2019年4月30日火曜日

Batman: No Man's Land Vol. 3 感想

※このシリーズの各巻感想は以下をご覧ください。
Vol. 1、Vol. 2に引き続きVol. 3の感想です。 ゴッサム市を襲った大地震の後、米政府はゴッサム市を放棄することを決断。住民にゴッサム市を離れるよう促し、市につながる橋を爆破する。しかし様々な事情で市外に移動できない住民、移動したがらない住民はゴッサム市に留まった。そして米政府の手を離れたゴッサム市はギャング団が縄張りを奪い合う無法地帯と化したのであった――というあらすじのこのシリーズ。短編を積み重ねる形で無法地帯のゴッサム市を描き出していきます。

【基本情報】
Writers: Dennis O'Neil, Chuck Dixon, Larry Hama, Ian Edginton
Artists: Paul Ryan, Paul Gulacy, Roger Robinson, Sergio Cariello
Cover by: Dale Eaglesham, Danny Miki
発行年 2012年 (NEW EDITION版)

  公式サイトはこちら。



まずレニー・モントーヤのファンとして一言いいたいのは、「Vol. 2であれだけ煽っておいてこれはないだろう!」ということです。Vol. 2でレニーは警察チームを率いるゴードン本部長の代理としてトゥー・フェイスとの交渉の場に赴き、そこで捕らえられたらしく生死は不明、という状態だったのでした。

 当然、Vol. 3ではレニーのその後を語るエピソードが収録されていると期待して読み始めたわけです。ところが、とあるエピソードでレニーは何もなかったかのように警察チームの一員として登場。同僚のハーヴィー・ブロックには、

"BY THE WAY, NICE TO HAVE YA BACK, MONTOYA."

「ところで、戻ってくれて良かったよモントーヤ」 と言われているのでエピソード自体がなかったことになっているわけではないようですが。Vol. 4でこの間のいきさつが語られていることを期待します。ちなみにこのレニーが再登場するエピソード、彼女の出番はそれほどありませんがロビン(ティム・ドレイク)との絡みで大人の余裕のような雰囲気を漂わせてくれます。

 さて、気を取り直して。 収録されているエピソードの中では、スーパーマンがバットマンを手伝えないかとやってくるエピソードとバットガールやロビン、スポイラーといった若いヒーローたちにスポットライトを当てたエピソード群が印象的でした。 以下、ネタバレを含む感想です。

***ここからネタバレ***
 
スーパーマンはVol. 1でもゴッサムを訪れていますが、自分の考えが通用しないことに驚いて去っていきました。今回の訪問はもっと入念に準備をしたうえでのことのようで、ゴッサム市住人らしい汚れた服を着て市内を歩き回ります。
彼の訪問の目的は、バットマンや他の人々の助けになることが何かできないか知ることです。バットマンに会う前、ゴッサム市の人々ともコミュニケーションをとるのですが、その人たらしぶりに感心しました。初対面の人ともすぐにコミュニケーションをとれる能力。ジャーナリストとして働いているということもあるのでしょうが、根本的に他人が好きなんだろうなと思わせます。

結局、バットマンからは助けを断られてゴッサム市を去るのですが、彼が飛び去るのと同時に日照りが続いていたゴッサムの街に恵みの雨が降り注ぎ、スーパーマンは希望だと思わせます。



若いヒーローたちの活躍を描いたエピソードは、少し痛々しささえ感じさせるものでした。
まず、バットガール(カサンドラ・ケイン)とロビン(ティム・ドレイク)がそれぞれ「バットマンに認められるために」無理をして頑張るエピソードが収録されています。
No Man's Landの状況下ではバットファミリーも人や資源が不足している状態ですので、ヒーローがそれぞれ一人ずつで活動できた方が好ましいというのは分かります。
現実に、バットマンの指示に従わず期待に応えられなかったハントレスはバットマンから切られたということもありますし。

しかし、「バットマン(ブルース)に認められるために!」と頑張る二人は格好いいというよりも悲愴で、「そこまで頑張らなくてもいいんだよ……」と声をかけてあげたい気持ちになりました。

そして、スポイラー(ステファニー・ブラウン)とロビンは共に、親との問題にも直面します。スポイラーはヴィジランテ活動をしていたことが母親に見つかってしまい、「いいことをしているから」ということで納得はさせたものの、今後の活動を禁止されてしまいます。
一方のロビンは、両親に黙ってゴッサム市に入ったことを両親に伝えたところ、両親が「ティムを助けてほしい」とTVで訴える事態に。

どちらも常識的な親御さんですね。子供がマスクをかぶってケープを着てヴィジランテ活動をするのを喜ぶ親はそんなにいません。ましてや、米政府に捨てられたゴッサム市に侵入することなど。

とはいっても、スポイラーにしてもロビンにしてもこの状況は困惑でしかないわけで、Vol. 4でどうなっていくのか分かりません辛そうだなと思いました。



一つ予想を書いてみると、このロビン(ティム)の両親の行動が米政府を動かしゴッサム市が再び法治国家の中の街に戻るきっかけになるのかなと思います。
このNo Man's Landのストーリーは解決するためには米政府にゴッサム市の放棄をやめさせるほかはなく、それを実現するために必要なのはヒーローの活動というよりは政治的な活動であるはずなのですよね。バットマンの活動よりも、ブルースが財力をもって政治家を動かしたりクラーク・ケント(スーパーマン)やロイス・レーンがゴッサム市の放棄について政府を批判する記事を書くほうが根本的な事態の解決に向かうはずなのです。

ティムの両親のTVでの訴えが、米政府を動かすきっかけになっていくのならロビンの現在の苦悩も報われるのかなと予想しています。……全然違ったりして。