The Other History of the DC Universe の#3を読みました。このシリーズはDCコミックス社がこれまで描いてきたエピソードを異なる視点から見つめなおすというコンセプトの作品になっています。
今回の作品の主役はKatana (カタナ、タツ・ヤマシロ)です。ライターのJohn Ridleyが描いたThe Next Batman (感想はこちら)でもいいところで登場した彼女ですが、この作品はThe Next Batmanのカタナと違和感なくつながるものになっていました。
しかしどうしても、日本に関わる細かい部分が気になってしまうという、もったいない作品になっています。
Written by: John Ridley
Art by: Giuseppe Camuncoli
発行年 2021年
公式サイトはこちら。
まず、本を読み始めてすぐに目に入るのが「1983-1996: 山城 達」という表記です。年に関しては、カタナのエピソードを再編成する上での元々のコミックが連載されていた時期だと思うのでいいとして。
「山城 達」という表記を見て筆者はまず「山城たち……そんなグループいたっけ?」と考えてしまったのですが、これ多分「やましろ たつ」なんですね。カタナさんの本名を漢字表記すると「山城 達」だと言っているんですね。
てっきりカタナさんの名前は「タツ」か「辰」か「龍」だと思っていましたよ。まさか「達」だとは。
……もちろん、「達」というのは悪い意味の漢字ではないので(「達成」とかね)、こういう漢字の「たつ」さんがいないとは言いませんがかなり珍しい名前なのでは……。達夫さん、なんて名前の人はさほど珍しくないですが。
さらにカタナさんの双子の子、YukiとReikoがtwin boysということになっています。こういう名前の男の子が絶対いないとは言いませんが、かなりの確率で女の子の名前なのでは……。
もっとも子供たちに関して言えば、YukiとReikoという名前が出てきたのがBatman and the Outsiders (1983-1987) #12 (感想はこちら)で、絵を見ると確かに男の子っぽいのですが(下図)。
(Batman and the Outsiders (1983-1987) #12より、YukiとReiko. Written by Mike W. Barr, Pencils: Jim Aparo, Inker: Dick Giordano, Colorist: Adrenne Roy) |
「カタナさんが持つSoultakerは普通の刀で、相手を怯ませるために刀に話しかけるような演技をしていた」という改変をしている本作なら、しれっと双子の女の子に改変してしまっても構わなかったと思うのです。
海外ファンサイトではこの双子のことが"daughter"と表記されていて、原作コミックを厳密に読むと間違いということになるのかもしれませんがこれは責められないと思います。
カタナさん周りの人物名でいえば、夫のMaseoさんも絶対にないとは言いませんが珍しい名前ですよねえ。これは本当にこの作品のせいではありませんが、どうしてこう、「珍しい名前だな……」という名前を選んでくるのか。
さらに物語の後半では、Afterlifeを日本語で言うと「高天原」なんて記述が出てきます。いや、Afterlifeをそのまま訳すと「来世」とか「あの世」とかでしょうし、日本の神話っぽい言葉にしたいなら「黄泉の国」ではないでしょうか。多くの場合高天原は神々の世界であって、人が死んだら行く場所としては連想しないと思います。
……作品全体としてはアメリカでの日本人を含めたアジア人差別の歴史に着目しているなど日本を意識しているのは分かります。しかしそれならば一人でも日本の人に監修してもらったらこうはならなかったんじゃないか、と思います。
さて、お話としては「夫と子供たちを殺され、幽霊のようになって暗殺者として生きていたTatsu YamashiroがOutsidersの一員となり、徐々に人間らしい感覚を取り戻していく。Lady Shivaに殺されかけ、臨死体験の後に改めて戦士として生きることを選ぶ」というもので、臨死体験の前後で人生観が変わっていそうなのでThe Next Batmanのカタナさん像ともつながりやすいかなと思いました。
また、OutsidersのメンバーであるBrion Markovの妹、TerraについてJudas Contract (感想はこちら)の件を「Deathstrokeにいいようにされた犠牲者」と描いているのも良かったです。Judas Contract、子供むけヒーローコミックとしてはちょっとどうなのかと思ってしまうくらいTerraとDeathstrokeの関係性がひどいので。
日本関係の細かいことにもう少し気を使ってもらえたらもっと集中して読めたのにな、と残念な一冊でした。