2020年2月12日水曜日

Wonder Woman by Greg Rucka Vol. 3 感想

※Wonder Woman (1987-2006)の各シリーズの感想はこちらをご覧ください。

※このシリーズの各巻感想は以下をご覧ください。


Vol. 1, 2に引き続きGreg Rucka氏がメインライターを務めたWonder Woman誌のVol.3を読みました。Wonder Woman(ワンダーウーマン、ダイアナ)とセミッシラ島に住むアマゾン族たちの栄光と敗北を描いた大河ドラマという印象を受けました。

【基本情報】
Writer: Greg Rucka
Artists: Various
発行年 2019年 (単行本の発行年。連載されていたのは2006年頃)

公式サイトはこちら。


セミッシラ島のアマゾン族の大使としてアメリカに住むワンダーウーマン。彼女は生活の仕方や考え方をまとめた著書"Reflection"が評判になるなど大人気。Vol. 2までの展開では、彼女や大使館メンバーを傷つけた敵も倒し、オリュンポスでは知恵の女神アテナが主神の地位につき、すべては落ち着いたように見えた。
しかし、ある事件がワンダーウーマンの評判を地に落とす。一転、ワンダーウーマンはバットマンの開発したシステムに追われる身となるのだった。その脅威はセミッシラ島のアマゾン族にも迫る。危機の中でダイアナが下した決断とは――というのがあらすじです。

このVol. 3に収録されているエピソードの途中で、Superman: Sacrifice(感想はこちら)に収録されている事件が起きます。この事件の経緯を知っていないとこの本の内容も楽しめませんので、このシリーズは
Wonder Woman by Greg Rucka Vol. 1

Wonder Woman by Greg Rucka Vol. 2

Superman: Sacrifice

Wonder Woman by Greg Rucka Vol. 3

という順序で読むのがお勧めです。

話全体の感想としては、実に見事な敗北の物語でした。歴史上の人物を主人公にした物語を描く場合、徳川家康のように晩年まで比較的うまくいって子供たちもちゃんとその後を継いでいく――といった人物は別にして、多くは志半ばに倒れたり心残りを残していったりします。そうした人物の物語は、若いころの栄光の時代が中盤に来て盛り上がり、ラスト付近では苦い敗北や後悔を堪能することになるものです。

このGreg RuckaのWonder Womanの物語は、ダイアナの一代記というわけではなくラストで死ぬわけでもありませんが、それでも輝かしい栄光の後の敗北を描き、アマゾン族とダイアナの黄昏を味わうことができます。
Vol. 2ラストのような爽快感はありませんが、「一つの時代を読みきった」という満足感を十分に得られますのでおすすめです。なお、ラストに一応救済もありますので敗北を描いていると言っても後味はそこまで悪くありません。

ちなみに、本編終了後にBLACKEST NIGHT: WONDER WOMAN #1-#3も収録されています。


以下、ネタバレを含む感想です。話の核心部分までネタバレしています。

 

Superman: Sacrificeで「これ以外の手段がなくて」人を殺す、というタブーを犯したダイアナがそのことによって追い詰められ、今度はアマゾン族たちが「これ以外の手段がない」と言いながらタブーを犯す姿が印象的でした。

ダイアナは人を殺したことで、バットマンの開発したシステムOmacにより狙われることになります。作中で言っていることを総合すると、人を殺したMetahuman(超人)を殺すためにこのシステムは活動を開始したようです。そして、Omacは無辜の人々を操りダイアナを殺すべく襲い掛かってきます。――どうしてバットマンがこんな非人道的なシステムを作ったのかじっくり聞きたいところですがそれはいいとして。

結局Omacはダイアナを殺せないことが分かり、今度はセミッシラ島のアマゾン族に狙いを定め彼女たちを次々と殺していきます。対抗するため、これまでつかってこなかった兵器を使用するアマゾン族。しかしそれは、Omacに操られた人々の大量殺人という結果を産みます。

……アマゾン族の人々自身もOmacに次々殺されていて、ジェノサイドすらも予感させる状況でした。一方で、アマゾン族は特殊な兵器を使用したことでOmacに操られた人々を殺してしましました。

Superman: Sacrificeの時、Maxwell Lordがスーパーマンを操る限り脅威は去らないことからダイアナはMaxwellを殺すという決断をしました。あの時の「これ以外の手段がなくて」という決断が、見事にダイアナに返ってきます。最高に皮肉で意地悪なストーリーだと思いました。


最終的にダイアナは、セミッシラ島を人間の世界から消すという決断をします。このシリーズでは当たり前のようにセミッシラ島が人間たちに認知されていて、当たり前のようにアマゾン族と人間の世界との行き来がありました。しかしそうした幸福な時代は終わりを告げたのだとしみじみ噛みしめることのできる展開になっています。

上にも書きましたが、Greg Rucka氏のこのシリーズはアマゾン族とダイアナの栄光と敗北を描いた物語だと感じます。そしてその敗北がまた味わい深く、シリーズのラストにふさわしい一巻だと思いました。