2020年2月6日木曜日

Justice League Dark (2018-) Annual #1, #14-#19 感想

※このシリーズの各話感想はこちらをご覧ください。

DCコミックスのヒーローたちの中でも、主に魔法を操るヒーローたちが活躍するのがJustice League Darkのシリーズです。2018年から始まったこのシリーズではWonder Woman (ワンダーウーマン、ダイアナ)、Zatanna (ザターナ)、Man-Bat (マンバット)、Detective Chimp (ディテクティブチンプ)、Swamp Thing (スワンプシング)が主なメンバーになっています。

これまで、このシリーズでは原初の魔法の使い手であるOtherkindsを主な敵として描いてきました。
DCコミックスの世界で魔法の世界の秩序を保っていたはずのDr. FateがOtherkindsたちをこの世界に入り込ませてしまったため、魔法の法則は壊れ、魔法の使い手たちも様々な形で傷つき倒れていきます。

そんな中、ワンダーウーマンの昔からの敵ともいえる魔女Circeはレックス・ルーサーの誘いに乗り魔法の女神であるヘカテの力を使って仲間たちと共にInjustice League Darkを結成し、Justice League Darkを倒そうとするのでした――というのが今回の主な物語になります。

【基本情報】
Writers: James Tynion IV, Ram V
Penciller: Guillem March, Alvaro Martinez, Fernando Blanco, Javier Fernandez
Inker: Guillem March, Raul Fernandez, Fernando Blanco, Javier Fernandez
Colorist: Arif Prianto, Adriano Lucas, Brad Anderson, John Kalisz
Cover by: Ivan Plascencia, Riley Rossmo, Guillem March, Arif Prianto, Nathan Fairbairn, Yanick Paquette, Rainier Beredo, Stephen Segovia, Brad Anderson, Raul Fernandez, Alvaro Martinez
発行年 2019-2020年

公式サイトはこちら。



そもそもなぜCirceさんのところにレックス・ルーサーが妙なことを吹き込みに来たか――といえば、イベント"Year of the Villain"のためです。というわけで、Justice League Darkの本筋というよりはイベントに絡んだお話のはず――と思って読んでいたのですが、しっかりがっちり本筋に食い込んだお話でした。

#1からここまでずっとメインライターを務めてきたJames Tynion IV氏はおそらくここでメインライターを降り、#20からRam V氏に交代するものと思われます(※DCコミックスの刊行予定によれば)。というわけで、James Tynion IV氏の描くJustice League Darkの物語の総まとめ――といった感のあるエピソードになっていました。

そこで、#1からの流れを振り返りながら感想を書いていきたいと思います。

これまでのJustice League Darkはおおむね、

・#1-Witching Night:Otherkindsの来襲による魔法の破壊を描き、古代の魔法の母である女神ヘカテについて語る

・#5-7:ディテクティブチンプのエピソード、ザターナの父(故人)の行動を語る

・#8-13:Otherkindsをこちらの世界に招き入れたDr. Fateとの戦いを描く

という流れで来ていました。毎月楽しく読んでいたのですが、今になって思えばこのシリーズは「DCコミックスの世界における『魔法』というものの位置づけを考え直す」という目的のもとに描かれた作品のように思えます。

・魔法の根幹を揺るがすOtherkindsという存在を出すことで、魔法の誕生から現在に至るまでの経緯を描き、その中で魔法の母であるヘカテを描く
・Lord of Order(秩序の大公)と呼ばれるDr. Fateとは何者なのかを描く
・これまで魔法と縁の薄かったWonder Womanを話の中心に据え、彼女が魔法と接していく姿を描くことで「魔法とは何なのか」という問いへの一つの答えを提示する

といったことを実現した作品だと思います。DC世界における植物の精霊Greenと繋がる存在であるSwamp Thingについても位置づけをし直す予定なのだと思いますが、それは今後のRam V氏のストーリーに委ねられるようです。

さて。魔法とは何なのか。

この作品の中で描かれた歴史的な経緯をたどれば、魔法とは太古の昔からあったものということになります。魔法における光の面を司る存在(ヘカテ)と闇の面を司る存在(Otherkinds)は本来二つで一つのはずでしたが、ヘカテはOtherkidsを忌み嫌い彼らを近づけないようにしました。いろいろあって彼女はこの世界に絶望し少しずつ闇を取り入れていくようになりますが、Otherkindsが本格的に侵入するのはLord of OrderであるDr. Fateが彼らをこの世界に招き入れてからです。Justice League DarkはDr. Fateとも戦います。

