これまで女性ヒーローが登場する作品を読んできました。色々なライターの作品を読みましたが、ここではGail Simone氏の作品の特徴に注目したいと思います。
結論から言うと、氏の作品はキャラクターやキャラクター同士の関係性を重視する人に向いていると思います。
筆者がここまで読んできたGail Simone氏の作品の主なものは、
- Batgirl (2011-2016) Vol. 1- Vol. 5
- Birds of Prey (2010-2011)
- Wonder Woman
- Secret Six (2008-2011)
- Secret Six (2014-2016)
です(リンク先は各作品の感想)。多くの作品を手掛けているライターですので、これ以外の作品も多数あります。以下に書くことは、あくまで筆者が読んだ作品を踏まえてのことですので別の作品で全く異なる印象を受けることもあるかもしれません。
さて、上記のシリーズはいずれも年の単位で連載されたシリーズですが、どのシリーズも短編・中編からなるオムニバス的なシリーズであるという印象を受けます。
たとえばGreg Rucka氏のWonder Woman (感想はこちら)が、数年間にわたる連載で様々なエピソードを描きながらダイアナの栄光と挫折を描いた大河ドラマと感じさせるのとは対照的です。
Gail Simone氏の描くシリーズは長期間にわたって一つの太い軸を維持しつつ様々なエピソードを描いていくという形式ではなく、いくつものエピソードをパッチワークのように組み合わせていくという形が多いように思います。
また、氏の作品を読んでいると物語が時々飛ぶという特徴(というか悪癖というか……)もあります。もちろん、物語の中で起きた出来事を逐一すべて明示する必要はないのですが、
普通の作品で
1→3→5→7→9→…… と進むところを、
1→3→7→9→…… と進む、ということが割とあるように感じます。1, 3, 5 .... くらいのジャンプでしたら読者もついていけるのですが、3, 7 ... となると読者も「何があったんだこの途中」となってしまいます。
アメコミの特性から、同時期や過去の他誌のエピソードを踏まえているという可能性も当然あります。ただどうも、単純に話が飛んでいる場合も結構あるように感じます。
しかしその一方で、キャラクターの心理描写には無理な飛躍を感じないのも氏の作品の特徴です。これはキャラクターに共感できるというだけではなく、共感できないキャラクターであっても「以前言っていたことからすればこの状況ではこう思うだろう」と感じられる一貫した描写がなされています。
作品の描き方によっては「起きている状況は分かるけど、それで君は何でいきなりそう思うの?」とキャラクターに対して思ってしまうことがあるものですが、氏の作品でそう感じることはあまりありません。氏の作品では、「どうしてこんな状況になっているかは正直良く分からないけれど、こういう状況になったら君はそう思うだろうね」と思うことはあります。
そして、そうした心理描写の上に成り立つ人間関係の描写は大変巧みだと思います。ストーリーの中で、人間関係を示唆する描写を入れるのが非常にうまいです。
例えば、
- Batgirl誌におけるゴードン一家
- Birds of Prey誌におけるチーム内の友情
- Wonder Woman誌におけるダイアナとアルテミスの主従関係(※ダイアナは主従だとは思ってなさそうなのですがアルテミスが一方的にダイアナをプリンセスとして立てているというか)
- Secret Six誌における疑似親子関係
といったあたりの描写は非常に優れています。
したがって冒頭に書いたように、Gail Simone氏の作品はキャラクターやキャラクター同士の関係性を重視する人に向いている――と思うのです。