2019年10月14日月曜日

Wonder Woman (2006-2011): The Circle, Ends of the Earth, Rise of the Olympian, Warkiller 感想

※Wonder Woman (2006-2011)の各シリーズの感想はこちらをご覧ください。

※このシリーズの各巻感想は以下をご覧ください。

タイトルが長いですがこれは一冊の本ではなく、2006年-2011年のワンダーウーマン誌でGail Simone氏がメインライターを務めたシリーズの単行本4冊のサブタイトルを並べています。もう1冊、Contagionというサブタイトルの単行本が発売されていまして、この5冊でこのシリーズは完結するようです。ナンバリングがないので分かりにくいですが、

The Circle

Ends of the Earth

Rise of the Olympian

Warkiller

Contagion

という順番になっています。Birds of Prey誌(感想はこちら)やBatgirl誌(感想はこちら)のメインライターを務めていたGail Simone氏ですので、このワンダーウーマン誌も面白いに違いない! まとめ買いしよう! と思ったはいいものの、最終巻にあたるContagionを買い忘れるという痛恨のミスを犯したため、まずは最初の4冊分の感想です。

【基本情報】
Writer: Gail Simone, Geoff Johns
Pencillers: Ron Randall, Bernard Chang, Aaron Lopresti
Letters: Travis Lanham, DC Lettering
Inkers: Bernard Chang, Ron Randall, Jonathan Holdredge, Aaron Lopresti, Matt Ryan, Hi-Fi
Colorists: Bernard Chang, Brad Anderson, Francis Manapul, Cary Nord, Marcos Martín, Scott Kolins
Cover by: Brian Buccellato, Hi-Fi , Marcos Martín, Scott Kolins, Bernard Chang, Aaron Lopresti, Joshua Middleton
発行年 2008年-2010年

公式サイトはこちら (The Circle)。



かなり特殊な設定で始まるワンダーウーマンの物語です。正直、最初の2冊The CircleとEnd of the Earthは「なんか慣れないなこの設定」と思っている間に読み終わってしまいました。
このGail Simone氏のシリーズの前に展開していたシリーズ(※単行本が電子書籍化されていません)での展開を引き継いでいるようなのですが、読んでわかったことをまとめると、

・ワンダーウーマン(ダイアナ)の故郷、セミッシラには今はアマゾン族がほとんど住んでいない。残っているのはダイアナの母、ヒッポリタ女王と他の数人だけで、残りのアマゾン族たちは島を離れて流浪の民になってしまっているようである。

・ワンダーウーマンはアマゾン族の大使としてではなく、正体を隠してアメリカの政府組織のエージェントとして活動している。アマゾン族自体が政府からの警戒の対象となっているようである。

・アマゾン族が信仰していた古代ギリシアの神々はアマゾン族を見捨てたようである。アマゾン達がセミッシラ島に住めなくなってしまったのもそのためのようだ。

・ダイアナはエージェント仲間のThomas Tresser といい雰囲気になっている。

……となります。何があったんだ。
Gail Simone氏のこのシリーズはダイアナにとっては助けの少ないこの状況を背景にしながら、彼女が少しずつセミッシラ島をあるべき姿に戻すために歩んでいく姿を描いていきます。いくつもの短編や中編で物語を綴っていきますので、ギャグ風味の強いものもありますし、とてもシリアスなものもあります。全体的にはシリアス風味でしょうか。

The Rise of Olympianで強敵のGenocideが現れたり、WarkillerでBlack Canary (ブラックキャナリー、ダイナ・ランス)と共に敵を探して日本に来たりする辺りから物語は加速し、Warkillerの終盤でこれまでのことにある一定の解決がなされます。といっても、最終巻Contagionに向けて不穏な種がきちんとまかれています。
Warkillerの終盤ではセミッシラ島が舞台になるのですが、Artemis(アルテミス)が登場した上にかなり活躍するのがうれしかったです。初登場時はダイアナといろいろあった(感想はこちら)彼女ですが、もはやすっかりダイアナとの信頼関係を築いている模様です。
また、ドナ・トロイも登場します。この作品の中でダイアナとはいろいろあるのですが、最終的にはダイアナと和解し、アルテミスの指示を受けて頑張る彼女。ダイアナの仲間たちが一丸となって戦うのはいいですね。


さて、いくつものエピソードの中で、シリーズ全体を貫く軸となっているのがAlkyoneのエピソードでした。彼女はアマゾン族の女王ヒッポリタに選ばれ女王の個人的な警護部隊の隊長となっていました。彼女は女王を強く愛していましたが、ヒッポリタがダイアナを産み出した(この作品のダイアナは土から作られたという設定です)ことで「女王に裏切られた」と反発。ダイアナを殺そうとするも失敗し投獄され、他のアマゾン族が流浪の民となったのちもずっとセミッシラ島の牢獄に留まっていた――というキャラクターです。

彼女の憎しみは常にダイアナに向けられます。彼女にとって、ダイアナは生まれたことそのものが罪です。果たして彼女は、くるくると変わる事態にどう対応しどんな形でダイアナに復讐するのか――というのが見どころになっています。

以下、ネタバレを含む感想です。


 
上記Aklyoneのエピソードで軸になるのが「子供を産む」ということです。不老不死であるアマゾン族には子供は生まれません。Alkyoneはアマゾン族の一人一人がもつ、「子供が欲しい」という願いそのものを警戒しているようです。彼女自身は「誰か一人が子供を持ったら、その誰かは他のアマゾン族から強い嫉妬を向けられトラブルのもととなる」という理由で警戒していると語っているのですが、果たしてそれが本当の理由なのかどうか。

そしてヒッポリタがダイアナを産み出したことで彼女はダイアナを殺そうとするのですが、そもそもヒッポリタはなぜダイアナを産み出そうとしたのか。ちょうどそのころ、ヒッポリタ以外のアマゾン族の一人も子供を持ちたいと思い、人形を自分の子供だと思ってしまったようなのですがなぜそんな現象が起きていたのか。


さらに、ダイアナがエージェント仲間のThomas Tresserと結婚すると言ってセミッシラ島を二人で訪れ、ヒッポリタに彼を紹介した時、ヒッポリタは二人に望むこととして
"BABIES, BABIES, BABIES."
と言います。
またダイアナ自身、「子供が欲しいから」という理由で彼と結婚を決めたらしく、実は彼のことを愛していたわけではないと後に判明します。当然、結婚は破綻します。

ダイアナの結婚のころはアマゾン族の多くが島に戻れない状態でしたので、とにかく子供を作ってアマゾン族を絶やさないようにしなければ――とダイアナが思ったとしても分かる気はします。

しかし、そもそもダイアナを作り出した時のヒッポリタが何を思っていたのかは謎です。Alkyoneは「子供を持ちたい」という気持ち自体を"Plague (疫病)"と表現しています。はたしてアマゾン族にとって「子供を持ちたい」という望みは何なのか。


物語の中盤、セミッシラ島に帰れないでいたアマゾン族たちが少しずつ帰還します。その中の幾人かは妊娠していて、さまよっているうちに男性との接触を持ったのだろう――と思われましたが、そうではなく彼女たちの子は戦神アレスの子であり、彼女たちはアレスの子を妊娠した自分たちを呪うことになります。
物語の中で、子供を産む、妊娠するということが必ずしもポジティブに描かれているというわけでもありません。

このあたりのことについて、きっと最終巻にあたるContagionで描かれると思うので期待したいです。