2019年8月25日日曜日

Green Arrow (2011-2016): War of the Clans (DC Essential Edition) 感想

※この本に続く、Vol.7-9の感想はこちらです。

 Rebirth期のGreen Arrow(感想はこちら)に登場するGreen Arrow(グリーンアロー、オリバー・クイーン)の異母妹、Emiko Queenの初登場はNew52期でのGreen Arrow誌#18らしいというわけで、Green Arrow誌#17-34話が収録されているこちらのエディションを読んでみました。
なお、New52期Green Arrow誌にはBlack Canary (ブラックキャナリー、ダイナ・ランス)は登場しません。

【基本情報】
Writer: Jeff Lemire
Artists: Bill Sienkiewicz, Denys Cowan, Andrea Sorrentino
Cover by: Andrea Sorrentino

公式サイトはこちら。




オリバー・クイーンはヒーロー、グリーンアローとしてシアトルの人々の平和を守っていた。しかし、亡き父の後を継いで会社を管理しているEmersonが殺され、オリバーはその容疑者となる。汚名を晴らそうとするオリバーだったが、敵はクイーン社のビルを爆破しオリバーが頼れる相手を次々と失わせるのだった。オリバーは新しい協力者を得て敵に立ち向かおうとする。そんなオリバーの前に、亡き父がかつてオリバーに隠していた秘密が次々に明らかになるのだった――というのがあらすじです。

オリバーの父(ロバート・クイーン)の秘密その一は、彼は仲間と組んで魔力を持つ秘密の矢"Green Arrow"を探していたこと。この矢を持つものはClan (一族)のリーダーとしてOutsidersと呼ばれる組織の幹部になれるそうです。
ちなみに矢以外にも剣のClan、斧のClan、拳のClanなどが存在します。剣のClanを束ねるリーダーになるために必要な秘密の剣は、ヒーロー、Katanaさんの持つ魔剣Soultakerだそうで、Katanaさんも話の後半に登場してきます。

余談ですがこの本のKatanaさんのデザインはこれまでいくつかの本で見たKatanaさんの中で一番よくできていると思いました。基本デザインは変わらないのですが。仮面の質感的なものを感じさせるのがいいのかもしれません。

さて、オリバーの父の秘密その二は、妻と息子に隠してある女性と深い関係になり、彼女との間に子供をもうけたことです。この女性が弓術のスペシャリストShadoで、娘がEmiko Queenになります。
Rebirth期のGreen Arrowに登場するEmikoはShadoにあまり似てないなと思っていたのですが、この作品のEmikoはShadoにとても良く似ています。もはや瓜二つという勢いです。戦闘モードに入ると二人とも目だけを出して鼻から下はマスクで隠すものですから、コマによってどちらを描いているか分からなくなることがあります。

このEmiko Queen、オリバーの父とShadoの娘ですが父の敵であるKomodoに取り上げられ彼のもとで育ったという設定になっています。オリバーの父はKomodoが殺し、ShadoはKomodoの策略で監禁されていました。KomodoはEmikoに
・EmikoはKomodoの子である
・母のShadoはロバート・クイーンに殺された
と教え込み、弓術を仕込んでいきます。話の中でEmikoは母のShadoが生きていることに気づき、さらにShadoの姿を見て自分の母だと確信するわけですが――うん、これだけそっくりならすぐに母と分かるよね――と納得できるそっくり加減でした。ここであんまり似てないと「お母さん……かな……?」となって話のテンポが落ちますからね。
Rebirth期のEmikoは髪をショートにしてカラーリングした結果あまりShadoと似てない雰囲気になりましたが、髪を戻すとまた似てくるのかもしれません。


以下、ネタバレを含む感想です。

***ここからネタバレ***


親の優しい嘘から巣立つ子供たちの話でした。

オリバーはもともと裕福な家庭で何不自由ないお坊ちゃんとして育ちましたが、ある無人島に漂流したのがきっかけで弓の腕前を鍛え、シアトルに帰還したのちにGreen Arrowとして活躍を始めます。実はそれは父の策略だった、と物語は明らかにします。オリバーの父ロバートはいずれKomodoがオリバーを殺しに来るのを見越してこんなことをしたのでした。

それを知ってオリバーは激怒します。だいたい、母と自分に黙ってShadoと恋愛関係になっていたことにも怒っています。それはそうですね。文句の一つや二つ、三つや四つ言ってもいいことです。
そして、父がひそかに自分を鍛えていたこともオリバーは許しません。父は「いいことをした」と思っている節があるのですが、父が自分に教えたのは憎しみだけだとオリバーは言います。そして、自分がヒーローになっているのは母の愛のおかげだと主張します。

この主張には根拠があります。ゴッサム市が大停電に陥ったというエピソードが描かれているのですが、その時オリバーの母はゴッサムを助けに向かうのですね。オリバーはその姿を見て母を助けますので、母の姿からヒーローとしての人々への献身を学んだといわれても納得できます。

オリバーの父がしたことは、息子のためと言いつつ自己満足でしかなかったのかもしれません。

一方のEmikoは、Komodoが自分の父であると騙されてずっと育ってきました。KomodoがEmikoを育てていた(一応は優しく育てていたように見える)のはオリバーの父とShadoへの復讐でしかなかったと想像できます。だからこそ物語の終盤でEmikoの命を奪おうとすることにも躊躇がありませんでした。

EmikoはKomodoが死んだあと一旦は母のShadoと暮らすのですが、すぐにオリバーのもとへとやってきます。「Shadoは嘘ばかりだ」というのがその理由です。

オリバーとEmikoは年齢こそ違いますが、親世代に様々に騙され、真実から遠ざけられていたという点は同じです。そんな二人が「嘘をついていない」という一点で互いのことを信頼し、共に戦うようになります。

異母兄妹の関係はなかなか難しいものだと思いますが(特に本妻の子は愛人の存在を許容しづらいでしょうから)、「親に騙されていた」という共通の経験を持って結束するというのはいいアイディアだと思いました。

New52期Green Arrow誌は更に続くようですし、Emikoも登場するようですので今後も二人の共闘の話が読めそうで楽しみです。