2019年11月3日日曜日

ワンダーウーマン アンソロジー 感想

 ワンダーウーマン(ダイアナ)が主役となって活躍するWonder Woman誌については気になったものから順番に読んでいっていますが、何しろ出版点数が多いので大事な作品を逃しているような気がする……と思っていたところ、Twitterでフォロワーさんがこちらの本をお勧めしていたので読んでみました。

【基本情報】
編:DCコミックス
テキスト:ヤン・グラフ
カバーイラスト:新川洋司
本体表紙イラスト:アレックス・ロス
翻訳:小池顕久、原正人
デザイン:真々田稔
発行年 2017年

公式サイトはこちら。



こちらの本は邦訳です。収録されているすべての作品が日本語で読めます。

アメコミを読み始めた時は邦訳を探す努力もしていたのですが、大抵の読みたいアメコミには邦訳が出ていなかったことからすっかり諦めていました。ということで、初めてアメコミを日本語で読んだのですが、

とにかくめちゃくちゃ速く読める。

ということが分かりました。全260ページ、すべてカラー印刷のずっしりとした本を持った時は読み終わるまで一週間ぐらいかかるぞ……と思っていたのですが、読み始めるとあっという間に読めました。母国語って凄い。

以下の11の作品が収録されています。

THE ORIGIN OF WONDER WOMAN (Wonder Woman #1 (1942))
VILLAINY INCORPORATED (Wonder Woman #28 (1948))
TOP SECRET (Wonder Woman #99 (1958))
WONDER WOMAN, AMAZON TEENAGER (Wonder Woman #107 (1959))
WONDER WOMAN'S LAST BATTLE (Wonder Woman #179 (1968))
SWAN SONG (Wonder Woman #288 (1982))
THE PRINCESS AND THE POWER (Wonder Woman #1 (1987))
THE BEARING OF THE SOUL (Wonder Woman #142 (1999)) →こちらに感想を書いた作品です。
THE LAIR OF THE MINOTAUR (Wonder Woman #0 (2012)) →こちらに感想を書いた作品です。
GOTHAMAZON (Sensation Comics Featuring Wonder Woman #1 (2014))
RESCUE ANGEL (Sensation Comics Featuring Wonder Woman #7 (2015))

作品の間に解説ページが挟まれ、作品が連載されていた当時の社会状況やコミック内の事情も語られています。以前読んで「設定がぴんと来ない」という感想を書いていたGail Simone氏のワンダーウーマン(感想はこちら)ですが、解説を読んだ結果当時のワンダーウーマン誌の中であの作品に求められていた役回りが分かるような気がしました。
そもそも1940年代に連載がスタートしたワンダーウーマンが、もともとは「アメリカのために戦う」というキャラクターであったことも分かります。

というわけでワンダーウーマンというキャラクターの変遷を概観するのにはうってつけの本だと思います。
(※なお、178ページに載っているGreg Ruckaの"Wonder Woman: The Hiketeia"についての解説は間違っている部分があります。
「彼女はあるアマゾン族の儀式で姉を殺され(中略)セミッシラの大使館に難を逃れに来たのだ」となっていますが、正しくは「彼女は姉を殺され(中略)アマゾン族の儀式に則りセミッシラの大使館に難を逃れに来たのだ」という感じかと思います)


昔の作品を読んでいると、現在の感覚では倫理的に問題のありそうな設定も出てきます。少しずつ設定を変えていくことで長い間受け入れられるキャラクターになっていたのだなと思いました。

この本で最も印象深かったのは、SWAN SONGというエピソードです。
同名のキャラクターはGreg Rucka氏がライターを務めた作品にも出てきましたが、別人のようです。

彼女は不美人でしたが、アレスにより美貌とスーパーパワーを与えられ、その美貌を永遠に維持するためにワンダーウーマンを狙う――というストーリーになっています。
トロイア戦争の話も踏まえていまして、アレスが人間の心をかき乱して争いに向かわせる辺りが実にトロイア戦争っぽいです。また、ワンダーウーマンやアマゾン族に力を与える女神として美の女神アプロディーテがよく登場することを考えると、美貌を与えて争いに走らせるのはアプロティーテへの意趣返しのようでもあり、楽しめました。