Steve Orlando氏によるWonder Woman Vol. 4の感想の続きです(前の記事はこちら。)。今回は「真実を隠された人としてのPaula von GuntherとDonna Troy (ドナ・トロイ)」について。
今回読んだVol. 4で最も印象的な敵はPaula von Guntherです。彼女もWonder Woman (ワンダーウーマン、ダイアナ)のヴィランとしてよく登場しますが、今回の設定では「火事になった家からダイアナによって助け出され、両親は死亡したため養父母のもとで育てられる。大人になってからは政府組織A.R.G.U.Sのエージェントとなり、スティーブ・トレバーやダイアナと一緒に様々な事件を何度も解決した。しかし、実は彼女の両親はテロリストであり、彼女の先祖はアマゾン族を仇とするヴァルキリーの一族だったのだった。ダイアナはそれを知りながら、彼女から隠していた。ある時彼女は真実を知ることになり、ダイアナを憎んだ」というものになっています。
この一連の描写を読んだ時、筆者の頭に浮かんだのは「ドナ・トロイと同じような境遇だな」というものでした。Rebirth期ドナ・トロイの設定はTitans Vol. 2 (感想はこちら)で主に語られていますが、「本来はダイアナを倒すための兵器として作られた存在だったが、その陰謀は防がれ、ドナは『ダイアナに育てられた人間の子供』という偽の記憶を与えられアマゾン族に育てられた」というものです。よく似ています。
こんなそっくりな設定は当然偶然であるはずもなく。
Paula von Guntherが部下と共にダイアナとアマゾン族を倒そうと計画を進める中でドナにも接触し部下へと誘います。この頃、ドナはYear of the Villain: The Infected (感想はこちら)で描かれていた事件で邪悪な存在、Deathbringerに変貌した後に元に戻った時期ですのでいろいろとショックを受けている状況です(なお、ちらっと出てくるVixen (ビクセン、マリ・マッケイブ)がドナを心配しているらしい様子が彼女の面倒見の良さが出ていてとてもいいと思います)。
とはいえ、Paula von Guntherの計画には乗らずダイアナと共に戦うことを宣言します。
Infected事件で傷ついた後ということもあり、もう少しくよくよしてほしかった気もしますが、まあ、Rebirth期Titansシリーズはほとんどの巻でドナが人生に迷っていたという感じもあるので(その分、最後にいろいろと吹っ切れるドナは読んでいて気持ちよいです)今ここで迷うこともない――という感じでしょうか。
ダイアナと和解する姿もWonder Woman: Agent of Peace #21 (感想はこちら)で描かれていますしね。
ダイアナを中心にPaula von Guntherとドナのエピソードを捉えなおすと、Truth Queen (真実の女王)であるダイアナに方便としての嘘は許されるのか? という問題になると思います。
とはいえ、子供にあまりハードな真実を教えるのは善行とは言えないと思うのですが、しかるべき時期に真実を伝えるべき――ならば、しかるべき時期とはいつなのか? という問題になるのでしょうね。
Paula von Guntherに関しては、A.R.G.U.Sでエージェントとしての立場をしっかり確立した頃から少しずつ本当のことを伝えていっても良かったのではないか、ダイアナはついつい、本当のことを伝えるのが億劫になってしまっていたのではないか――という印象は受けます。
真実の女王としての覚悟を問うようなエピソードだな、と思いました。
そしてこの巻、こうしてPaula von Guntherとドナを対比して描いてくれたことでこれまでずっと疑問だった「ダイアナは何を思ってドナに偽の記憶を与えたのだろうか」ということに間接的に答えてくれたような気がします。「偽の記憶を与えた」という言葉から洗脳に近いものをイメージしてしまっていたのですが、たぶん違いますね。ドナという兵器を作ってダイアナを倒そうという陰謀が発覚して首謀者が倒された時、ドナは恐らくまだ乳幼児くらいだったのだろうと思われます。
当然、New52期Wonder Woman誌 (感想はこちら)で描かれたような大惨事もRebirth期のドナは引き起こしていません。
乳幼児くらいの年齢で保護されたドナはアマゾン族のもとで育ち、自分の出自を「ダイアナに助けられた人間の子」と教えられたものと思われます。
なお、Teen Titans: Endless Winter Special #1 (公式サイトはこちら)では、小さい頃のドナがダイアナの母であるヒッポリタ女王に寝かしつけてもらっていたらしいというエピソードが出てきます。
アマゾン族の皆さんにも愛されていて、ダイアナの妹的なポジションだったのでしょうか。Titans誌での描写から想像していたよりだいぶ幸せな半生を送っているようで、良かったです。
なお、共闘したこともありお互いへの信頼関係がしっかり高まっているダイアナとドナですが、この巻の終盤ではダイアナがドナの肩に手をかけるという場面が見られます(下図)。
たとえば、いかにダイアナがアルテミスを信頼していたとしてもこのポーズをとることはないような気がするのですよ。アルテミスに怒られそうですし。色々あった上でダイアナがドナに抱くようになった「私の妹」という安心感がにじみ出ているコマのように感じました。