"Batman: No Man's Land"の最終巻です。一冊約500ページの超大作。読み始める前は全部読めるかどうか不安でしたが、読めました。達成感がとてもあります。
ゴッサム市を襲った大地震の後、米政府はゴッサム市を放棄することを決断。住民にゴッサム市を離れるよう促し、市につながる橋を爆破する。しかし様々な事情で市外に移動できない住民、移動したがらない住民はゴッサム市に留まった。そして米政府の手を離れたゴッサム市はギャング団が縄張りを奪い合う無法地帯と化したのであった――というのがあらすじのこのシリーズ。短編を積み重ねる形で無法地帯のゴッサム市を描き出していきます。
このVol. 4、最終巻ということもあってか盛りだくさんの展開でした。その分ページを繰る手も早くなり、結構あっという間に読めてしまった印象です。
【基本情報】
Writers: Chuck Dixon, Devin Grayson, Dennis O'Neil, John Ostrander, Greg Rucka
Artists: Dale Eaglesham, Greg Land, Scott McDaniel, Roger Robinson, Craig Rousseau, Damion Scott
Cover by: Bill Sienkiewicz
発行年 2012年 (New Edition版)
公式サイトはこちら。
政府に見捨てられたゴッサム市ですが、まずレックス・ルーサーがゴッサム市をわがものにしようと入ってきて勝手に建造物などを建て始めます。バットマン(ブルース・ウェイン)もそれに呼応する形でウェイン・エンタープライズを動かして米政府に働きかけ、最終的に再びゴッサム市をアメリカ政府統治下におくことを政府に了承させることで事態は解決します。
政府に働きかけるためには世論が動くことが重要だったようで、これまでのエピソードでアズラエルがゴッサム市外に逃がした母娘や、ゴッサム市にこっそり来ていたジャーナリストなどの発言が政府の決断を促したようです。 めでたしめでたし。ということなのですが、一方のゴッサム市内ではこの時期にも様々な出来事が起きていました。
Vol. 4で描かれた主なエピソードは以下のようなものです。
・Two-Faceに捕らえられていたレニー・モントーヤのエピソード
・元警察のタカ派チームと合流したハントレスのエピソード
・一緒に活動するアズラエルとカサンドラ・ケインのエピソード
・最後の犠牲者のエピソード
以下、各エピソードについてネタバレを含む感想です。
政府に働きかけるためには世論が動くことが重要だったようで、これまでのエピソードでアズラエルがゴッサム市外に逃がした母娘や、ゴッサム市にこっそり来ていたジャーナリストなどの発言が政府の決断を促したようです。 めでたしめでたし。ということなのですが、一方のゴッサム市内ではこの時期にも様々な出来事が起きていました。
Vol. 4で描かれた主なエピソードは以下のようなものです。
・Two-Faceに捕らえられていたレニー・モントーヤのエピソード
・元警察のタカ派チームと合流したハントレスのエピソード
・一緒に活動するアズラエルとカサンドラ・ケインのエピソード
・最後の犠牲者のエピソード
以下、各エピソードについてネタバレを含む感想です。
***ここからネタバレ***
さて、5か月の監禁期間ののちにTwo-Faceはゴードン本部長の住まいを襲い彼を誘拐してきます。ゴードン本部長とTwo-Faceはお互いに協力するという約束をしていたのですが、本部長がそれを守らなかったといって裁判を始めるといい始めます。さすが、もともとは検事のハーヴィー・デントだったTwo-Faceです。そして、ゴードン本部長が有罪になった場合は死刑、無罪になった場合は自分が捕らえられるということにします。 始まる裁判は、ある種の茶番劇です。Two-Faceはレニーとゴードンそれぞれから証言をとり、ゴードンが有罪であると宣告するのですが、しかしここには弁護人がいません。ゴードンは自ら弁護しようとし、レニーも弁護しようとしますが、いずれも資格がないと言ってTwo-Faceは退けます。
