Batman (バットマン、ブルース・ウェイン)がBlack Canary (ブラックキャナリー、ダイナ・ランス)らをスカウトして結成したチーム、Justice League of Americaの活躍を描くシリーズの第4巻を描きました。チームの活動は大きな曲がり角を迎えます。
Art by: Kelley Jones, Stephen Byrne, Hugo Petrus
Cover by: Carlos D'Anda
Written by: Steve Orlando
発行年 2018年
公式サイトはこちら。
本作の最も重要な要素は、バットマンの不在です。何かと多忙なバットマンはチームメンバーに詳しい理由を告げることなくチームを去ったのでした。
……いや、そもそもバットマンが招集したチームですよね。チームのコンセプトである、
・神ではなく、人間のチームとする。そして、人々のロールモデルになれるようにする。
・一度過ちを犯した人であってもチャンスを与えられるようにする。
・オープンなチームとし、人々が基地に来てヒーローと触れ合えるようにする。
というのもバットマンが決めたものですし。チームを離れないといけない事情があるのは仕方ないにしても、メンバーにちゃんと説明してからにしてもいいんじゃないでしょうか。バットマン、あまりリーダーに向いていないのでは……。本人に聞くと「そのためにブラックキャナリーとVixen (ビクセン、マリ・マッケイブ)をチームに入れておいたのだ」と言いそうな気はしますが。
いずれにしてもバットマンが突然いなくなったことにチームのメンバーたちは動揺し、チームワークが格段に悪くなる一冊です。
この本では
・ロボが幼少期から大好きだった宇宙イルカを救うためブラックキャナリーと共に宇宙に向かう話
・Justice League of America本部に敵が侵入し、チームが壊滅状態まで追い込まれる話
が収録されています。前半の話は、幼少期ロボの可愛い姿を見ることができますのでロボファンにおすすめです。
ストーリーの主軸となるのは後半の話になります。
Justice League of Americaに一人のインタビュアーが取材にやってくる。しかし彼は敵が変装しており、チームの不信感をあおるために来たのだった。チームメンバーが気にしているポイントをうまくつくことで、彼はメンバー間の不信感や不安感を掻き立てることに成功する。若手ヒーローの一人、Ray (レイ、レイモンド・テリル)は怒って基地を飛び出していくのだった。
一方、基地を訪れていた観光客たちはレイの突然の行動に不安を覚える。彼らを安心させようとするビクセンだったが、基地に侵入していた第二の敵がブラックキャナリーたちを襲う。ビクセンは一人で観光客たちを守りながら敵に対峙することになるのだったが――というのがあらすじです。
登場するインタビュアーですが、まずKiller Frost (キラーフロスト、ケイトリン・スノー)に「最近The Atom (アトム、リアン・チョイ)とよく一緒にいるけど付き合ってるの?」と不躾な質問をします。
――いや、前巻の感想で筆者も「もう付き合ってるんじゃないの」と書きましたがいきなりそれはデリカシーがなかろう……と思っていると、他のメンバーたちに対しても次々と不躾&不安をあおる的確な質問をしていきます。
そもそもバットマンがいないことでチームの中に不安はあったわけで、それを増幅するようなインタビュアーの質問の数々。
経験の浅いキラーフロストやアトム、レイはものの見事に振り回される形になります。ベテランと言っていいビクセンやブラックキャナリー、ロボはあまり動じませんがここは経験の差でしょうね。
ともあれ、チームは戦力が激減した状態で敵と戦うことになります。
また、敵はJustice League of Americaのコンセプトを「偽善だ」として基地に来ている観光客に訴えます。まあ確かに、オープンと言いながらバットマンはろくに人々の前に出てこないし――と思って読んでいると、
"YOUR 'JUSTICE LEAGUE' CLAIMS TO STAND SHOULDER TO SHOULDER WITH THE COMMON MAN. BUT YOU'RE A SUPERPOWER. THERE IS NO GREATER LIE THAN FOR THOSE IN POWER TO CLAIM KINSHIP WITH THOSE BELOW."
「お前たちの『ジャスティスリーグ』は普通の人に寄り添っているという。だがお前たちは超人だ。力を持つ者が、持たざる者と親しくしているなんて言うのは大嘘だ」
と言い始めます。分からなくはないですね。これだけのスーパーパワーを持っている人たちの活躍が果たして一般の人々のロールモデルになるのか? というのは、筆者も疑問に思っていました。
ジャスティスリーグの偽善性を訴える敵に対してチームがどう乗り越えていくのか、観光客に代表される一般の人たちはどう反応するのかが見どころのエピソードになっています。
そしてこの本で重要なのは、このエピソードの後に来ました。以下、ネタバレを含む感想になります。最終盤までネタバレしています。
***ここからネタバレ***
敵を無事退けた後、Justice League of America――バットマンは不在、レイは戻ってきていませんが――は反省会を開きます。そこで、お互いに隠していることがあるという話になり、Vol. 3のMicroverse(極小世界)での戦いでキラーフロストが敵を殺して熱を奪ったことが明らかになるのでした。
キラーフロストは、人々の熱を奪わなければ生きていけない体質になっています。力がコントロールできているときは相手の熱量を奪いきって殺してしまう前の寸止めのようなことができるようですが、コントロールできないときは相手を殺してしまうことも。
Microverseでの戦いではアトムがピンチに陥っていたこともあり、熱を極度に必要としていたこともあり相手を殺してしまいました。当然、これはヒーローとしてふさわしい行いではありません。というわけでキラーフロストは基地の復興を終えたらチームを離れ、アマンダ・ウォラーのところに戻ることになるのでした……という流れになります。
ええと。
Justice League of America: Killer Frost Rebirth (2017) #1 (感想はこちら)であれだけアマンダの支配下から逃れるために頑張っていたのにこの展開かーい! とは思いました。
Microverseの時の人殺しは、戦闘状態だったわけでやむを得ないのでは……。
と、筆者としては思ってしまいますがやはりヒーローとしては許されないことのようです。
Microverseから帰還してもキラーフロストは誰にもこの話をしませんでした。黙っていたことで余計ブラックキャナリーたちに不信感を持たれてしまったわけですが、例えばアトムにでも話せていたら状況が変わっていたかな? と思うと、アマンダのところに戻すという話が早まっただけのような気もします。
結局彼女の病気を治療しないとどうにもならないのでは……彼女はどうすれば幸せになれるのか……と思いながら読んでいると。
Vol. 2に出てきた、望みを何でもかなえてくれる存在のおかげでキラーフロストの病気が治ってしまいました。
はい!? と読者が思っているところで物語は最終巻へと続いていきます。
ここまでキラーフロストを見てきた筆者としては、体質を治してほしいような、治してほしくないような気持ちですね。何でも願いをかなえる存在にお願いしたら治っちゃいましたー! という展開はやめてほしいですし、たぶんそうはならないと思います。
アトムに携帯型熱供給機を作ってもらうとか、そういう方向で何とかしてもらいたいです。