠されて成長し、のちに父を倒し兄弟たちを助けます。
しかしゼウス自身も最初の正妻メティスとの子が男子であればいずれその玉座を奪う存在になると予言され、メティスを丸のみにしてしまいます。
結局メティスが妊娠していた子供は女神アテナであったためゼウスの地位は安泰となり、この父と子の争いの系譜には終止符が打たれたことになります。
このNew52期ワンダーウーマンは「実際にゼウスの地位を脅かす存在が生まれていたとしたら?」というところから話の着想を得ているのではないかと思いますし、大変面白い発想だっと思います。
果たして話がどう転がっていくのか、次巻以降の展開に期待したいです。