2020年9月2日水曜日

Justice League of America Vol. 5: Deadly Fable 感想

※このシリーズの各巻感想は以下をご覧ください。

  Rebirth期Justice League of Americaの最終巻を読みました。これまでずっと語られてきたKiller Frost (キラーフロスト、ケイトリン・スノー)の「病気」に決着がつきます。

 また、4巻のラストで登場しThe Ray (レイ、レイモンド・テリル)と共に戦ったAztek(アズテック、Nayeli Constant)がチームに加わるようになりました。Wonder Woman Vol. 9 (感想はこちら)にも登場していた彼女ですが、元々は普通のエンジニアとして働いていたようです。

 

 ある日窓の外から飛んできたヘルメットが何年にも及ぶ戦いの歴史を語りだし、それを聞いた彼女は自分用のアーマーを作ってヒーローとして戦うことを決意したようです。

 ……それまで築いてきた普通の生活を、謎のヘルメットが飛んできたからという理由で捨てる勇気がある方はどのくらいいるでしょうか。筆者にはその勇気はありません。

 

【基本情報】
Written by: Steve Orlando
Art by: Hugo Petrus, Minkyu Jung, Miguel Mendonça, Neil Edwards, Various
Cover by: Mikel Janin
発行年 2018年

公式サイトはこちら。


 この巻には、

・古代の女王がキラーフロストの病気を治すが、世界を支配しようとする話

・Batman (バットマン、ブルース・ウェイン)とBlack Canary (ブラック・キャナリー、ダイナ・ランス)が別の世界を助けに行く話

・古代の地球に「ヒーローというアイディア」を残した神様を助ける話


 の3つのエピソードが収録されています。

 キラーフロストの「病気」の治療については前巻からの続きですが、下の方のネタバレを含む感想で書きたいと思います。このエピソードまでは不在だったバットマンですが、次のエピソードから戻ってきます。なお、前巻でチームから飛び出してしまったレイも、この最初のエピソードの途中で戻ってきます。レイがアズテックを連れてくる感じですね。

 

 バットマンとブラックキャナリ―の話は本当に2人だけで別世界に行くので、やや番外編感のあるお話でした。ブラックキャナリーがバットマンと同じくらいの長いキャリアを誇るベテランヒーローである――という感じがよく出ていました。バットマンと対等にやりあって考えをぶつけている様子が良かったです。

 

 最後のエピソードは「実は世界にヒーローがいるのは昔神様が『ヒーロー』というアイディアを地球に植え付けていったからなのだ」――というお話になっています。

 ……ヒーローは人間が生み出したもの、という方がヒーローコミックとしてはいいんじゃないかな、と思いましたが……。DCコミックスの場合、Multiverse (マルチバース)と呼ばれる多数の世界でそれぞれのヒーローが生まれているようなので神様のアイディアだった方が整合性が取れるのかな? とも思いましたが、どうなんでしょう。

 いずれにせよJustice League of Americaが過去の世界でこの神様を助けたことで、ヒーローの誕生には人間の力も必要だったということにはなりそうですが。

 

 さて。以下、ネタバレを含む感想でキラーフロストの病気の治療について。話の核心部分までネタバレしています。

 

 

 ***ここからネタバレ***

 

 

 そもそもキラーフロストの「病気」は、「誰かの熱を奪わないと生きていけない」というものでした。急速に熱を奪われた相手は死んでしまうので、能力をコントロールして少しずつ熱を取り込む必要があります。前巻までの彼女はコントロールが十分ではなく、とにかくずっと治療法を探していました。そして前巻ラスト、謎の夢を見た結果突然治ったというところで話が終わっていたわけですが……。

 

 実は彼女が見ていた夢は、彼女に起こり得る将来を示したものでした。彼女が能力をコントロールできず、人は皆死に絶え、世界は氷に閉ざされる――という未来を避けるため、彼女は夢の中で古代の地球を支配していた女王、TSARITSAに願って「病気」を治してもらいます。

 TSARITSAは同じような体質で苦しんでいた妹、FREYAの姿をキラーフロストの中に見ています。そして彼女と共に再び全人類を支配する玉座に戻ろうとするのでした――というお話になっています。

 

 当然、Justice League of AmericaはTSARITSAを倒そうとしますがキラーフロストがいないこともありうまくいかず、苦戦を強いられることになります。

 エピソード全体として、「失ったものを取り戻そうとする時にどうするか」ということをテーマにした物語だと感じました。キラーフロストが「病気」である、というのはこれまでもずっと言われていたことですが、TSARITSAもまたある種の病気にしか見えませんでした。はるか遠い過去に死んでしまった妹にこだわり、キラーフロストが妹とは別人であると分かっていながらキラーフロストに執着するしかない姿は悪役とはいえもの悲しいものです。キラーフロストは、

"SHE'S AS MUCH A PRISONER OF HER HATRED AS I WAS OF MY SICKNESS."

「彼女は私が病気に囚われていたように、彼女自身の憎しみに囚われている」


 と思うのですが、筆者としては彼女が囚われているのはやはり悲しみだと感じました。その巨大な悲しみが表に出るときに憎しみという姿をとっているのではないかと思います。彼女は妹を亡くして以来ずっと泣いているのではないかな……と思いました。

 戦いの中で想像力の守護神だというPromethea(プロメテア)という神様がやってくるのですが、彼女はキラーフロストに自分の人生を話したうえで

 「たとえ世界の終わりでも、何もかもが終わるわけではない」

 といったことを告げます。それ以降キラーフロストは治療法を探すのをやめ、自分の病気を受け入れて過ごすようになります。

 何か巨大なものを喪失してしまった時(キラーフロストの場合、熱を奪わなくてもすむ普通の体質)に、感情は様々に乱れます。しかし最終的にはその喪失を受け入れて生きていくことが必要になってくるし、それを受け入れて新しい人生を作り出すことが人間には可能である――という物語だと感じました。


 ……と考えると、過去に巨大なものを喪失しているTSARITSAにも救済の道があってほしかったなと思ってしまうのでした。