2021年8月29日日曜日

Lois Lane: Enemy of the People 感想

  2019年に連載されていたLois Lane誌を読みました。主役はタイトルの通りLois Lane (ロイス・レーン)ですが準主役にRenee Montoya (レニー・モントーヤ)が登場します。そしてライターが、レニーの育ての親と言っても過言ではないGreg Ruckaです。

 Ruckaは2011年以前のコミックでレニーの活躍する物語の大半を手掛けているので、もうレニーの話を書くことはないんだろうな……と漠然と思っていたのですが、嬉しい誤算でした。

 

【基本情報】
Writer: Greg Rucka
Art by: Mike Perkins
発行年 2020年


公式サイトはこちら。


 ロイスの知り合いであるロシア人ジャーナリストが死亡した。報道された死因は自殺だったが、ロイスは真相を探るべくゴッサム市警刑事のレニー・モントーヤを捜査員兼ボディーガードとして雇い調査に乗り出すのだった。しかし、ロイスの命も狙われるようになる。そして事態は、この世界が抱える大きな秘密をあぶり出すのだった――というのがあらすじです。 

 アメリカでもトップクラスのジャーナリストであるロイス・レーンが主役、「真実を人々に伝えるには」ということがテーマとして提示されたように見える本作は、社会派の作品という印象を読み始めた読者に植え付けます。

 

 ……ただ、これは筆者がレニー・モントーヤの大ファンだからなのかどうか、正直レニーの動向が気になってしまって「社会における真実とは」といったテーマらしいところは読後の印象には実はあまり残っていません。またあらすじに書いた「この世界が抱える大きな秘密」の方がジャーナリスト死亡の真相よりもメインになっていくので、社会派作品というよりはSF作品という読後感です。

 このあたり、ハードボイルドサスペンス風に始まった割にオカルトなオチのついたThe Question: Pipeline (感想はこちら)の読後感に似ています。

 主役はあくまでもロイス――なのですが、中盤から終盤にかけてレニーが主役になっているような気もする――のは、筆者がレニーファンだからそう思うのか、公平に読んでもそう思える作品になっているのかぜひ他の人の意見を聞きたいところです。

 

 

 というわけで、以後はレニーを中心にした感想を書きたいと思います。ネタバレもしています。

 

 思えば2016年から始まったRebirth期ではずっとゴッサム市警に務めていたレニーですが、ロイスからの依頼を契機に警察をやめたようです。なんでも日当500ドル+必要経費が出るそうで。デイリープラネットって取材費凄いんですね。

 刑事をやめたレニーは、顔のない探偵Questionとしてロイスに頼まれた捜査に乗り出すことになります。……とここで、レニーを追ってきた読者としては「いつの間にQuestionになることにしたの?」と疑問を感じなければいけないところです。

 

 確かにレニーは顔のない探偵Questionとして一時期活動していました。しかしそれは、52 (感想はこちら)で初代QuestionであるVic Sageの跡を継いだからで、Rebirth期はそもそもVic Sageに会ったことがあるかどうかすら定かでない。――と思っていると、Vic Sageが登場します。しかも「死んだ記憶がある」と言い出します。52で、レニーは彼を看取っているのです。

 二人ともに確かにVic Sageが死んだという記憶があるのに、今現に彼は生きている。これは一体――となるわけですが、どうも現在のDCコミックスの世界は「2011年で設定がリセットされたNew52前の記憶がある人」がぼつぼつ存在し(レニーとVicもその一例)、何かがきっかけでNew52前のことを思い出したりもする……という状況であることが、この本の終盤に至って明かされていきます。

 

 そして、その終盤で重要な役割を務めるのがEliciaです。もともとはCrime Bible (感想はこちら)という作品に登場した彼女は、レニーが捜査した組織の一員でレニーと良い雰囲気になった――わけですが、Rebirth期ではそんなことをすっかり忘れていたようです。が、とある劇的な事態になってレニーとの関係を思い出すに至ります。Crime Bibleの頃はひたすらに受け身の可哀想な人という印象でしたが、現在はだいぶアグレッシブな人になっている模様です。

 

 終盤、Eliciaが思い出した真相をあれこれ語るシーンはCrime BibleやFinal Crisis: Revelations (感想はこちら)でのネタがちりばめられているので、筆者は楽しく読めましたがロイス・レーン目当てで読んでいた人には「何だこれ……」となっていた可能性も正直否定できない気がします。Crime Bibleの頃のレニーのメインの敵だったReligion of Crimeの名前も出てきますし。

 レニーが重要なポジションでGreg RuckaがライターなのにBatwoman (バットウーマン、ケイト・ケイン)がほとんど出てこないのはReligion of Crimeとはケイトも深い関係があったので話がややこしくなるからだろうなと思いました。とはいえ、Rebirth期でようやく落ち着いていたレニーとケイトの恋人関係が、また別れたということになってしまった(としか思えない)のは残念です。

 

 

 ……とまあ、レニーのことばかり感想に書くことになってしまったわけなのですが……。主役のロイスに関して言うと、一話だけEvent Leviathanの関連エピソードということで本筋と少し離れて入っているロイスのお父さんのお葬式の話が印象的でした。ロイスとロイスのお父さんはあまりうまくいっていなかったらしく、そのことを妹のルーシーに責められるシーンがあります。

 

 ロイスとロイスの父、妹のルーシーと言えば2008年頃のSupergirl誌 (感想はこちら)での親子関係が「姉と比べて父に愛されていないと思っている妹ルーシーが、父に愛されているために彼の指示に従いクリプトン星人を殺す」という割と悲惨なものだったことを思い出します。

 お葬式の時に喧嘩しているとはいえ、Rebirth期の世界ではだいぶましな家族関係になったな……と思うのでした。ルーシーとロイスが上に書いた一件を思い出してしまったら、家族関係がギスギスどころではない騒ぎになりそうです。