2019年3月23日土曜日

Batwoman (2017-) Vol. 1-3 感想

 Batwoman (2016-)は、2016年の大規模リランチ後Rebirthの世界で描かれたバットウーマン誌ということになります。Vol. 3にレニー・モントーヤが登場するのでVol. 1-3を読んでみました。

【基本情報】
Writers: James T Tynion IV, Marguerite Bennett
Artists: Stephanie Hans, Steve Epting, Scott Godlewski, Marc Laming, Fernando Blanco
Cover by: Steve Epting, Michael Cho, Lee Bermejo
発行年 2017-2019年

公式サイトはこちら (Vol. 1)。



まずこのシリーズを読もうかなと思っている方のために一つお知らせしたいことがあります。このシリーズは3巻分買って一気に読んだほうがいいです。
それというのも。このシリーズはケイト・ケイン(バットウーマン)の秘密の一年の間に起きた出来事が巡り巡って現在のケイトを苦しめる――という構成になっています。そして、現在のエピソードと過去のエピソードが互い違いに語られます。結果として、読者からするとどこに話が向かっているか分かりにくい状況でVol. 1-2を読み終えることになります。
ところが、Vol. 3で事態は一変します。現在のエピソードと過去のエピソードが有機的につながりあい、ダイナミックな物語の流れを生み出します。あのエピソードはただの雰囲気づくりではなくてこの展開のために必要だったのか! とここで初めて分かるようになります。

ということで、Vol. 1や2までで「何か良く分からないな」と思って読むのをやめてしまうのはもったいないです。ぜひ、Vol. 3まで読んでください。
作者のMarguerite Bennett氏は"DC Comics: Bombshells" (感想はこちら)の作者でもあります。Bombshellsも最初にばらばらと多彩なエピソードを描いておいて、後からそれぞれを関連付けるという構成になっていました。こうした構成が好きなのかもしれません。ただし、Bombshellsの場合「いろいろな女性ヒーローたちがやがて合流していくんだろうな」という展開が読者にもわかりやすかったのに対し、このシリーズはどういう方向に収束していくのかが見えにくいので読みにくさを感じるのかもしれません。

さて。こういう特徴をもつBatwoman (2017-)ですが、全18話のうち1-5, 7-16話が上述した話、17-18話はそれまでの話とは直接関係のない話になっています。
レニー・モントーヤはこの作品の17-18話、Vol. 3の最後にメインゲストとして登場します。Vol. 1の第1話(ケイトのこれまでの人生の簡単な紹介)や6話にも登場するのですが、1話はあくまでもさらっとした登場です。
6話は少し特殊な話で、Detective Comics (2016-)のVol. 5付近に収録されている話(感想はこちら)とのイベントだったのだろうと思うのですが、あり得る未来の一つとしてレニーがゴッサム市警の本部長になった世界を描いています。未来になってもケイトとレニーは相変わらずだなあ……としみじみできるお話です。しかし、"Batwoman"に収録されている他の話とは全く関係がないために初めて読んだときは繋がりが分からなくて混乱するかもしれません。分からなくて普通なので(そもそも繋がりがないので)、気にしなくて大丈夫です。

レニーがメインに登場するVol. 3 17-18話ですが、このエピソードはVol.1からずっと描いてきた戦いに一区切りついて、ケイトが比較的穏やかな生活に戻った後の話になっています。17-18話だけを読んでもレニーとケイトの話の内容は分かりますが、Vol. 1-描かれてきた話も面白いのでVol. 1から読むのが筆者のおすすめです。

17-18話は、ゴッサム市警が襲われてレニーがピンチというところにケイトがバットウーマンとなって駆け付ける、というところから戦いが始まります。この「レニーのピンチにケイトが駆け付ける」というのはDetective Comics (2016-)でも描かれていました。この17-18話はRebirth世界のバットウーマン誌でケイトとレニーの関係にスポットライトを当てたエピソードとしては初めてのものなので、この世界の二人の関係について簡単におさらいするのかと思いきや、「この二人の関係はみんな知ってるよね!」という感じで話が進んでいきます。

ケイトとレニーの関係はDetective Comics (2016-)の時と同じで、
・ケイトとレニーは昔付き合っていたが今は別れている。
・レニーはゴッサム市警で刑事をしている。
・レニーはケイトがバットウーマンだと知っていて、たまに警察の情報をケイトに流す。
・レニーとケイトは電話をすれば会える仲。別れてはいるものの、信頼できる友人である。