#14-#19でJustice League Darkが戦うCirceは、ヘカテの力をこっそり手に入れておりそれを使うチャンスを窺っていましたが、レックス・ルーサーの言葉に合わせて本格的に活動を始めました。

……という展開でしたので、正直このCirce編はヘカテ編の焼き直しになってしまうのでは……と思っていたのですが、最終話にあたる#19でワンダーウーマンに対し、「魔法とは何だと思いますか?」というインタビューを入れたことでだいぶ印象が変わりました。また、Circeとの対決についても少し触れたいことがあるのですが、これはネタバレを含むので下の方で書きたいと思います。

#19でワンダーウーマンは、「魔法とは何だと思いますか?」という問いに対し

"MAGIC IS WONDER. MAGIC IS HORROR. MAGIC IS EVERYTHING AND NOTHING. IT IS WHAT YOU WILL IT TO BE. IT IS WHAT IT WIILS YOU TO BE."
「魔法は、驚異。魔法は、恐怖。魔法は全であり無。魔法はあなたが望むものになるし、魔法があなたのことをこうあってほしいと望む姿」

と答えています。これはもちろん正解のない問いで、答え方によってその人の魔法観が分かるものです。
ワンダーウーマンの回答は何も答えていないようで、これまでの彼女の軌跡をよく表していると思います。

ワンダーウーマンは魔法に関しては右も左も分からない状態でJustice League Darkの世界に飛び込んできて魔法の世界でかなりひどい目にも遭いました。文字通り、全身で「魔法とは何か」を学ばなければならない状況でした。そうした経験を踏まえて、彼女が「魔法は全であり無」という回答に至ったのは分かる気がします。

筆者はこのセリフを読んだとき、#2でザターナがワンダーウーマンに言ったセリフを思い出しました。
"LOOK, DIANA...MAGIC IS A PRECIOUS, SECRET THING...I WON'T LET IT DIE."
「ねえ、ダイアナ……魔法は貴重で秘められたもの……私は魔法を死なせない」
幼いころから魔法と接し、魔法を使いこなすザターナは、ワンダーウーマンの感覚とは少し違っていることが良く分かりますね。

このJustice League Darkは毎号読者をワクワクさせる一大娯楽作品ですが、同時にDCコミックスの世界における魔法の基本を分かりやすく教えてくれる作品だったとも思います。


ところで、James Tynion IV氏が書いたエピソードの中で語られた伏線の中で、まだ回収されていないものがいくつかあります。

・ザターナが父を地獄から助けると言い出し、元恋人にして父と結託して自分を騙していたコンスタンティンにそれを手伝うように求めている。

・そのコンスタンティンは、肺がんが再発している。

・魔法の法則を描いた本"BOOK OF MAGIC"も誰かが書き直さなければいけないはず。

……この辺、ちゃんと回収されるでしょうか……。

さて、以下はネタバレを含む感想です。主にCirceとの戦いについて。最後までネタバレしています。


 

Circeとの戦いは上述したように対ヘカテ戦を思い起こさせる要素が多々ありました。これはおそらく作者が故意にそうしていることで、Circe自身が「ヘカテのように魔法を支配する女神となる」ことを野望に抱いていたからだと思います。

対するワンダーウーマンは、対ヘカテ戦でOtherkindsにヘカテを食べさせるというやり方で撃退したように、Otherkindsの力を借りることになります。――その時のやり方が何とも言えず不穏です。
ワンダーウーマンはOtherkindsと取引をします。力を貸してもらう条件は、「Otherkindsを本来あるべき姿に治す」ことです。

Otherkindsは光の存在であるヘカテから切り離されてしまったことで「本来の姿」ではなくなってしまったわけですが、それを直すと言ったら……。話の終盤でワンダーウーマンはCirceさんに彼女が求めていた力を与えて、「ヘカテの生まれ変わりになりたい」という彼女を満足させて封印するわけですが、――OtherkindsとCirceさんを最終的に合体させるつもりなのではあるまいな。と懸念しています。Circeさんと協力してOtherkindsに対処するという感じですよね。きっとね。


……それにしても、Circeさんは相変わらず詰めが甘いです。せっかく仲間を集めてInjustice League Darkを作ったのに、仲間の統制が全然とれていません。その辺、もう少しじっくり事を進めるようにした方がよさそうです。