2020年7月23日木曜日

Wonder Woman by John Byrne Vol. 3 感想

※Wonder Woman (1987-2006)の各シリーズの感想はこちらをご覧ください。

※このシリーズの各巻感想は以下をご覧ください。

 Artemis(アルテミス)やDonna Troy(ドナ・トロイ)といったワンダーウーマンの仲間たちの活躍が描かれているらしいということで読み始めたこのシリーズですが、最終巻にしてついに彼女たちが大活躍する姿が描かれます。一方で、主役のWonder Woman(ワンダーウーマン、ダイアナ)はやや影が薄いかもしれません。ダイアナの母であるHippolyta女王(ヒッポリタ女王)や、前述のアルテミスやドナ・トロイ、二代目Wonder GirlことCassie Sandsmark(キャシー・サンズマーク)のファンにおすすめの一冊です。
 
【基本情報】
Witten by: John Byrne
Art by: John Byrne
発行年 2019年(※単行本の発行年。連載されていたのは1997-1998年)

公式サイトはこちら。



 Vol. 2のラストでは、ワンダーウーマン、キャシー・サンズマーク、アルテミスの三人が地獄に落ち、ヒッポリタ女王とドナ・トロイが駆け付ける――という展開になっていました。しかし、このVol. 3は病院の場面から始まります。
 というのも地獄での戦いの末にダイアナの魂が悪魔に倒され、彼女は意識を失ったままなのだそうです――というわけでバトルシーンがスキップされたのは残念ですが、ダイアナが意識不明となり後に死亡したことで結果的にこれまで脇に回っていたヒッポリタ女王たちの活躍にスポットライトが当たることになります。なお、ダイアナさんは死後オリュンポスに行ってギリシア神話の神々とあれこれありますので、出番はちゃんとあります。
 
 物語を楽しむというよりは、その端々に現れるダイアナの仲間たちの意外な姿を楽しむという一冊でした。それぞれのキャラクターの見どころをまとめると次のようになります。
 
・ヒッポリタ女王:とにかくフリーダムです。もともとWonder Woman by Mike Deodato(感想はこちら)で「ダイアナを守るためにアルテミスを犠牲にした」というエピソードを引きずり、罪悪感に潰されそうになって女王の地位から去り人間界にやって来たはず……なのですが。
 この巻ではダイアナの死後、ワンダーウーマンの名を継ぎ、「アマゾン族の理想を人間界に広める」というダイアナの使命を果たすはずでした。しかしタイムスリップして第二次世界大戦中のJustice Society of Americaを助けたりと割と好きなように行動しているように見えます。もしかすると、アマゾン族の女王という重い肩書がなかればあっちこっちへ行きたい人だったのかもしれません。思いついたら即行動! という感じもあり、ダイアナに似ていますね。やはり母と娘でしょうか。

・アルテミス:この巻ではドナ・トロイやキャシー・サンズマークと行動を共にしている場面が多いのですが、意外と面倒見がよい姿が描かれています。ダイアナと一緒にいる場面ですと荒っぽい言動の方が目につく彼女ですが、明らかに年下の相手や明らかに自分より力のない者に対しては優しいのかもしれません。
 ドナ・トロイがアルテミスのことを"Artie"と呼ぶ場面もあり、可愛いニックネームだと思っていたら少し後にアルテミスが「二度とArtieと呼ばないで」と言っていました。ダメですかArtie。可愛いのに。
 なお、ヒッポリタ女王とは確執があっていいはずですがアルテミス本人は意外と気にしていないように描かれていました。むしろダイアナの方が、ヒッポリタ女王がアルテミスを犠牲にした件にこだわり続けています。


・キャシー・サンズマーク:Vol. 2に続き元気いっぱい、経験が浅いゆえの怖いもの知らずぶりを発揮しています。ドナ・トロイにWonder Girlの衣装を譲られて大喜びする場面も。これで正式(?)にWonder Girlになりました。



……さて。以下はネタバレを含みます。

・ドナ・トロイ:とにかく大変なことになっています。
 もともとこの作品のドナ・トロイはスーパーパワーを失っていました。さらに元夫と彼に引き取られた子供たちが交通事故で死亡したことが確定します。人生のどん底に落ちる彼女に忍び寄るDark Angelという影。実はドナ・トロイはDark Angelという魔女により何度も何度も転生させられ、そのすべての人生で悲惨な経験をして死んでいるのでした……ということが語られます。
 そもそもドナ・トロイはアマゾン族随一の魔術師Magalaによって産み出されたダイアナの魂のコピーだったらしく、子供時代のダイアナの唯一の友達でした。しかし、第二次世界大戦中のヒッポリタ女王の活躍により野望を阻止されたDark Angelがその前に現れます。Dark Angelはヒッポリタ女王の娘に悲惨な人生を何度も体験させようとダイアナを狙った――はずが、間違えてドナに呪いをかけたのでした……というわけで、悲惨な人生を何度も経験する羽目になるドナ。
 Dark Angelもやることが陰険な割に詰めが甘いですね。もともと「ダイアナに悲惨な経験を繰り返し味わわせればヒッポリタ女王がそれを察知して苦しむだろう」という計画だったらしいのに、ドナとダイアナを間違えた挙句(ここはまだ仕方ないとしても)、ヒッポリタ女王がちゃんと苦しんでいるかどうか確認している様子がありません。ドナを苦しめるのに夢中になって本来の目的を忘れていたのでしょうか。まったくもう。
 
 話としては、みんなでドナを助けてDark Angelを倒し呪いからドナを解放します。何となくですが、当時のTeen Titans誌関係の展開でドナが激動の人生を送っていた結果「どうして彼女はこんなに大変なことになっているのか」という疑問が生まれたためにこのエピソードが作られたのかな……とも思います。

 そして、Dark Angelを倒したことでドナはもう理不尽なまでにひどい目に遭うことはないはず……ですが、十数年たったNew52期でもRebirth期でも彼女はなんだか延々苦労しているわけです。それを思うと、実はDark Angelが裏で糸を引いているんじゃないかな……という気持ちになりました。