2019年4月20日土曜日

Birds of Prey (1999-2009) Vol. 1感想

※このシリーズの各巻感想はこちらをご覧ください。

 
1999年~2009年まで連載されていたBirds of PreyのVol. 1を読みました。Birds of Preyという名前のついている作品の中では最も古いシリーズかな? と思います。
このシリーズは120話以上連載されていたようで現在も電子書籍で購入することもできるのですが、単行本 (TPB)に纏まっているのは3巻のみ(少なくとも現時点で電子版が購入できるのは)のようです。ということで、Vol. 1~Vol. 3までを読んでいこうかなと思います。


【基本情報】
Writers: Jordan Gorfinkel, Chuck Dixon
Artists: Matt Haley, Gary Frank, Various, Greg Land, Dick Giordano
Cover by: Matt Haley, Wade Von Grawbadger

発行年 2015年(※単行本の発行年です)

公式サイトはこちら。



このVol. 1はBarbara Gordon (バーバラ・ゴードン、オラクル)とDinah Lance (ダイナ・ランス、ブラックキャナリー)とがコンビを組んで活動し始める話です。タイトルは"Birds of Prey"ですが、本人たちがチーム名を名乗っているシーンはまだなかったように思います。

バーバラ・ゴードンは"Killing Joke" (感想はこちら)の事件で下半身が麻痺していますので、様々な情報を集め、ヒーローたちに提供することで司令塔となるOracle (オラクル)としての活躍です。Killing Jokeの事件以降、この"Birds of Prey"以前にもバーバラがオラクルとして活動した話はあるようなのですが(ファンサイトの情報による)、どちらかというとサポート的な役割だったようなのでチームの中心になった話はこの作品が初めてなのかな……と思います。
というわけで、Killing Joke事件についてのバーバラの思いがどこかで語られていないかなと思って読み始めたのですが、Vol. 1の最後にありました。これについてはネタバレを含みますので下に書きます。


バーバラとダイナが最初にチームを組む話なので、バーバラが「自分の代わりに動ける人材」としてダイナを選んだ理由も語られるのですが、
・高い格闘能力
・高い回復力
・今回のターゲットに好かれそうだから
・人生の目標を見失っていそうだから

が理由だったそうです。もうちょっと「人格的に素晴らしいから」といったことも言ってあげてください。
ダイナ(ブラックキャナリー)は特殊能力のCanary Cry(声により周りの人の動きを止めたり物を破壊する力)が使えない時期があったらしいのですが、この作品はその時期の話らしいです。
こんな理由でダイナをスカウトしたバーバラですが、何度か一緒に活動するうちにダイナのことを「友達」と認識するようになります。


面白いのはVol. 1全体を通して、ダイナはバーバラに一度も会っていないことです。ダイナは常にバーバラから送られてきたイヤホンなどの機器を通じて指示を受け、行動します。会ったこともない人の言うことを信じて危険な場所に行くなんてよくできるものだ……と思いますが、これはヒーローならではの自信からくるものかもしれません。
ただ、会ったこともないしオラクルの正体も知らないからか、バーバラの指示を聞かないこともしばしばあります。これは仕方ないですね。いくつかの事件に関わることで、ダイナもバーバラの指示とそこから垣間見える人格に信頼感を抱き、友情を感じ始めているようです。

読者にはバーバラの様子とダイナの様子が両方とも見えるのですが、一度徹底的にダイナの視点から描いた話を見てみたいと思いました。オラクルの存在はダイナの耳に聞こえてくる声だけで、後は延々ダイナの活躍を描く感じで。かなり異様な雰囲気になりそうな気がします。

また、Rebirthの"Batgirl and Birds of Prey" (感想はこちら)ではBirds of Preyはバーバラとダイナ、Helena Bertinelli (ヘレナ・ベルティネリ、ハントレス)の3人のチームである……という感じでしたが、この巻ではヘレナは登場しますがまだチームには入りません。
ダイナは、ヘレナが自分と同じ男に騙されていたという親近感を抱いているようですがバーバラは大変警戒しています。Rebirthの"Batgirl and Birds of Prey"ではバットマンから「ハントレスはチームに入れるな」というようなことを言われますが、彼女はそんなに危険人物なのでしょうか……マフィア一家の生き残りではありますけれど。このシリーズのVol. 3までの間にヘレナがチームに入るかどうか、楽しみにしていきたいと思います。

以下はネタバレを含む感想です。

***ここからネタバレ***

この巻の最終話、バーバラが敵に騙されて幻影を見る話は物悲しいものでした。
バーバラが見た幻覚は、バットガールとなってブラックキャナリー(ダイナ)と一緒に事件解決に奔走する――というもの。それが幻覚だと分かった後、敵に言われる

"YOU MADE IT EASY FOR ME. DID YOU KNOW THAT? YOU BOUGHT INTO MY ILLUSIONS BECAUSE YOU WANTED TO. FOR JUST A WHILE YOU WERE BATGIRL. PRETTY ABSURD FANTASY FOR A CRIPPLE, DON'TCHA THINK?"


「あんたを騙すのは簡単だった。分かってた? あんたは自分で望んで私の幻覚に乗ったんだ。ほんのちょっとの間、あんたはバットガールだった。障碍者がばかばかしい夢を見るもんだ、そう思うだろ?」

というセリフがまた悲しいです。バーバラは車いす生活をしていて自分に必要なことは一人で何でもできると描写されているのですが、やっぱり下半身が麻痺する前に戻りたいよね、それはそうだよね――と思いました。同様に幻覚の中で描かれる、ジョーカーへの恐怖感。"Killing Joke"の事件がバーバラの中でしっかりとトラウマになっていることを感じさせます。

バーバラはオラクルとして活動するときに使用するコンピューターのそばにバットガールの小さなぬいぐるみを置いていてそれを触りながらコンピューターをいじっていることがあるのですが、この幻覚のエピソードを見た後だと「どんな気持ちでバットガールのぬいぐるみを置いているんだろう」と考えずにはいられません。
お守り的な意味合いで置いているのか、過去を懐かしむ気持ちで置いているのか。いっそ捨ててしまいたくなったことはないのか。

Killing Joke事件の後、オラクルとして活動を始めたバーバラは精神的に立ち直ったように見えます。それでも、心の中のセンシティブな部分をつつかれるとやはりいろいろな気持ちが渦巻き始めるのだな――と感じさせるエピソードでした。