2019年9月7日土曜日

Batman & Robin Eternal Vol. 1-2 感想

 New52期のバットガール誌(感想はこちら)を読んでいたらSpoiler(スポイラー、ステファニー・ブラウン)が登場してきました。そういえばCassandra Cain (カサンドラ・ケイン) はNew52期にはあまり登場していないのだろうかと思って調べたところ、Batman & Robin Eternalという作品で満を持して登場したらしいので読んでみました。

【基本情報】
Writers: Scott Snyder, James T Tynion IV, Various
Artist:Various
Cover by: Sandu Florea, Tony S. Daniel
発行年 2016年

公式サイトはこちら。


最終話が発売されたのが2016年3月だそうなので、New52期の最終盤で連載されていたストーリーということになります。カサンドラ・ケインはNew52期BatgirlのVol. 5(感想はこちら)に登場してはいるものの、これはイベント"Future's End"の中の一ストーリーで特殊な設定でした。New52期に普通の設定で登場したのはもしかするとこの作品だけなのかもしれません。

物語は、バットマン不在のゴッサム市で起こります。バットマンは何らかの事件で記憶を失っているらしく、現在ゴッサム市の治安はロボットのバットマンが守っています。元々のバットファミリーはこのロボットに見つからないよう息をひそめている状態です。
Dick Grayson (ディック・グレイソン、ナイトウィングとして活躍していたがこの物語ではSpyralという組織のエージェントとして活動中)はバットマンが残したデータをカサンドラ・ケインから渡され、バットマンが何かを非常に後悔していること、そして危機が迫っているらしいことを知ります。そのデータにリストアップされていた仲間たちをたどり、謎の組織と戦おうとするのだったが――というのがあらすじです。

タイトルのBatman & Robinとある通り、バットマンと歴代のロビンたちの関係というのが一つのテーマになっています。果たしてバットマンは彼らを救ったのか。バットマンは彼らに満足していたのか。ディック・グレイソンに焦点を当てて、これらの問題が語られていきます。

そしてこの物語は、親と子の物語でもあります。

カサンドラ・ケインは父のDavid Cain (デビッド・ケイン)に殺人者として育てられました。彼女は身体能力を鍛えるために喋ることを許されなかったため、一言、二言しか喋ることができません。そんな彼女に向き合い、友情を示すのがHarper Row (ハーパー・ロウ、ブルーバード)です。彼女はBatgirl誌のVol. 3(感想はこちら)にも登場しましたが、スポイラーの友達でもあり、ヒーローとしての活動もしています。そんな彼女がカサンドラとどう接していくのか、カサンドラを中心にみるとそこが見どころです。

なお、Helena Bertinelli (ヘレナ・ベルティネリ)も登場しています。この話での彼女はハントレスではなくディック・グレイソンと共に組織のエージェントとして活動しています。マスクをかぶらずに戦う彼女がいつもとは一味違って格好いいです。


以下、ネタバレを含む感想です。話の核心にも触れています。

***ここからネタバレ***

"Orphans" (孤児たち)を中心にした話です。
今回の敵の"Mother"は有望な子供の両親を殺害し、孤児となった子を引き取って自分の望むように育てることで自分の組織を大きくしていきます。
ディック・グレイソンは孤児でしたが、ブルース・ウェインに引き取られさらに初代ロビン、バットマンの相棒として活躍するようになりました。"Mother"のしていることと、ブルースのしていることは同じことではないのか。といったことが語られます。

一方、カサンドラは父(この父が"Orphan"と名乗っている)のもとで育ちますが、やはり父の望むように育てられます。そんなカサンドラとハーパーは強い友情で結ばれますが、そんな二人の友情を揺るがす真実が明らかになります。

カサンドラは暗殺者として育てられました。彼女はその生き方を拒否してバットマンに救いを求めますが、人生の中で一度、一人だけ殺したことがあります。その被害者がハーパーの母です。そもそも今回の話の黒幕である"Mother"が、ハーパーを孤児にして自分の手元で自分の思うとおりに育てようとした作戦の一環です。カサンドラがハーパーの父を殺せなかったことで作戦は失敗しますが、それを知ったとき、そしてスケアクロウのガスの影響で恐れを抱いたハーパーはカサンドラを殺そうとします。
正気に返ったのちにハーパーとカサンドラは今度は敵に捕らえられ、"Mother"の前で、ハーパーはカサンドラを殺すよう促されます。

結果どうなるかは、読者が想像できる通りです。

カサンドラは恐らく、ハーパーが自分の殺した女性の娘であるということは知っていたのでしょう。物語の序盤で特にハーパーを守ろうとしたのはそのためでしょうし、ロビンたちの誰でもなく何かとハーパーにアプローチしていたのもそのためでしょう。とはいっても、友情を結ぶまでになったのはハーパーの人格によるところが大きいと思います。この人格のベースは、おそらくもともとはハーパーの母が育てたものです。たとえ若くして殺されようとも、ハーパーの母のまいた種はきちんと育ったということを思わせる展開が印象的でした。 

ハーパーたちとは対照的な母子が一組、この話には登場します。
"Mother"に献身を尽くし、彼女のためにカサンドラを暗殺者にまでしたデビット・ケインですが、最終盤で彼は"Mother"の息子だったことが明らかになります。彼はなぜ"Orphan"と名乗っていたのか。母に捨てられたと感じていたからでしょうか。そして、母に愛してもらおうと自分のすべてを――娘までも――捧げました。
しかし"Mother"が彼のそんな献身を評価することはなく、最終的に彼は娘を逃がし、自分は母と共に死ぬ道を選びます。

カサンドラはこの父の名乗っていた名前を継いで"Orphan"と名乗るようになるのですが、それは父への祈りなのか、自分は父とは別の存在であるという意識なのか、いろいろと想像することのできる展開でした。