2021年5月22日土曜日

The Next Batman: Second Son (2021-) #1-#12

  The Next Batman: Second Sonを読みました。12話完結のミニシリーズです。デジタルファーストという形態で出版されたので、2~3話で通常の1話分くらいのボリュームになっています。 

 Batmanの正体と言えばBruce Wayne (ブルース・ウェイン)ですが、次世代のバットマンになる予定のJace Fox (ジェイス・フォックス)の人物像と家族関係を掘り下げた作品になっています。

 筆者はレニー・モントーヤが登場するのでこの作品を読みました。レニーについての感想は後の方に出てきます。

 

【基本情報】
Writer: John Ridley
Pencils: Tony Akins, Travel Foreman
Inks: Mark Morales, Livesay, Travel Foreman, Norm Rapmund
Colored by: Rex Lokus
Cover by: Doug Braithwaite, Jorge Molina
発行年 2021年

公式サイトはこちら (#1)。


 この作品の感想に入る前に、簡単に2021年のDCコミックス世界の状況を見ておきます。

 

 DCコミックスは2016年からRebirth期と呼ばれる時期に入りました。それ以前のNew52期の設定を引き継ぎながらも昔の設定も復活させ、新しい設定やキャラクターも加え、物語の流れの中で死んでいくキャラクターもいました。

 2021年1月に完結した大型イベントDark Nights: Death MetalではDC世界を揺るがす大事件が起き、死んだキャラクターが復活するなどの現象が起きたようです。この辺りはNOB-BONさんのブログ「アメコミ放浪記」のこちらの記事に詳しく書かれています。

 

 Death Metalを経て、DC世界は2021年3月からInfinite Frontier期と呼ばれる時期に移行することが発表されました。そしてその間をつなぐように2021年2月にはFuture Stateと呼ばれるイベントが行われました。

 

 このイベントは、Infinite Frontier期に起こり得る未来を描いたものとされます。筆者が読んだJustice League DarkとSupergirlの未来についての感想はこちらをご覧ください。

 あくまでも「起こり得る未来」なので、キャラクターたちの頑張りによっては回避できるところがポイントだと思います。

 3月から始まったJustice League DarkのメンバーはFuture Stateの未来を避けるべく頑張っているようです。

 

 なお、3月からInfinite Frontierと呼ばれる時期になったのは確かですが、今のところ大規模な設定リセットがあったわけではありません。大きなイベントが片付いてまた次の冒険が始まった――という印象を受けています。 

  

 ……というDCコミックス世界全体の流れに並行して、バットマンをはじめとするバットファミリーの本拠地であるゴッサム市でも大きな変化が起きていたようです。

 イベント"Joker War"を契機にして、バットマンたち覆面のヒーローたちに対する反対運動が起きているらしく、新しい市長、Mayor Nakano(ナカノ市長)がAnti-MASKという方針を大々的に掲げます。

 これまではバットマンとの協力体制を組んでいたゴッサム市警のゴードン本部長も警察を離れ(これはこれで複雑な事情があるようです)、バットマンとして活動していたブルース・ウェインは財産の多くを失い、その財産はウェイン社でブルースの右腕として活動していたLucius Foxのもとに――という流れがあった模様です。

 

 Next Batmanの主人公、Jace FoxはLucius Foxの長男です。

 彼は家族のもとを逃げ出し長年ベトナムで過ごしていましたが、父に連れ戻されることになります。弟のLuke Fox (バットウィングとして活躍するヒーローでもあります)は勝手に家を出てしれっと帰ってきたJaceが許せず、妹のTamはゴッサム市のヴィランによる被害で入院し、末妹のTiffanyはTamを助けるためLukeとJaceを焚きつける……という複雑な人間関係がこの作品で描かれます。

 

 そもそもJaceが家を出ることになったのは彼自身が昔犯した罪と、それを両親が全力でもみ消したことにあります。今後彼がバットマンとして活動するようになったとしても、それはそれとして昔の罪に向き合い、いずれ世間にそれを表明する時が来るのではないかと思います。

 果たして彼のその行動を兄弟姉妹はどうとらえるのか。Fox家はどうなっていくのか。揉めに揉めるとしか思えず、Jaceのバットマンとしての活動よりそちらの混乱の方が現時点では興味深いです。

 

