2018年12月30日日曜日

52 感想 -レニー・モントーヤの迷走-

 DC Comics: Bombshells (感想はこちら)やBombshells United (感想はこちら)を読んで、Renee Montoya(レニー・モントーヤ)というキャラクターに興味を覚えました。
そこでさらっと彼女について調べてみたところ――ハードすぎる人生にくらくらしました。一刑事として創造されたキャラクターのはずなのに、なんでこんなハードな人生を歩む羽目になってるんだろう……。

彼女はNew52リランチでの大規模設定リセット以降はあまり登場していないらしく、彼女の人生が語られているのはNew52以前の作品が主になるようです。そこで今回、彼女が人生のどん底から立ち直るきっかけを描いている「52」という作品を読んでみました。が、この作品は大作です。彼女に限らず様々なキャラクターがあちらこちらに動き回ります。

「基本情報」のスタッフの名前は毎回DCの公式サイトから引き写してきているのですが、今回とても多いです。さすが大長編。

【基本情報】
Writers: Mark Waid, Greg Rucka, Grant Morrison, Geoff Johns

Inkers: Ruy Jose, Rob Stull, Jimmy Palmiotti, Tom Nguyen, Jack Jadson, Marlo Alquiza, Ken Lashley, J.G. Jones, Art Thibert, Ray Snyder, Andy Lanning, Drew Geraci, Phil Jimenez, Mariah Benes, David Meikis, Prentis Rollins, Norm Rapmund, Rodney Ramos, Jay Leisten, Dan Green, Nelson, Keith Champagne, Joe Bennett, Belardino Brabo, Lorenzo Ruggiero, Walden Wong, Eddy Barrows, Patrick Olliffe, Darick Robertson

Pencillers: Chris Batista, Shawn Moll, Eddy Barrows, Ken Lashley, Todd Nauck, J.G. Jones, Joe Bennett, Patrick Olliffe, Drew Johnson, Phil Jimenez, Dale Eaglesham, Andy Smith, Dan Jurgens, Jamal Igle, Tom Derenick, Thomas Denrenick, Justiniano, Darick Robertson, Mike McKone,Giuseppe Camuncoli

Colorists: J.G. Jones
発行年 2007年

公式サイト (1巻)はこちら。


 1巻の表紙はこちらです。SF風。Cover: J.G. Jones, Alex Sinclair




「52」という作品は「スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンの三巨頭がいなかった一年間の様子を、他のヒーローたちの活躍で描く。毎週一本、一年間で52話連載する」というコンセプトの作品らしく、かなり長いです。上に貼った表紙は、三巨頭がいない世界を端的に表現しているのですね。
この長い話がレニー・モントーヤの話だけに終始することはなく、

・警察を辞めて飲んだくれていたレニー・モントーヤが探偵のQuestion (クエスチョン)と出会い立ち直る話
・Lex Luthorの「誰でもスーパーマンプロジェクト」の陰謀を止める話
・Elongated Manが死んだ妻を蘇らせるために奔走する話
・Booster Goldが一流のスーパーヒーローになるために手段を選ばない話
・宇宙を漂流するAnimal Man, Adam Strange, Starfireが故郷に帰るべく頑張る話
・Black Adamが家族の存在により生き方を改める話

などなどが並行して描かれます。これらのストーリーは互いに少しずつ関係することもあるのですが、基本的には独自に展開しそれぞれの結末を迎えます。一本のストーリーだけ追いかけて他のストーリーは無視という読み方をしても、たぶんどうにかなるだろうと思います。

筆者は元々レニー・モントーヤの話を読みたかったので彼女の話になるとじっくり読む、みたいな読み方をしていたのですが、そうした読み方の中でも「誰でもスーパーマンプロジェクト (Everyman Project)」の話は印象に残りました。スーパーマンの不在に乗じたレックス・ルーサーの陰謀を止める伯父と姪。ヒーローに必要なものは何か、ということをしっかりと提示しているエピソードだと思います。このエピソードは、関係者の誰がいつ死んでもおかしくないと感じさせるスリリングな展開も魅力です。

