2022年1月19日水曜日

Batgirl (2016-) Vol. 8: The Joker War 感想 -変わっていく人と、物足りなさと-

※このシリーズの各巻感想はこちらをご覧ください。


  2016年から始まったBatgirl誌のVol. 8を読みました。Rebirth期Batgirl誌の最終巻になります。本筋の最終話までの物語に加えて、おまけ漫画的な短編が2編収録されています。日本で言うところの単行本書き下ろしに相当するのでしょうか。

 Batgirl (バットガール、バーバラ・ゴードン)がBirds of PreyのメンバーであるHuntress (ハントレス、ヘレナ・べルティネリ)、Black Canary (ブラックキャナリー、ダイナ・ランス)と、かつてはバットガールというヒーロー名で活動したこともあるSpoiler (スポイラー、ステファニー・ブラウン)、Orphan (オーファン、カサンドラ・ケイン)の4人を呼んで一緒にゲームに興じる短編が好きです。

 

【基本情報】
Writer: CecilCastellucci
Artists: Carmine Di Giandomenico, Robbi Rodriguez, Emanuela Lupacchino, Marguerite Sauvage, Aneke, Wade Von Grawbadger, Mick Gray, Scott Hanna
Colorists: Jordie Bellaire, Marguerite Sauvage, Trish Mulvihill
Letteres: Andworld Design, Becca Carey
Cover: Joshua Middleton
発行年 2021年


公式サイトはこちら。



 サブタイトルのThe Joker Warは同時期に連載されていたイベントの名称で、Batman (バットマン、ブルース・ウェイン)の宿敵であるジョーカーがブルースの財産を奪い、ゴッサムを支配しようとした事件を指しているようです。この余波はBatgirl誌にも降りかかり、この巻での主なバーバラの仕事はジョーカーに対峙することと、Joker Warの結果荒れ果てたゴッサムの町で困窮する市民たちを救うことになります。

 

 最終巻としては盛り上がりに欠ける印象でしたが、上記のJoker Warや他のバットマン系列誌でアルフレッドが死んでいるなど、他のコミックで起きた出来事に影響されながらもうまく消化できていない印象が強いからかもしれません。

 

 ちなみに、この巻ではBatwoman (バットウーマン、ケイト・ケイン)がゲスト出演しています。たまたまバーバラと同じ現場で出くわすことになり、最初は揉めながらも共闘するという流れです。Rebirth期ケイト・ケインの動きについてはちょっと分からない部分があるのでこの記事の最後の方で少し書きます。

 

 以下、ネタバレを含む感想です。

 

 「良くも悪くも、人は変わる」というのがテーマなのかなあ? という一冊でした。

 このところずっとバーバラといい雰囲気になっていたJason Bard (ジェイソン・バード)に顕著なのですが、Batman Eternal誌 (感想はこちら)ではバーバラの父であるゴードン本部長が冤罪で収監されているのを黙認していた彼が、心を改めた姿をバーバラに見せます。バーバラも、ずっと彼を疑っていましたが彼に魅力を感じていることは否定しようもなく――という流れになっていきます。筆者としては、ジェイソン・バードは絶対に許せんと思っているのでこのロマンスにも盛り上がれませんが、まあ、バーバラがそれでいいならそれで。

 

 また、かつてKilling Joke事件で (感想はこちら)ジョーカーに撃たれて下半身不随となり、その後背中にインプラントを埋め込んで足を動かせるようになったバーバラですが、この巻で再びジョーカーと対峙し、インプラントの信号を操られることで操り人形のようになってしまいます。この時、自らインプラントを破壊してジョーカーのコントロールから脱し、更にジョーカーを痛めつけるバーバラは本当に格好いいです。このシーンは良かったと思います。

 

