2019年9月8日日曜日

Superman/Batman Vol. 1: New Edition感想

 スーパーガール (Supergirl, Kara Zor-El)が初めて地球にやってくるエピソードは何度も描かれているようですが(Rebirth期のSupergirl Vol. 1 (感想はこちら)もそうですね)、このSuperman/Batmanに収録されているエピソードは血沸き肉躍る展開らしいので読んでみました。

【基本情報】
Writer: Jeph Loeb
Artists: Dexter Vines, Ed McGuinness, Michael Turner, Pat Lee
Cover by:Dexter Vines, Ed McGuinness
発行年 2014年 (連載されていたのは2004年頃)

公式サイトはこちら。



 このシリーズ自体はスーパーマン (Superman, Clark Kent)とバットマン (Batman, Bruce Wayne)の二人がチームを組んで活躍する姿を描くもので、この単行本の前半はスーパーマンとバットマンが組んでレックス・ルーサーと戦う話や、ロビンとスーパーボーイが渋谷の街で巨大ロボットを操り戦う話になっています。
 
 これらの話を読んでいて思ったのですが、
・赤ちゃんの頃に両親の手でクリプトン星を脱出し地球の養父母のもとで大切に育てられたスーパーマン →他者への信頼が根本にある

・幸せな少年時代を過ごしていたがある日両親が目の前で殺されたバットマン →他者への不信が根本にある

 ので、両者は実に対照的なのですね。対照的な分、相棒物としてチームを組むと両者の個性の違いがより際立つという構成になっていると思います。

 またこの単行本のラストに収録されている少年時代のブルースとクラークが実は出会っていたというエピソード、ごく短いものなのですが想像を掻き立てられます。伸び伸びと育ったクラークと、両親の死以降ずっと「遊ぶ」ことがなくなってしまったブルースと。もし二人が友達になっていたらどうだったのかな――と思わせます。


 さてスーパーガールの物語は、バットマンがゴッサム市近くの海中で謎の宇宙船の残骸を見つけるところから始まります。宇宙船に書かれていた文字は恐らくスーパーマンの故郷クリプトン星のもの、そしてバットマンが宇宙船を見つけた直後に謎の少女が現れ、異常な力を見せたり空を飛んだりした――となれば、クリプトン星から来た何者かであろうと考えるのは普通です。バットマンはクリプトナイトの指輪を使ってスーパーガールを弱体化させ、彼女をバットケイブ(バットマンの基地)に運ぶとともにスーパーマンを呼びます。
 
 この物語で対照的なのは、スーパーマンとバットマンがスーパーガールに見せる信頼感の差です。スーパーマンは彼女とクリプトン語で語り合い、彼女が自分の従妹であるという話を信じます。一方、バットマンはなかなか彼女のことを信じようとしません。そして、スーパーマンが彼女を自分の住むMetropolisに連れていきたいと希望するのにも反対します。
 
 以下、ネタバレを含む感想です。


 
 物語は、ワンダーウーマンがスーパーマンとバットマン、それにスーパーガールの前に現れスーパーガールをThemyscira島で育てると言い彼女を連れて行ってからさらに盛り上がっていきます。
 
 ゴッサム市にしろメトロポリス市にしろ、アメリカに住む以上は自らの正体をうまく隠して生きなければいけないわけですが、セミッシラで暮らす分には自分の正体を隠すことなく生きていけます。アマゾン族の皆さんがトレーニングしてくれるので力の使い方も学べますし、思春期(たぶん)の女の子の複雑な心理にもアマゾン族の皆さんが対応してくれそうだし、友達もできたみたいだし、セミッシラで暮らすのはいいアイディアだ――と筆者は思っていたのですが、スーパーマンは不満な様子。
 
 それというのも、
 
 ・カーラ(スーパーガール)は自分の家族なのだから近くで暮らしたい
 ・カーラのことは自分の手で守りたい
 
 と思っているからのようです。スーパーマンにしてみれば、地球の養父母やロイス・レーンという大事な家族はいるものの、クリプトン星から来たカーラは絶対に守らなくてはいけない特別な存在であるというのは理解できます。
 とはいえ、セミッシラ島の環境は彼女に良さそうだし、スーパーマンが島を頻繁に訪れてカーラに会いに来るというのが最もいい解決策なのでは? と思ってしまいますが、やはり自分の手元にカーラを連れていきたい模様です。
 
 そんな中、ApokolipsのDarkseidの部下たちがカーラを誘拐しようとセミッシラに攻め入ります。Darkseidの配下だった一人、Big Bardaが裏切って地球に逃げたこともあり、彼女に代わる人材を探していたようです。戦いの中でカーラは誘拐されます。
 
 スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンの三人はBig Bardaの助けを借りApokolipsへとカーラを助けに向かうのですが、この時カーラを失ったスーパーマンの心情は、かつてRobinとして活躍していたJason Toddを失ったバットマンの心情と対比されます。
 
 筆者はJason Toddとバットマンの関係を描いた作品をまだあまり読んでいないので深い理解はできなかったのですが、対照的だと描かれていた二人の感情が実は非常に似通ったものである、という展開にはなるほどと思いました。
 
 物語はこの後も二転三転し、カーラはスーパーガールとして活動することを選びます。そんな中、バットマンに自分の母親の名前を告げるシーンが印象的でした。出会ってすぐのころに母親の名前を聞かれたカーラですが、その時は記憶が混乱していて思い出せなかったのです。カーラはバットマンに、
 

 "HER NAME WAS ALURA. IF THAT STILL MATTERS TO YOU......"

  「お母さんの名前はAlura。もし、まだこのことが大事だったら……」
 と告げます。バットマンはそれに答えて

 "IT DOES."

 「大事だとも」
 と返します。この時のバットマンの表情が、マスクに隠れて見えないもののカーラを慈しんでいるようでとてもいいです。Jason Toddとカーラを重ね合わせて考えたことで、バットマンもカーラに対して保護者意識が出たのかな、なんて思いました。