2019年4月17日水曜日

Batman: The Killing Joke 感想

 Batgirl and the Birds of Prey (感想はこちら)を読んでバーバラ・ゴードン(ゴッサム市警のゴードン本部長の娘、バットガール)のことが気になってきたので、彼女の人生の中の大きな事件を描いたこの作品を読んでみました。


【基本情報】
Writers: Brian Bolland, Alan Moore
Penciller: Brian Bolland
Inker: Brian Bolland
Colorist: Brian Bolland
発行年 2013年 (作品が描かれたのは1988年)

公式サイトはこちら。



結論から言うと。
バーバラ・ゴードンのファンで、彼女に起きた悲劇がどう描かれているかを知りたい人はあえてこの話を読まなくてもいいのではないかという作品でした。作中のエピソードで最も甚大な被害を受けるメインキャラクターなのですが、彼女についてさほど語られるわけでもなく、彼女の気持ちが描かれるわけでもありません。彼女はストーリーの本筋からは蚊帳の外に置かれています。

この事件で、バーバラ・ゴードンはジョーカーに撃たれて下半身が麻痺したということだけ分かっておけば十分です。彼女が撃たれたのも、ジョーカーが彼女に恨みを持っていた、とか、憎んでいたとかいった理由ではありませんし。

ではなにが描かれているかというと、バットマンとジョーカー、ゴードン本部長の間にある境界のようなものが描かれていると思います。

(※2019/07/11追記
この事件が起きたことによるバーバラの変化やその気持ちを描いた作品としては
The Brave and The Bold (2007-2010) #33 (感想はこちら
The Batman Chronicles #5 (感想はこちら
がおすすめです。)




以下、ネタバレを含む感想です。

***ここからネタバレ***

あちら側とこちら側の話だと思いました。
ジョーカーはバットマンにつかまるとArkhamに収容されます。これは犯罪者を収容する精神病院で、要するにジョーカーは狂気のもとに犯罪を犯すので通常の刑務所ではなくここに収容されるのです。

一方、ゴッサム市警のゴードン本部長は正気の人です。しかし、正気と狂気はそれほど確かな境目があるものだろうか、紙一重なのではないか――という疑問をジョーカーは投げかけます。

ジョーカーの数々の作戦にも負けず正気を保ったゴードン本部長の姿は、自分が正気だと思っている読者にとっては救いです。しかしゴードンが正気でいられたのは、バットマンがジョーカーを妨害したからでそれがなければ正気ではいられなかったのでは――という気がします。狂気と正気はやはり紙一重で、ゴードンが正気のままでいられたのはたんなる偶然に過ぎないのではないかと。ほんの少しバットマンの到着が遅れていたら、ゴードンもジョーカーと同じ方に行ってしまっていたのではないかと。

そして、問題はバットマンです。バットマンは果たして正気の側の人なのか。むしろ狂気の側の人ではないのか。この物語の登場人物で正気の側の人はゴードン父娘だけなのではないか。明示的に描かれるわけではないのですが、そんな不安を読者に与えて終わる物語だと思いました。