※Wonder Woman (1987-2006)の各シリーズの感想はこちらをご覧ください。
【基本情報】
Writer: William Messner-Loebs
Artist: Mike Deodato
Cover by: Mike Deodato
発行年 2016年 (連載されていたのは1994年頃)
公式サイトはこちら。
数か月ぶりにセミッシラ島に帰還したダイアナ(ワンダーウーマン)だったが、アマゾン族は10年間におよぶ苦難の経験をしていたらしく母である女王ヒッポリタの様子が少しおかしかった。ヒッポリタはダイアナがアマゾン族の大使としてふさわしいかどうか、コンテストをやり直すと宣言する。コンテストにはセミッシラから離れて生きていたが最近セミッシラに住むようになったアマゾン族、アルテミスも参加した。そしてコンテストの結果、アルテミスが勝利し新しいワンダーウーマンとしてアメリカに赴く。ダイアナも失意のうちにアメリカに戻るが、そんな折、ボストンではダイアナの敵たちが蠢き始めていたのだった――というのがあらすじです。
話のポイントとしては、まずアルテミスが新しいワンダーウーマンになるということが挙げられます。アルテミスの性格は簡単に言って、「粗にして野だが卑ではない」というものです。良くも悪くも武人であって、乱暴なところはあっても無意味に誰かを傷つけるということはありません。
ダイアナは高貴で優しい性格ですので対照的に見えますが、アルテミスもそんなに悪い人というわけではなさそうに見えます。
彼女のワンダーウーマンとしての仕事ははっきりいってうまくいかないのですが、後述する彼女がこれまで育ってきた環境も含めて「運が悪かった」という印象が強いです。怪しげなコンサルタントみたいな人たちにもつけこまれていますし。
最終的にはダイアナとアルテミス、二人が強大な敵の前に共闘する展開になります。これは熱いです。個人的にはこの一連のエピソードを大河ドラマで一年かけてじっくり見たいという気持ちになりました。
なお、アルテミスを含めた「セミッシラを離れていたアマゾン族」の設定ですが。
ダイアナの叔母、アンティオペがセミッシラを離れ新天地を求めた時についていったアマゾン族たち、なのだそうです。しかしセミッシラの外では困窮を極め、魔女キルケに騙されたこともあってセミッシラのアマゾン族への怒りを抱えています。そしてセミッシラのアマゾン族との戦いを経て、色々あった末に現在はセミッシラの一部の地域に住んでいます。しかしそこも土地が痩せていて苦労の多い日々を送っているようです。
アルテミスがコンテストに参加した理由も、「最終的にはダイアナが優勝するだろうが、コンテストで少しでもいい成績を修めればセミッシラのアマゾン族たちに自分たちのことを評価させることができるから」というものでした。この気持ちはわかる気がします。
以下、ネタバレを含む感想です。話の核心部分までネタバレしています。
この話、陰の主役はダイアナの母でありアマゾン族の女王ヒッポリタさんです。
・そもそもアンティオペが島を離れる原因を作ったのはヒッポリタ。アンティオペは島を出ていきたいわけではなかった。
・ワンダーウーマンの座をアルテミスに譲らせたのは、「ワンダーウーマンが死ぬ」という予知夢を見たため、ダイアナを守りたかったから。コンテストでアルテミスが優勝するよう操作した。ワンダーウーマンとなったアルテミスは予知夢の通りに話の終盤で死亡した。
というわけで、この一連のエピソードのごたごたの原因はすべてヒッポリタさんにあると言っても過言ではありません。
New52期のワンダーウーマン誌(感想はこちら)でもそうでしたが、ヒッポリタは娘に隠し事をする母として描かれているのでしょうか。そもそも子供に隠し事をしない親はいないので、ダイアナが旅立ってしまったために真実を告げるタイミングを失ってしまったとも言えますが。
読んでいて残念なのはヒッポリタが弱い人として描かれていることです。アルテミスをワンダーウーマンにしたことの真相がダイアナに発覚しても、開き直るくらいの強い人として描いてほしかった――のは、完全に筆者の好みです。しかし娘を守るために陰謀を張り巡らせるなら、そのぐらいの気持ちの強さは必要だと思うのですよ。