2019年8月23日金曜日

Wonder Woman (2011-2016) Vol. 9 Resurrection 感想

※このシリーズの各巻感想は以下です。




Vol. 8に引き続き、New52期Wonder Woman誌のVol. 9を読みました。New52期Wonder Woman誌の最終巻になります。最終巻ということもあってか、Brian Azzarello氏がライターを務めたVol. 1~Vol. 6で活躍したゾラやその子のZeke(ゼウスが赤ちゃんとして生まれ変わった姿)、ゼウスの妻ヘラの活躍が楽しめます。
Finch氏がライターを務める今回のシリーズは、短編集的に読むほうが良かったみたいですね。3巻目にしてやっと分かりました。

【基本情報】
Writer: Meredith Finch
Artists: Scott Hanna, Miguel Mendonça, David Finch, Various
Cover by: David Finch
発行年 2017年

公式サイトはこちら。


ワンダーウーマン(ダイアナ)がDr. Poisonの陰謀を止める話、ドナ・トロイが運命Fateを司る存在としての仕事に目覚める話、Zekeが病気になってダイアナが助けようと奮闘する話などが収録されています。

まず、Fateとしての仕事に目覚めたドナ・トロイですが、彼女は人の運命を見ることができるようになったようです。そして無実の人々を過酷な運命から救うべく頑張るのですが、結局その人は別の形で過酷な運命に見舞われてしまうというエピソードが描かれています。ひどい。と思いきや、さらにもう一つどんでん返しが用意されています。

前巻までの騒ぎと対照的に、一人静かに自分の生き方を模索しようとするドナの姿が印象的です。彼女と一緒にいるのはDiscordiaという黒いペガサスだけで、その世話をしながら自分の生きる道を探していきます。誰にもとやかく言われることなく、でも生き物と一緒というのはいい環境ですね。まだまだこれから先の道は長そうですが、彼女なりの生き方を見つけられそうな気がします。

さて。この巻で最もページ数を割かれるエピソードはZekeが病気になる話でした。以下、ネタバレを含む感想です。

***ここからネタバレ***


ゼウスの生まれ変わりであるZekeを助けるために奔走するダイアナですが、そこにオリュンポスの二人の女神が絡んできます。一人はオリュンポスの地下に住むヘカテ、もう一人はゼウスの正妻、ヘラです。Zekeの存在――というよりも、ゼウスが持っていた力とゼウスがこれまでにしてきた行いの数々が二人にそれぞれの行動をとらせます。二人はZekeを、ゼウスの生まれ変わりとしてしか見ていません。

一方、ダイアナはというとZekeをあくまで生まれたばかりの子供、しかも友人であるゾラの子供としてみています。結果としてダイアナが最も純粋にZekeを助けようとします。

しかしその純粋なダイアナよりも、ヘラとヘカテのどろどろとした感情のぶつかり合いのほうが読んでいて面白かいものでした。このぶつかり合い、もうちょっと見ていたかったです。実際のバトルとしてではなく、遠回りな陰謀を巡らせるとかそういう方向性で。

最終的に物語は「全部ゼウスが悪い」というギリシア神話のいつもの感じになるのですが(本当にこの話、「全部ゼウスが悪い」という以外の感想を持ちにくいです)、ギリシア神話を読んだ人が誰でも一度は思ったであろう「ゼウスの浮気にそんなに怒るなら、ヘラは浮気相手じゃなくてゼウスを直接攻撃すべきでは?」ということをある意味で具現化したお話でもあります。もうちょっとヘラの気持ちを突っ込んで描いてほしかったと思います。

その過程でサイクロプスやティフォーンといったギリシア神話に登場する異形の者たちがでてきて楽しめました。ティフォーンのデザインは本当に格好いいです。ヘカトンケイル(100本の手を持つとされる巨人)の名前も出てきたので、どんなデザインになるのかとわくわくしていたら実際には登場しませんでした。残念です。

なお、この話といいRebirthでのJustice League Darkでの話(感想はこちら)といい、何かと損な役回りのヘカテですが、ギリシア神話の彼女は決して悪い神ではありません。冥府で第三に強い権力を持つ存在であり、また大地と強いつながりをもつ女神でもあります。この女神のことを強く信仰していた地方もあったようでヘシオドスの「神統記」でも彼女のことは讃えられています。彼女がいい役割で出てくるストーリーもそのうち作られるかもしれませんね。