2022年3月12日土曜日

The Other History of the DC Universe (2020-) #4: 感想 -Ridley流レニー・モントーヤ-

※このシリーズの各話感想はこちらをご覧ください。 

 The Other History of the DC Universe の#4を読みました。このシリーズはDCコミックス社がこれまで描いてきたエピソードを異なる視点から見つめなおすというコンセプトの作品になっています。全5話ですが、主人公たちはすべて非白人で社会的な背景も取り入れるというところもポイントになっています。

 ライターはすべてJohn Ridleyが務めています。John Ridleyといえば、The Next Batman (感想はこちら)でRenee Montoya (レニー・モントーヤ)をそこそこ重要な役どころで登場させたものの筆者とは今一つ考えが合わなかったのですが、レニー・モントーヤを主役に描いたこちらの作品を読んでみました。

 

 なお、この作品はコミックではなく、イラストに文章がついているという形式です。文の多い絵本という感じでしょうか。

 

【基本情報】
Written by: John Ridley
Art by: Giuseppe Camuncoli
発行年 2021年


公式サイトはこちら。


 表紙のすぐ次のページに1992-2007: Renee Montoyaとあり、その頃のレニーのエピソードを語りなおしたものということになると思います。実際に再編成されているエピソードは、

 Batman: No Man's Land (感想はこちら)

 Gotham Central (感想はこちら)

 52 (感想はこちら)

 Convergence: the Question (感想はこちら)

 

 で、すべてGreg Rucka 作品です。これはレニーを重点的に描いたのがGreg Ruckaなので、当然のことと言えますね。

 

 作品の特徴としてすぐに気づくのは、現実に起きた事件を物語の背景として取り入れていることです。

 作品が制作されたまさにその時代の「現代社会」を舞台にしている作品の場合、読者が当然分かっている社会の雰囲気についてはわざわざ細かく描写されない場合があります。

 たとえば現代の読者が"Gotham Central"で、レズビアンであることをアウティングされて追い詰められるレニーの姿を見ると「当時は今よりもずっと同性愛への偏見がきつかったんだな」と頭で理解しながら読むことになるわけですが、この作品では「エイズはゲイの病気とされていた」ということを現実に起きた事件と共に描写します。

 

 そうした具体的な描写が挿入されることで、レズビアンであることを自覚するようになったレニーの息が詰まるような心情が現代の読者にもリアルに伝わってくるという効果が生まれてきます。9.11によって生まれた「敵か味方か」という社会の空気もまた、胸に迫ってくるものがあります。

 

 "Other History"というシリーズのタイトルですが、一見したところさほど大規模な改変は行っていないようにも見えます。細かい時系列は変化していますが。

 ただ、最大の改変ポイントは、レニーがバットファミリーのことをずっと快く思っていないことですね。バットウーマンだけは少し違うようですが。

 後に覆面をかぶった探偵"Question"となったことで「マスクをかぶる」ことが当人に与える意義は認めるものの、法律に縛られないやり方で犯罪者と戦うことを良く思っていないレニーの姿がずっと描かれています。

 Greg Ruckaの描くレニー像では、警察に入る前の学生時代からバットマンのことを頼もしく思っていたと描かれていますから、ここは大きな改変だと思います。

 

 そして、この作品で描かれているレニー像は確かに、The Next Batmanでゴッサム市でのバットファミリーの活動を認めないとするレニーの姿とは矛盾しないのです。The Next Batmanで描かれるレニーは、この作品のレニーの延長だと考えればさほど違和感はありません。

 

 John Ridleyの描こうとするレニー像が分かる一冊でありました。気になるのは、今後別のライターがレニーを描くときにJohn Ridleyタイプのレニーになるのか、従来のようなレニーになるのかということですね。