ドラマ版の設定を簡単に抑えてから読んだ方がいいですよ、と教えてもらったので軽く調べてから読んでみましたが、必要な知識としては
・この作品でのワンダーウーマンは、普段はアメリカ政府組織IADC (INTER-AGENCY DEFENSE COMMAND)のエージェントであるダイアナ・プリンスとして活動している
・スティーブ・トレバーもIADCのエージェント
というところでしょうか。一話完結で、ワンダーウーマンが様々な事件を解決していく物語になっています。大抵の話がIADCに問題が持ち込まれてダイアナとスティーブが乗り出す――というところから始まるので、全体的な印象としてはスパイものです。チーターやシルバースワンといったコミックでおなじみの敵役も登場しますが、それぞれにこの作中での設定を説明してくれるので、コミックを読んでいなくても置いてきぼりにはならないと思います。
【基本情報】
Writer: Marc Andreyko, Trina Robbins, Amanda Deibert, Ruth Fletcher, Christos Gage, Amy Chu
Artists: Cat Staggs, Jason Badower, Matt Haley, Drew Johnson, Dario Brizuela, Tom Derenick, Staz Johnson, Richard Ortiz, Various
Cover by: Nicola Scott, Jason Badower
発行年 2016-2017年
公式サイトはこちら。
さすが1977年のTVドラマ――と思ったのは、話の前提が米ソ冷戦にあるエピソードがいくつかあったことでした。Vol. 1の冒頭に収録されているエピソードから、ソ連の核技術者の頭脳が武器開発に使用されるのを防ぐというものですし。
"IRON CURTAIN"という言葉が出てくるエピソードもあります。鉄のカーテンという言葉を聞くことは最近はほとんどないですね。
そんな世界設定でアメリカの政府組織に勤めるワンダーウーマン、という状況ですからワンダーウーマンは当然アメリカに肩入れしている――かと思いきや、
「私は世界の市民!」"I AM A CITIZEN OF THE WORLD!"
という意味のセリフが何度か登場します。これはもともとのTV版でもこうしたセリフがあったのか、興味深いです。TV版ではなかったセリフが今回のコミックでは登場した、ということなら時代の変化やワンダーウーマンというキャラクター自体の変化に合わせたものなのでしょうと推測できます。
あるいはもともとのTV版にこうしたセリフが存在していたのなら、冷戦下であってもワンダーウーマンは必ずしもアメリカという国家にどっぷり浸っているわけではないと描かれていたことになります。
いずれにしても、ワンダーウーマンというキャラクターにとって重要なセリフのように感じました。
物語は上に書いたように一話完結形式なので複雑な構造になることもなく、ワンダーウーマンがそれほど深刻なピンチに陥るということもないので寝る前などに一話ずつ読んでいくのにお勧めの作品だと思います。
読んでいて最も印象的だったエピソードは、2巻に収録されている象牙の密猟者の話でした。以下、ネタバレを含む感想です。
象牙の密猟者の話は、ワンダーウーマンが密猟者を見つけて倒し、しかるべき機関に引き渡すところで一応の決着を見ます。ただしこれはあくまで「一応」です。というのも象牙に高い値段が付く限り密猟者がいなくなることはないからです。
このコミックの世界もこの事実は厳然とワンダーウーマンの前に立ちはだかります。そこでワンダーウーマンはどういう行動をとったか。殴る蹴る、では当然事態は解決しないので、彼女はカメラの前に立ち、象が絶滅の危機に瀕していることを訴えます。
その国の政府の人(経済を考え、象牙の規制には反対している)に「そんなことを言うな」と止められると、彼女はこう言い返します。
「私は自分で選んだことを言える。自分で選んだとおりにできる」"I CAN SAY WHAT I CHOOSE. I CAN DO AS I CHOOSE."
そして改めてカメラに向かい、人々にこう訴えます。
"SO CAN WE ALL. TALK TO YOUR NEIGHBORS. TEACH YOUR CHILDREN. MAKE IVORY WORTHLESS. THAT IS OUR HOPE FOR FUTURE."
「あなたたちみんなもそうです。ご近所と話して下さい。子供たちに教えてください。象牙を無価値なものにしましょう。これが私たちの未来への希望です」
こうした、自分の言葉で考えることや自分の行動を自分の意思で選ぶこと、これがワンダーウーマンという存在の発しているメッセージなのだろうなと思いました。
Greg Rucka氏がメインライターを務めたワンダーウーマン誌(感想はこちら)では、自らの生き方や考え方をまとめた本を出版しているワンダーウーマンですが、それに書いてあるのもおそらくはこういったことなのでしょう。
社会の中で生きていると、ましてやワンダーウーマンのような力を持たずに生きていると、自分の行動を自分の意思で選ぶというのは往々にして難しいものです。それでも、こうしたメッセージを発している誰かがいれば時には自分の意思で自分の行動を選ぶ瞬間が生まれるかもしれない。そんな風に感じたエピソードでした。