以下、レニーのエピソードについてネタバレを含む感想です。

***ここからネタバレ***

その愚かさが愛おしい。

この話の中のレニー・モントーヤはそう思わせるキャラクターでした。冒頭、バーで飲んだくれているダメダメ感。バーのマスターにまでお酒を控えるように言われる始末。元々はゴッサムシティの腕利き刑事だったはずですが、諸々あって警察を辞めてお酒に逃げ、恋人には「自滅していくあなたを見たくない」と立ち去られ、行きずりの女性とベッドに入り(レニーはレズビアンです)……どうしようもないところでQuestion (本名: Vic Sage)が彼女の前に現れます。

クエスチョンは彼女にまず「仕事」を与えます。元々刑事ですから、与えられた捜査の仕事は慣れたものです。そうして二人で行動を共にしているうちに、レニーは幾度も"Who Are You?"という問いを投げかけられます。

Who Are You?

ごく普通に答えるならば、名前を答えればいいところですがレニーはその質問に答えることができません。おそらく、レニーは自分がレニー・モントーヤではなくなってしまったと思っているのではないかなと思いました。仕事も失い恋人も失い家族も失い、何もない。抜け殻になってしまったがゆえに自分が何者であるか答えることもできず、ただ生き続けているだけという状態に陥っていたのだろうと思います。 

抜け殻になった彼女を満たしてくれたのがクエスチョンの友情と彼が与えてくれた仕事で、彼女は少しずつ立ち直っていきます。
しかしながら彼も彼女のもとを去らねばならず、それを受け入れられない彼女はどうにかして彼を自分のもとに引き留めたいと奮闘します。
その姿は、ひどく愚かしく、悲しく、美しいものです。
結局彼を失った彼女は、再び荒れます。今度は酒と女ではないものの、やはり逃避します。それでも、自分のことを見つめなおし、ある決断に至る姿は彼女の本来持っていたであろう力強さを感じさせるものです。
どん底に落ちた人が回復していく物語として、骨太なものを読むことができたと思っています。回復の過程が一本道ではなく、回復しかけてまた落とされて、そこからまた這い上がって、という展開になるのがとても良かったです。レニー・モントーヤというキャラクターの強さを感じました。
この「52」で、バットウーマン(ケイト・ケイン)がレニーの元恋人として登場します(※冒頭でレニーから去っていく恋人とは別人です)。
ファンサイトの情報によるとこの作品でケイトは初めて登場したらしく、「ケイト・ケインは最初からレニー・モントーヤの元恋人として登場した」らしいです。なんとなく、二人ともそれぞれに活躍の場があって、ある時誰かが「二人ともレズビアンだしゴッサムシティの住人だし元恋人でもおかしくないよね」とエピソードを作ったのかと思っていました。
別れてから10年で再会した二人ですが、再会した時のギスギス感。この再会シーン、レニーがとてもカジュアルな恰好なのに対しケイトがドレスアップしていてとてもいいです。きつい表情といい髪とドレスの鮮やかさと言い、ケイト・ケインの初登場シーンとして完璧だと思います。

見た目の鮮やかさと対照的に(?)、会話はとても殺伐としています。Bombshellsでも別れた後数年してから再会したシーンでの最初の会話が妙に喧嘩腰でしたが、この辺の描写からきてたんだろうなと納得しました。
「52」はレニーとケイトの関係性を修復していく物語でもあり、その関係性はゆっくりと回復していきます。元々未練がありながらも殺伐とした会話をしつつ、共通の敵に対峙したりお互いのことを思いやったりしているうち素直になっていく、こんな二人が大好きです。

【ちなみにザターナは……】
Comic vineで検索すると、ザターナもこの作品に少し登場することになっています。実際、活躍する場面もあります。いとこのザッカリー君とも共闘しています。しかし出番は最終盤の数ページで終わってしまうので、ザターナを見たいなら別の作品を読んだ方がいいと思います。