Vol. 4に続き、Vol. 5を読みました。
【基本情報】
Writer: Marc Andreyko
Artists: Various, Jeremy Haun, Trevor McCarthy
Cover: Trevor McCarthy
発行年 2014年
公式サイトはこちら。
Vol.5は、前半はVol. 4に続きバットマンと対決しながらベスを取り戻すために頑張る話、真ん中にケイトがバットウーマンになる前の話を挟んで、後半はケイトが婚約者のマギー・ソーヤー (Maggie Sawyer)との関係を考え直す話になっています。
総合して、「家族の話」という印象の巻でした。
この中ではボリュームの少ない「ケイトがバットウーマンになる前の話」ですが、よくできている短編だと思います。
ケイトがまだ軍隊にいた頃、葬儀のためゴッサム市に戻ることになり従兄のブルース・ウェイン(バットマン)とも旧交を温める。その夜、ケイトは一人でこっそり家を抜け出しゴッサム市の平和を守るために活動しようとするのだった――というのがあらすじです。
バットウーマンになるなんて考えもしていない頃のケイトであっても、夜に抜け出して町のパトロールをするのだなという感慨がありました。ケイトは、何もせずにじっとしているということができないタイプだったのかもしれません。軍隊にいるときは訓練や勉強などで忙殺されているのでしょうが、いざ一日ぽっかりと時間が空いてみると何か「人々を守ること」をしようとせずにはいられないタイプのように見えました。
そんなわけで深夜ゴッサム市内に繰り出すケイトですが、勝手にブルースのバイクを持ち出して乗っていくのが妙に楽しいです。このケイトのパトロールは本当に市内の犯罪を食い止め人を助けることに貢献する結果になります。すべてが終わった後にブルースが返却されたバイクを見て「……しょうがないな」と言っていそうです。
以下、ネタバレを含む感想です。
***ここからネタバレ***
まず前半の話"This Blood Is Thick"は、バットウーマンがバットマンと戦いながらベスをDEOの手から取り戻そうとする話です。
これはベスを取り戻す話であると同時に、バットウーマンがバットマンとの信頼関係を築く話でもあります。ケイトはバットマンの存在に憧れてバットウーマンになったものの、勝手に活動していますしバットマンとの関係は必ずしも良くありません。お互い牽制しあっているような、そんな関係でした。
このエピソードでとにかくバットマンと対峙しなければならない、となったことで却ってバットマンとの間に信頼が生まれるということになります。また、バットマンはケイトに、
"YOU'RE SMARTER THAN YOU GIVE YOURSELF CREDIT FOR, KATE."
「君は自分で思っているより賢明だ、ケイト」
と語りかけます。
バットマンがケイトを高く評価していることが分かりますね。
2016年からのRebirth世界でバットウーマンはバットファミリーの一員になるのですが、こうした積み重ねの末にそういうことになったのかな……と思います。
それにしても、バットマンはバットウーマンの正体を知っていますが、ケイトはいつバットマンの正体を知ったのでしょうか。RebirthのDetective Comics Vol. 1 (感想はこちら)では「すでに知っている」という設定になっていたような気がします。
このエピソードの終わりで、ベスは無事にケイト一家のもとに戻りお父さんと一緒に治療(なにしろずっとカルト犯罪教団 Religion of Crimeにいたわけですから)を受けることになります。これはほっとできる展開でした。
さて、後半の話、"Webs"です。ヴィランとの戦いがあれこれあるのですけれども、印象に残ったのはケイトとマギー・ソーヤーの関係の変化でした。
Vol. 3-Vol. 4の展開で婚約者となったケイトとマギーですが、マギーには以前の夫との間に娘が一人います。ケイトとマギーの関係が変わるきっかけとなったのは、
・バットウーマンとして戦ってきたケイトが血まみれの姿をマギーの娘に見られ、怖がらせてしまう
・マギーの元夫が「ケイトと恋人であるなら娘の親権はマギーには渡さない」と言い始める
ということでした。物語の筋としては、ケイトはマギーの元夫に連絡して「マギーと別れる」と言い、マギーが娘と別れずにすむようにします。
ただ、ケイトがマギーと別れた理由は「娘を怖がらせてしまった」という方が大きいのかな――と思いました。ケイトがマギーに手紙で伝えた、「娘からお母さんを奪ってはいけない」という気持ちももちろん本心です。だから親権がマギーのもとに残るように身を引いたのですが、ケイトの財力を思えば親権の交渉は何とかなる(有能な弁護士を2、3人つけるとか)ような気がするのですよね。
それよりも、自分がバットウーマンとして活動している限り、小さな女の子を平和な環境で育てることが難しい、平和な環境で育てることを想像できない――というのが理由として大きかったのではないかなという気がします。
ケイト自身、小学生くらいの時に犯罪集団に誘拐されて母が殺されるという凄惨な経験をしています。そのことがケイトの心に深い影響を及ぼしていることはストーリーの中でも示唆されています。
バットウーマンとしての活動と、小さな女の子のお母さんのパートナーとしての生活の両立は難しい。優先すべきは小さな女の子の平和な生活とケイトが考えたのなら、それは分かるような気がすると思いました。