この場にいる3人の中で、弁護士として活動できる資格を持つのはTwo-Faceだけです。そこでゴードンはTwo-Face……というよりもハーヴィー・デントに、自分の弁護をするように迫ります。
結果、裁判はどうなるか。奇妙なことですが、Two-Faceはハーヴィー・デントにいくつもの質問をし、ゴードンが無罪であることを立証してしまいます。この結果ゴードンとレニーは解放され、逆にTwo-Faceが収監されることになります。
このおかしな裁判は、ゴードンが無罪になることでただの茶番劇に陥ることを免れました。Two-Faceが開く法廷で、Two-Faceが有罪無罪を決める裁判なのですからゴードンを有罪にすることもできたはず……と言いますか、裁判などと面倒な手続きを踏まなくてもTwo-Faceはいつでもゴードンを殺せたはずなのです。Two-Faceがわざわざ裁判を開き、わざわざ自分でゴードンの弁護をし、彼を無罪にしたのは結局のところTwo-Faceの
そして、彼らが支配している地域へのジョーカーの襲撃。Petitはジョーカーの目論見どおりに倒され、ハントレスが一人、一般住民を守るためにジョーカー部隊に立ちはだかります。
さて、彼女がバットマンを失望させたときのことをここで思い出してみましょう。彼女は一人でバットマンの支配する地域を守るよう託されたものの、守り切れず、一般市民を死なせてしまったことでバットマンからの信頼を失い、バットガールでもなくなったのでした。 彼女は今回は同じ轍を踏みません。迫りくるジョーカーの部下たちの前に一人立ちはだかり、人々を守り続けます。ぼろぼろになっても戦い続ける彼女の姿は胸を打ちます。
そして、彼女がとうとう殺されそうになった時にバットマンとナイトウィングが駆け付けるのでした。 最初にバットマンを失望させたときと比較して読むと、ハントレスの成長物語としても読むことができます。いずれにせよ彼女は、以前は守れなかった一般住民を今回は守ることができたのでした。 これは彼女が、以前の失敗を強く後悔していたからだろうなと思いました。前回の失敗時にはバットマン相手には「相手が大人数だったからどうしようもなかった」といったことを言っていた彼女ですが、一般住民を死なせてしまったのは厳然たる事実です。
今回一般の人たちを死なせなかったことで、彼女はようやくあの時の後悔から解放されるのかなと思います。
Two-Faceに捕らえられていたレニー・モントーヤのエピソード
Vol. 2でTwo-Faceに捕らえられていたレニー・モントーヤですが、Vol. 3では何事もなかったかのように戻ってきていました。このVol. 4でようやく! 何があったのか描かれています。 レニー・モントーヤはもともとゴッサム市警のゴードン本部長の使いでTwo-Faceに会いに行き、そこで捕らえられていたのでした。彼女の家族も同様に捕らえられ、5か月もの間監禁されていたようです。もっとも、身体的な危害を加えられることは特になく、ある種安全な環境ではあった(外が危険な環境なので)ですが、監禁には変わりがありません。 誰がどう見てもTwo-Faceはレニーに好意を持っている状態でしたが、この状況でレニーのお母さんが彼女に言うセリフに何だかなあと思いました。「彼はお前のことが好きなんだよ、レニー。(中略)とっても寂しい人に違いない……」 このレニーのお母さん、のちにレニーがレズビアンであることが分かったときに「地獄に落ちる」と言ってレニーを絶縁するのですよねえ。信仰とはそういうものかもしれませんし、No Man's Landという異常な状況であることも加味しなければいけませんけれど、 どう考えても娘のパートナーとしてはTwo-FaceよりDaria(絶縁された当時のレニーのガールフレンド)の方がいいだろー! と思ってしまいました。"HE LIKES YOU, RENEE." (中略) "I THINK HE MUST BE A VERY LONELY MAN..."
