2019年7月27日土曜日

Batgirl (2011-2016) Vol. 3: Mindfields 感想

※Batgirl (2011-2016)の各巻感想へのリンクはこちら

※このシリーズの各巻感想は以下をご覧ください。

New52期バットガール誌、Brenden Fletcher, Cameron Stewart両氏の作品の最終巻を読みました。Vol. 2 (感想はこちら)のラストで描かれた不穏な気配がこの巻で大きく育ちクライマックスを迎えます。

【基本情報】
Writers: Brenden Fletcher, Cameron Stewart
Artist: Rob Hayes, Babs Tarr, Various, Ming Doyle, Moritat, Eleanora Carlini
Cover by: Babs Tarr
発行年 2016年

公式サイトはこちら。


前巻のラストでバットガール(バーバラ・ゴードン)の夢に現れた謎の人物。この悪夢はただの悪夢では終わらなかった。決して忘れることのない特殊な記憶力を持っているはずのバーバラだが、その記憶がゆっくりと不正確なものへと変わっていく。異変に気付いたバーバラはこれまで協力してきた仲間たちに助けを求めるのだった――というのがあらすじです。

この巻の印象としては、何しろにぎやかです。バーバラに協力してくれるメンバーとして、Spoiler(スポイラー、ステファニー・ブラウン)、Bluebird (ブルーバード、ハーパー・ロウ)、Black Canary(ブラックキャナリー、ダイナ・ランス)などの女性ヒーロー陣とBatwing (バットウィング、ルーク・フォックス)が登場します。

このメンバーの中でもスポイラーはこの巻の最初の方から登場して、持ち前の明るさで話の雰囲気を作っていきます。ストーリーを考え直してみると結構洒落にならないことが起きているのですが、明るく楽しく物語を読むことができるのは彼女の存在が大きいですね。

ダイナ・ランスはVol. 1(感想はこちら)の後ロックバンドのメンバーと一緒にツアーに出かけたはずですが(このツアーにまつわる諸々のエピソードが"Black Canary"誌(感想はこちら)に収録されています)、事情により戻ってきてバーバラに協力します。このバットガール誌に描かれている事件が終わった後、今度はブラックキャナリー誌の事件の解決に向けてバーバラに協力してもらう――という流れになっているのだと思います。

もともとバーバラとダイナはBirds of Preyでチームを組んでいた時からの仲良しですが、New52期の二人はいくつかの作品にまたがってひたすらイチャイチャしているような気がしなくもないです……この時期のDCのスタッフの中に、この二人を組み合わせるのが大好きな人がいたのでしょうか……。あるいはライターのBrenden Fletcher氏(Black Canary誌のライターでもあります)の趣味なのか……。


さて、前巻でバットガールのサポートメンバーになったFrankieも、引き続きバットガールをサポートし続けます。結局Frankieは情報分析および現地メンバーへの指示だしをするということでバーバラと折り合った模様です。彼女のコードネームはOperatorです。バーバラの記憶も、チップを埋め込む手術で下半身を動かせるようになったという事情もすべて知っているだけに心強いですね。彼女はRebirth期のバットガール誌にも登場するのですが、それも納得できます。いてくれると何かと安心ですから。


以下、ネタバレを含む感想です。


 

自分が一番強味にしているものがなくなっていくと不安だよね、とまず思いました。バーバラ・ゴードンは格闘も得意ですが、彼女の一番の武器はその記憶力でしょう。周囲の人も、彼女の記憶力は絶対だと思っているわけで、彼女が間違った記憶をもとに喋っていても彼女の方を信じてしまうわけで……。もともと忘れっぽい人の言うことだったらそこまで信用されないはずなのですが……。
今回の敵は彼女の記憶に侵入しそれを少しずつ壊したり改変したりしていくことで事態を混乱に導いていくわけですが、なるほど、それは上手いやり方だ――と思っていたら、そんな暢気な感想を抱いていられるような状況ではなくなってしまいました。


記憶の破壊は結局はアイデンティティの破壊へとつながっていきます。過去の記憶が失われたり改変されたりしてしまえば、周りの人とのつながりも断ち切られざるを得ないわけですから。そんな彼女を助けるために、これまで彼女が友情をはぐくんできた人たちが集まるという構図になっているというのはきれいな物語だなと思いました。


New52期のBatgirl誌はGail Simone氏のシリーズ(感想はこちら)が5巻、Brenden Fletcher, Cameron Stewart両氏のシリーズが3巻分出版されたという構成になっています。
Killing Joke (感想はこちら)事件以降、Oracleとして活躍していたバーバラ・ゴードンを再びバットガールとして活躍させるにあたってGail Simone氏がまず描いたのは犯罪被害者としてのバーバラの姿でした。これはとても誠実な選択だと思います。凄惨な事件を「なかったこと」にはしない、事件を踏まえたうえでバーバラが新しい人生を紡ぐという姿勢がきちんと現れていたと思います。James Gordon Jr.をきっちりと描いたのも、ゴードン家の抱える問題に向き合っていました。

しかし同時に、Gail Simone氏のシリーズが全般的に読後感が重かったというのも否定はできません。これは途中に挿入されるイベントの影響もあります。Death of the Familyが怖すぎました。

Brenden Fletcher, Cameron Stewart両氏のシリーズは、明るいテイストで包みながらこっそりと深刻な真相を紛れ込ませるという形で読後感の軽いバットガール誌を生み出したと思います。

この雰囲気がRebirth期のバットガール誌にも受け継がれていったのだなあ、と思いました。面白いシリーズでした。