 Jaceが家を出てベトナムに行ったあと、弟のLukeはきっと姉妹や両親のフォローをして回ったのでありましょう。そう想像すると、今さら父がJaceを呼び戻したのには怒りを感じて当然だと思えるわけで、さらに過去の罪の件でJaceが混乱を産み出したら彼はどう反応するのか、いろいろな可能性が考えられるので楽しみです。

 

 なお、Fox家末娘のTiffanyはNew52期Batgirl誌Vol. 5 (感想はこちら)に収録されていた"Future's End"でバットガールチームの一員として活動する姿が描かれています。お姉ちゃんのTamを助けたいなら、LukeとJaceに頼むのではなく自分で頑張ってみる手もありますよ? と筆者としては思うのでした。

 

 

 さて。

 

 

 筆者がなぜこのシリーズを読んだかと言うと、上に書いたようにRenee Montoya (レニー・モントーヤ)がコンスタントに登場していると聞いたからです。

 Rebirth期はゴッサム市警刑事として活動していたレニーはYear of the VillainイベントでBatwoman (バットウーマン)と共闘したのち(感想はこちら)、Lois Lane誌に登場していたはずです。Lois Lane誌は筆者未読なのでここでは触れません。ゴードン本部長がゴッサム市警を去った後、レニーが本部長に就任する姿がこのシリーズでは描かれています。

 

 ナカノ市長に依頼されて本部長就任という形ですので、レニーもAnti-MASKの方針をとり刑事たちに「覆面をつけたヒーロー活動は犯罪である」ことを徹底させます。

 ……いや、あなた自身もLois Lane誌では顔のないマスクをつけてQuestionとして活動してたはずですよね? とつっこみたいところです。

 まあ、Anti-MASKという方針に露骨に反対することは本部長という立場上できないでしょうが、別にその立場に固執するキャラクターでもなかろう……と思います。

 さらに、マスクを着けたヒーローを見逃した刑事の存在に気づいて警告するときのレニーの言葉がこちらです。

"A RULE BREAKER MURDERED MY OLD PARTNER."

「ルールを守らないものが私の昔のパートナーを殺した」

 

 Gotham Central (感想はこちら)でCrispus Allenが鑑識のCorriganに殺されたことを言っているのだと思いますが、うーんCorriganのことを"Rule Breaker"の一言でまとめるのはあまりにも大雑把すぎるのでは。

 証拠品を売り渡す鑑識を"Rule Breaker"で片付けていいのか。

 

 レニー自身、Rebirth期Detective Comics Vol. 3 (感想はこちら)でバットウーマンに捜査情報を伝えているわけです。ルールを破っているとしか思えません。 

 レニーの信念は「刑事として正義と真実に恥じない行動をする」ことであって、単純に警察の服務規定を守ることだとは思えないのです。

 

 とはいえ、この作品ではレニーの言動は描かれていても内心どう思っているかは描かれていません。今後もしばらくレニーは本部長として活動することになるようですし、他の作品で「実は本心はこうだった……」みたいになる可能性はありますね。

 筆者としては、レニーには一度Anti-Mask運動についてバットウーマンと話し合ってみてもらいたいです。バットウーマンにゴッサム市警の本部長室に乗り込んでもらいたいのですが、そんなエピソードを誰か描いてくれないでしょうか。

 

 

 また、この作品にはもう一人印象的なキャラクターとしてKatana (カタナ、タツ・ヤマシロ)が登場します。彼女は昔Jaceに格闘の仕方を教えたらしく、ピンチになったJaceのもとに颯爽と現れる――のはいいのですが。

 JaceにDeath Wishがあることを批判するのですが、うーん、カタナさんがDeath Wishを否定できるのかなあという気持ちになりました。

 これは筆者がこれまで読んだ作品で思い描いてきたカタナさん像なのですが、彼女の究極目標は「死んで夫と一緒になること」だと思うんですよね。少し先の未来を想像するときに必ず死というものが射程に入っているような。

「つまらない相手との戦いに命を賭けるような真似をするな」

 とカタナさんが言うのなら全く違和感はないのですが、Death Wish全般を否定するのはちょっとイメージに合わないような、と思いました。

 

 

 このNext Batmanシリーズで出てくる印象的な二人、レニーとカタナですが、同じライターのJohn Ridleyが手掛けるシリーズ"The Other History of the DC Universe"でもスポットライトが当てられているようです。こちらも合わせて読むと、John Ridleyの思い描くレニー像、カタナ像がもっと理解できるのかもしれないと思います。


※2021/08/29追記

Lois Lane誌を読みました。感想はこちら。