2020年7月12日日曜日

Secret Six (2008-2011) Vol. 2: Money and Murder 感想

※このシリーズの各巻感想は以下をご覧ください。



Gail Simone氏が描くSecret Sixの第二巻を読みました。ヒーローともヴィランともつかないチームSecret Sixの活躍を描くこのシリーズですが、第二巻と第一巻の間には少し間があったらしくメンバー変更が起きています。
 
【基本情報】
Writer: Gail Simone
Artists: Various, Doug Hazlewood, Nicola Scott
Cover by: Cliff Chiang
発行年 2015年 (連載されていたのは2008年ごろ)
公式サイトはこちら。




 1巻との大きな違いとして、まずScandal Savage(スキャンダル・サヴェッジ)の恋人であり、DCコミックス界最大の悪役の一人であるDarkseidの元部下で、地球に逃げてきたKnockout(ノックアウト、ケイ・フューリー)が死亡しています。……大変仲の良いカップルだっただけにショックです。調べてみたところ、Secret Six誌ではない別のコミックで彼女の死が描かれているようなので、いずれ読みたいと思います。
 
 というわけで、スキャンダルが落ち込んでいるところから物語が始まります。一方、新しく加入するメンバーは次の二人です。
 
 ・Bane(ベイン):バットマンの背骨を折ったこともある悪役として知られる。薬物を使って身体能力を超人レベルまで高めることができるが、本作では薬物から離れようとしているようだ。スキャンダル・サヴェッジのことを娘のように思っているらしい。
  
 ・Jeanette:スペインの没落貴族の出。不遇の一生を過ごし、Banshee(バンシー)と呼ばれる妖精のような存在になる。人の死の匂いを嗅ぎ取る。叫び声で人にダメージを与え、死に追いやることもできる。スキャンダル・サヴェッジの友人。
 
 この二人がどういう経緯で加入したかはこの巻では特に語られません。
 この巻で特筆すべきは、ベインの紳士ぶりです! どういうわけかスキャンダル・サヴェッジのことを娘のように思っていて(彼女が落ち込んでいるのを見ていられなかったのでしょうか)、体調を気遣ったり彼女を助けるためならと奮闘したりします。彼女がレズビアンであることも知っているので恋愛方面で何か下心があるというわけでもなく、読んでいるこちらからもだんだんお父さんと娘の関係に見えてきます。
 
 たとえば、スキャンダルが夜中こっそりベインの部屋に忍び込んでいたのを見つけた時のベインのセリフ。
"A YOUNG GIRL, SNEAKING INTO A MAN'S ROOM? IT IS INAPPROPRIATE, SCANDAL SAVAGE. ANOTHER MAN MIGHT MISUNDERSTAND."
「若い女の子が男の部屋に忍び込むのか? 不適切だ、スキャンダル・サヴェッジ。他の男だったら誤解しているぞ」

 実に紳士ですね。素晴らしい。
 これまで、主にバットマンの話で何度かベインを見たことはあったのですが、こんな彼は初めて見ました。ヴィランとヒーローの間に位置する、Secret Sixというグループならではのベインなのかなと思います。
 
 さて、この巻には
 ・謎のカードを手に入れるため大量のヴィランと戦う話
 ・謎の島で奴隷となっていたアマゾン族を助ける話
 
 という二つの中編と、短編が収録されています。最初の、「謎のカードを手に入れるために~」という話は最終目的地がゴッサム市であることもあり、バットマンやハントレスといったバットファミリーが登場します。ハントレスはGail Simone氏のBirds of Prey(感想はこちら)でもキャットマンと絡みがあり、この作品でもキャットマンを「危険すぎる」とゴッサム市での戦いから逃そうとします。
 Birds of Preyではもしかしてハントレスとキャットマンのロマンスか……といった雰囲気でしたが、本作ではお互いの存在を尊重してはいても恋愛関係には発展しそうにない、という雰囲気でした。Secret Sixを読む限りキャットマンはそんなに悪い男ではないと思うのでハントレスの相手としてもありだと思いますが……、もしかすると、彼女にはちょっと物足りないのかもしれません。
 
 この物語は「謎のカード」が言われている通りに本当に貴重なものなのか、単なるカードに過ぎないのかが最後までぼかされているためにヴィランたちやヒーローたちが入り乱れての戦いに若干の虚しさを感じるお話でもあります。オチまで含めて、独特の味わいがありますのでぜひお読みください。
 
 
 中編の二つ目、謎の島でアマゾン族を助ける話にはWonder Woman(ワンダーウーマン、ダイアナ)とArtemis(アルテミス)が登場します。この話はSecret Sixの活躍ももちろんですが、ダイアナとアルテミスの友情というか愛情というか……がとても良かったです。これについては以下、ネタバレを含む感想として書きたいと思います。話のラストまでネタバレしています。

 
 
 アルテミスとワンダーウーマンの話は、Amazons Attack! (感想はこちら)の展開を受けてのものになっています。Amazons Attack! の後、アメリカを襲ったアマゾン族たちは世界各地に散り散りになったはずなのですがアルテミスたちはその後捕らえられ、アメリカ政府の手によって謎の島に送られてきたようです。この謎の島は、世界各地から様々な人を集めて奴隷にしていたのだ――というのが物語の設定となります。
 Secret Sixはこの島をヒーローたちから守るよう依頼されてやってきたのですが、奴隷の島だと知って態度が変わります。
 
 ここで、「奴隷の島だろうが何だろうが契約は守るべき」というメンバーと、「奴隷主を守ることはできない」というメンバーに分かれるのが面白いなと思いました。しかもちょうど3人ずつです。ヒーローでもなく、ヴィランでもなく……というこのチームの立ち位置をよく表していると思います。
 そんなわけで二手に分かれたチームですが、アマゾン族たちを連れて脱出しようとするアルテミスに協力することになっていきます。
 
 しかし、最後の最後に難関が。アルテミスは、奴隷に戻るかアマゾン族たちを全員殺して自分も死ぬか――というところまで追い詰められていきます。詳しくは読んでいただきたいのですが、Secret Sixも助けることのできない絶体絶命の状況に現れるのがワンダーウーマン(ダイアナ)です。
 この時のアルテミスの表情の変化が印象的でした。すっかり諦めきった表情から、ダイアナを見て安堵の表情へと変化していきます。
 アルテミスにとってダイアナとは、アマゾン族の女王でもあり、ダイアナさえいればどんなことでも何とかなると思える、そんな存在なのだなと思えるシーンでした。
 
 このSecret Sixのエピソードを経て、アルテミスたちはGail Simone氏のWonder Woman誌(感想はこちら)でセミッシラ島へと帰還することになります。
 
 ……ところでこの巻に収録されているエピソードでSecret Sixは大体依頼主と喧嘩しているのでちっともお金を稼げていないよね、と思ったらラストでちゃんとメンバーの一人がそのことについて発言していました。次巻はお金問題も議論されるようです。