2019年5月25日土曜日

Batman: Arkham: Poison Ivy 感想

Batman: Arkham: Poison Ivyという本を読みました。過去のPoizon Ivy(ポイズン・アイビー)登場エピソードの傑作選です。

【基本情報】
Writers: Marc Andreyko, John Francis Moore, Gerry Conway, Robert Kanigher, Various
Artists: Various, P. Craig Russell, Guillem March, Javier Pina, Duncan Fegredo, Brian Apthorp, Irv Novick
Cover by: Guillem March

発行年:2016年

公式サイトはこちら。


1966年から2013年までのエピソードが収録されています。昔の作品ほどアイビーのバットマン(ブルース・ウェイン)への執着が強いという印象を受けました。

この本の中の複数のエピソードでポイズン・アイビーの基本的な設定について描かれていますが、大まかに言うと「もともと優秀な植物学の研究者であったDr. Pamela Lillian Isleyは、指導教授に騙され薬品を投与される。その結果、植物と毒物を自在に操るポイズン・アイビーへと変貌した」というのが大体の流れになっています。

細かいバリエーションは様々にあるようでして、教授が薬品を投与する理由も「殺そうとして」あるいは「実験のため」などいろいろです。幼少期を過ごした家庭環境に関しても少しずつ変化しているようです。

そして、初期の作品ほど彼女の能力の中でも「フェロモンを使って男性を操る能力」とくに「キスをして男性を操る能力」に重点を置いている傾向にあり、その能力の通用しないバットマンにアイビーが執着する――ということになっていたようです。

筆者のポイズン・アイビー像はGotham City Sirens (感想はこちら)の中の、ハーレイやキャットウーマンと同居してわいわいやっているイメージが強いので、バットマンに執着するアイビーは新鮮でした。もっとも、バットマンというシリーズに登場する悪役キャラクターなのですから主人公に執着するほうが自然かもしれません。


いくつもの作品が収録されていたのですが、最も強く印象に残ったのは元々Batman: Legends of the Dark Knight (1993)という本に収録されていた"Hot House"というエピソードと、Batman: Poison Ivy #1 (1997)というエピソードでした。以下、各話について簡単に感想を書いていきます。

Hot House

Ian Spencerの助けによりゴッサム大学で植物学の研究を行っていたポイズン・アイビーだったが、彼が殺されたことでバットマンは疑いの目を彼女に向ける。彼女は、「医師の治療により自分のホルモンバランスの異常が治り、ポイズン・アイビーとしての能力を失った」と主張する。果たしてアイビーは本当に能力を失ったのか。そして犯人は誰なのか……というのがあらすじです。

殺人事件を主題としたミステリーらしく、話が二転三転するのが大変面白かったです。事件関係者がみんな怪しい雰囲気な点も、真犯人の推測を分かりにくくします。全体的にかわいらしい絵柄ながら、どろりとした感情の描かれた物語です。

Batman: Poison Ivy #1

スケールの大きな物語です。

Arkamを脱出したポイズン・アイビーは、ある孤島で草や木を育て、岩肌ばかりだった島を緑の島へと生まれ変わらせようとする。しかし、武器商人たちがその島に爆弾を落とし、島は一瞬にして壊滅状態となる。復讐のためアイビーはゴッサム市に舞い戻るのだった……というのがあらすじです。

バットマンは、武器商人の黒幕たちの罪を暴きながらもアイビーを止めようとします。一方アイビーは、復讐のために彼らを殺そうとします。その対立も見どころです。

これがもし、怪獣映画であったなら。平和な島を襲われて怒った怪獣がアメリカに上陸、アメリカで大暴れする――というようなストーリーになっていたはずです。
しかしポイズン・アイビーは特殊能力を持つものの残念ながら人間サイズであり、警察や軍隊をものともせず大暴れということができません。バットマンの力がなければ犯人たちに追い詰められることもある存在です。
アイビーは普通の人間ではなくなってしまった存在ですが、ゴジラのような怪獣にまで変貌しているわけではありません。しかしこういう時はいっそ人間らしさを失ってしまっていたほうが気持ちよく暴れられるのかなとおもいました。

もっと大暴れしてしまえ、アイビー、と読み進んでいったのですがこのストーリーでは都市丸ごとの破壊活動に走ることもなく、バットマンに妥協して犯人たちを比較的穏やかに追い詰めます。

エピソードによってはビルをがんがん壊して暴れまわることのあるアイビーですが、この話ではバットマンとの人間関係のほうを優先した模様です。そのあたりも、彼女が怪獣になり切れないところだと思います(※バットマン側がアイビーと人間関係を築いたと思っているかどうかは不明)。



なお、この本で唯一残念なところは"Gotham Central" BOOK 4 (感想はこちら……アイビーのことには触れていませんが)のポイズン・アイビー登場回が収録されていないことです。短いですし、一話完結でそれだけで読めますし、アイビーの個性が際立つ話ですし、ぜひ収録してもらいたかったです。

※2019/05/26追記
Gotham Central #32のポイズン・アイビーのエピソードの感想を書きました。こちらの記事です。