 さらに、バーバラの弟であり連続殺人犯であり、長い間バーバラとゴードン本部長父娘を苦しめていたジェームズ (JJ)も登場します。彼は認知行動療法を受けて釈放されたらしく、心を改めたと言っているのですがバーバラは信じられません。とはいえ彼はジョーカーに襲われ反撃した後に倒れていたバーバラを病院に運び、改心したらしい姿を見せます。

 ――が、実際には彼は多重人格化していたらしく、犯罪者の部分の彼と良心を取り戻した彼の二人で葛藤した挙句、バットガールの前で海に飛び込み死を選びます。

 

 

 このシーンなんですが、New52期Batgirl誌 Vol. 3付近での「バットガールとJJが戦い、ゴードン本部長の目の前でJJが海に落ちる。そのため、ゴードン本部長はバットガールが殺人犯であると確信する」というシーンに状況が似すぎているのですよね。

 あまりにも似すぎているので、オマージュとかパロディとかそういったものを狙ったのだろうと思うのですが、残念ながらその後の展開でNew52期Batgirl誌に匹敵するものを描けていないと感じます。

 New52期の場合はその後いくつものエピソードを重ねてバーバラとゴードン本部長の葛藤を描き出していったのですが、今回の場合JJの死は最終回の直前に起き、最終回でバーバラとゴードン本部長が喧嘩するくらいしか描けていません。

 そもそも、なぜJJが死ぬというシーンをここで描いたのか。彼に改心の兆しがあるのなら、彼を何としても生き延びさせて自分と向き合わせなければいけなかったのではないでしょうか。安直に彼を死なせたのはライターの逃げではないか、と感じました。

 

 また、これは別のコミックでのイベントですが、Year of the Villain: The Infected (感想はこちら)でゴードン本部長はBatman who Laughsの毒に感染し、一時的に悪事に手を染めていたはずなのです。その影響でこの巻ではゴッサム市警本部長の座をハーヴィー・バロックに譲っています。ゴードン本部長がこの感染の件についてあまり後悔やら悩みやらを口にすることもなく、物語は進んでいきます。確かに感染自体はゴードンのせいではありませんが、もうちょっとくよくよしたり自分の過去を振り返ったりする姿を描いてくれてもいいのではないか――とおもいました。

 

 いい場面もありつつも、ゴードン家の皆さんの葛藤の描き方が足りていないと感じた一冊でした。

 

 

 

 さて、上の方に書いたケイト・ケインの話です。

 この本に登場したケイト・ケインはバーバラから 

 "YOU'VE BEEN OUT OF TOWN TOO LONG. WE COULD HAVE USED YOU. BUT I DON'T NEED YOU HERE."

 「あなたは町(=ゴッサム)から離れすぎてた。いてくれたら助かったかもしれないけど、今はあなたは要らない」

 

 と言われています。……そもそも、ケイトはなんでゴッサムを離れていたのでしょう?

 考えられるのはRebirth期Detective Comics Vol. 7 (感想はこちら)で、バットマンと色々揉めたからゴッサムを離れた、ということなのですが、Vol. 7を読む限りはちゃんと和解しているように見えます。

 

 実際にケイトがゴッサムを離れ、アトランタで活躍する姿を描く2018年のBlack mask: Year of the villain (感想はこちら)ではケイトはアトランタを拠点にしていて、

 

 "I JUST KNOW IT'S GOOD TO BE OUT FROM UNDER BATMAN'S EYE."

 「私は、バットマンの目から離れたところにいるのがいいって分かってるだけ」

 と言っています。これを読むと、やはりバットマンと揉めたことが原因のように思えます。バットマンと和解はしたものの、少し距離を置きたかったのかもしれません。 

 その後、2019年から始まるHarley Quinn & Poison Ivy (感想はこちら)でケイトがゴッサムに戻っている姿が確認できるわけですが……、

 ゴッサムを長期間留守にしていた理由は何だったのか、そして戻ったきっかけは何だったのか、どこかに描いている作品があるのでしょうか……。