さて、5か月の監禁期間ののちにTwo-Faceはゴードン本部長の住まいを襲い彼を誘拐してきます。ゴードン本部長とTwo-Faceはお互いに協力するという約束をしていたのですが、本部長がそれを守らなかったといって裁判を始めるといい始めます。さすが、もともとは検事のハーヴィー・デントだったTwo-Faceです。そして、ゴードン本部長が有罪になった場合は死刑、無罪になった場合は自分が捕らえられるということにします。 始まる裁判は、ある種の茶番劇です。Two-Faceはレニーとゴードンそれぞれから証言をとり、ゴードンが有罪であると宣告するのですが、しかしここには弁護人がいません。ゴードンは自ら弁護しようとし、レニーも弁護しようとしますが、いずれも資格がないと言ってTwo-Faceは退けます。
この場にいる3人の中で、弁護士として活動できる資格を持つのはTwo-Faceだけです。そこでゴードンはTwo-Face……というよりもハーヴィー・デントに、自分の弁護をするように迫ります。
結果、裁判はどうなるか。奇妙なことですが、Two-Faceはハーヴィー・デントにいくつもの質問をし、ゴードンが無罪であることを立証してしまいます。この結果ゴードンとレニーは解放され、逆にTwo-Faceが収監されることになります。
このおかしな裁判は、ゴードンが無罪になることでただの茶番劇に陥ることを免れました。Two-Faceが開く法廷で、Two-Faceが有罪無罪を決める裁判なのですからゴードンを有罪にすることもできたはず……と言いますか、裁判などと面倒な手続きを踏まなくてもTwo-Faceはいつでもゴードンを殺せたはずなのです。Two-Faceがわざわざ裁判を開き、わざわざ自分でゴードンの弁護をし、彼を無罪にしたのは結局のところTwo-Faceの
「私は法律を愛していた」 というのが嘘ではなかったということだとは思います。なんとなく、Two-Faceは法律家である自分というアイデンティティに縛られて勝手に自爆していったという印象を受けました。"I USED TO LOVE THE LAW."
元警察のタカ派チームと合流したハントレスのエピソード
ハントレスはこの No Man's Landの物語で一時はバットガールとして活動していましたが、バットマンの指示に応えきれずバットガールではなくなり、バットファミリーからも外れています。彼女は元警察のタカ派、Petitに率いられたチームに合流し彼らと行動を共にしていました。しかし、Petitが次第に迷走していくため彼女は「行動を共にする」というよりは「いざという時のPetitの暴走を止める」ためにチームに留まるようになります。そして、彼らが支配している地域へのジョーカーの襲撃。Petitはジョーカーの目論見どおりに倒され、ハントレスが一人、一般住民を守るためにジョーカー部隊に立ちはだかります。
さて、彼女がバットマンを失望させたときのことをここで思い出してみましょう。彼女は一人でバットマンの支配する地域を守るよう託されたものの、守り切れず、一般市民を死なせてしまったことでバットマンからの信頼を失い、バットガールでもなくなったのでした。 彼女は今回は同じ轍を踏みません。迫りくるジョーカーの部下たちの前に一人立ちはだかり、人々を守り続けます。ぼろぼろになっても戦い続ける彼女の姿は胸を打ちます。
そして、彼女がとうとう殺されそうになった時にバットマンとナイトウィングが駆け付けるのでした。 最初にバットマンを失望させたときと比較して読むと、ハントレスの成長物語としても読むことができます。いずれにせよ彼女は、以前は守れなかった一般住民を今回は守ることができたのでした。 これは彼女が、以前の失敗を強く後悔していたからだろうなと思いました。前回の失敗時にはバットマン相手には「相手が大人数だったからどうしようもなかった」といったことを言っていた彼女ですが、一般住民を死なせてしまったのは厳然たる事実です。
今回一般の人たちを死なせなかったことで、彼女はようやくあの時の後悔から解放されるのかなと思います。