2019年7月6日土曜日

Wonder Woman (2011-2016) Vol. 6 Bones 感想

※このシリーズの各巻感想は以下です。



New52期Wonder Woman誌のVol. 6を読みました。Vol. 1からずっとBrian Azzarelloをメインライターとして進んできた本シリーズですが、Vol. 7からメインライターが交代するためこれで話の一区切りとなります。

【基本情報】
Writer: Brian Azzarello
Artists: Goran Sudzuka, Cliff Chiang
Cover by: Cliff Chiang
発行年 2014年

公式サイトはこちら。



Vol. 5のラストでオリュンポスの王位についたFirst Bornは自分以外のすべての神を殺すことに決め、次々に神々を襲っては殺していく。一方、ワンダーウーマン(ダイアナ)はセミッシラの守りを固め戦いに備えていた。そしてついに戦いの火ぶたが切って落とされるのだった――というのがあらすじです。

これまで積み上げてきたエピソード群が機能し、ダイアナのもとにこれまでかかわりのあった人たちが次々と集まってくるという熱い展開になります。そして終盤に至って明かされる意外な真実。

筆者は本作品をギリシア神話の二次創作としても楽しんできましたが、「人と神の本質的な違いとは何か」
「愛とは何か」を描き出した作品だと思います。6巻分のうねりをもって、物語が熱いままに終局を迎えたと感じました。以下、ネタバレを含む感想です。

***ここからネタバレ*** 

前巻でアポロに散々残酷な拷問を受けてきたFirst Bornですが、この巻でオリュンポスの王位についてからは他の神々やこれまで自分に献身的に尽くしてきたカサンドラにまで残虐な扱いをし始める――というくだりは「虐待の連鎖」という言葉を想起させました。
思えば元々のギリシア神話で父が子を痛めつけ子がそれに反逆する――という現象が何代にもわたって繰り返されたのも虐待の連鎖と言えなくもありません。

First Bornはそんな中で自分にはその勝利を分かち合える存在がいないことに気づかされ、その相手とてぃてダイアナを求めるのですが(ここでなぜダイアナだったかはよく分かりません、単純に好みのタイプなのでしょうか)ダイアナはそれを拒絶します。

First Bornは愛を知りません。それは彼が生まれた時から誰にも愛されることがなかったためで、彼のせいというよりは父であるゼウスのせいでしょう。彼の攻撃性がもっと低ければ誰かがじっくりと彼に愛を教えることもできたのかもしれませんが、現状では誰にもそんなことはできません。

この作品では人と神の違いも語られます。死すべき存在である人間に対し、不死の神は長い時間が与えられています。結果として、人間ならばごく小さなことで感じる激しい喜びや悲しみも神にとっては悠久の時間の中で薄れていく感情となります。神々の語る「愛」と人間の語る「愛」とは本質的に異なり、単なる暇つぶし以上の意味は持たないのかもしれません。

物語の終盤に至り、これまで姿を隠していた大神ゼウスと彼の愛娘、知恵の女神アテナがとうとう姿を現します。

なんと、ゼウスはゾラの息子でゼウスの最後の子とされていたZekeに生まれ変わっており、アテナはゾラの中に眠っていたという展開でした。
ゼウスは、「生まれ変わってやり直したい」「なんか面白そうだから」という理由でZekeとなって姿を隠したようです。彼の不在がFirst Bornを目覚めさせました。アテナはゼウスのサポートとしてゾラの中で眠っていたようです。

……いや何か、そもそもの理由のわりに起きた被害が甚大すぎるのでは。アテナも知恵の女神ならもうちょっと穏やかに事態が進行するように策を練りなさいよまったく、と思ったのですが、この神々の気まぐれで大騒動が起きる感じが実にギリシア神話っぽいです。

ゼウスの浮気とヘラの嫉妬という「ギリシア神話あるある」から始まった本作ですが、最後もきっちり「神話にありそう」な感じで締めてくれて、ギリシア神話好きとしては大満足です。それにしてもワンダーウーマンは人と神の間の存在として苦労する存在だなと思いました。