ということのようです。筆者としては
「なぜレニーはケイトがバットウーマンだと知っているのか」
「二人は別れた後に、友人として仲直りできるまでに何があったのか(二人の性格的に、別れてからすぐ友人に戻れるとは思えません)」
というあたりを知りたかったのですが、それは描かれませんでした。残念。いつか描かれることに期待したいです。

17-18話は「時間」をテーマに悪役が登場しますので、ケイトも時間について考えます。そこでこれまでの人生に思いを馳せるのですが、その時に「これまで付き合ってきた女性たち」が画面上に集合するのが意外な演出でした。まるで恋愛ものの主人公のようです。
ケイトのモテモテぶりからすると、意外と付き合ってきた女性が少ないな……とも思ったのですが、一回だけ関係を持った相手などは除外してあるのでしょう。描かれても読者としては「……誰?」となりますし。

そしていろいろあって、ケイトとレニーはまた付き合うようになります。エピローグで描かれるケイトの関係者一同の姿がとても平和です。とても穏やかなエンディングでした。バットウーマンはDCコミックスの看板キャラクターの一人でしょうから、またどこかで"Batwoman"誌は連載されるのだと思うのですが、皆さんの平和は保ちつつ悪役と対峙していってほしいものです。

以下、この"Batwoman"のメインストリーム、Vol. 1~ Vol. 3 #15までのネタバレを含む感想です。

***ここからネタバレ***

"Batwoman"のメインストリーム、Vol. 1~ Vol. 3 #15の感想を一言でまとめるとこうなります。

「ケイト・ケインは疫病神」

いや、本当に。

お話としては、ケイトがバットウーマンになる前に過ごしていた「秘密の一年」、その間ケイトはとある孤島で暮らしていた。その孤島には女王と呼ばれる女性がいて、ケイトは彼女に気に入られ孤島の生活を楽しんでいた。しかしあることがきっかけでその生活は破綻し、ケイトはゴッサムへと帰還する。彼女がバットウーマンとなった今、その孤島にいたはずの刺客が彼女に刃を向けるのだった――というのがあらすじです。


いろいろあった末、この事件は刺客がケイトに抱いていた個人的な恨みつらみが大きな原因であったという話になります。しかし過去の事情を知れば知るほど、恨みを抱く気持ちも分からんではない――と思いました。ケイトに悪意があったわけではないのですが、結果的に孤島の生活を壊してしまったのは確かでした。
とはいえ、刺客の繰り出す復讐の仕方がかなりとんでもないのですが。


"Batwoman" (感想はこちら)で死んだとされていた、ケイトの妹のベスが登場したのは意外でした。ベスにまつわる一連の流れはとても面白かったです。Sanatorium (結核療養所? と思いましたが、結核に限らず「療養所」一般を指す言葉のようです)に入院していたベスですが、刺客に薬を打たれたことでケイトの敵として再び彼女の前に現れます。かなり大がかりな騒ぎになりますのでバットマンもその戦いの場に現れ、ベスを捕らえてアーカム(ゴッサム市にある、精神病の犯罪者を収容するための精神病院)に入れようとします。一方、ケイトは妹をアーカムには入れさせまいとバットマンと戦います。ベスを助けようとするケイトの、一度失った家族を取り戻そうとする姿が胸を打ちます。

この時のケイトのセリフがこちらです。

"SHE WILL BE DIE IF SHE'S PUT IN ARKHAM! SHE WON'T RECIEVE TREATMENT.. SHE'LL JUST BE BRUTALIZED IN THERE.. MAYBE ONCE UPON A TIME, THAT PLACE WAS A HOSPITAL.. BUT IT'S A PRISON NOW. IF YOU PUT ALICE IN ARKHAM.. .. WE WILL NEVER BETH BACK AGAIN."


「アーカムに入れられたらこの子は死んでしまう! アーカムで治療なんて受けられない、ひどいことをされるだけ……昔は病院だったかもしれないけど、今はただの牢獄。もしアリス(※ベスが悪役化しているときの名前)をアーカムに入れたら、私たちは二度とベスを取り戻せない」

一読者としても、アーカムに収容したからと言って精神的な問題が何か解決するとは到底思えず、ケイトの意見は至極もっともだと思います。しかし作中のキャラクターにこんな言われ方をするアーカムとは一体何なのでしょう。精神病院としてのあり方について今一度考え直した方がいいのではないのでしょうか。ケイトもブルース(バットマン)もゴッサム市有数の大金持ち一族ですし政治家に伝手もありそうですし、市長などにかけあって新しい施設を建てることを進めてもいいのでは……と思います。必要な資金を寄付することもできそうです。ケープを着てマスクをつける他にもゴッサム市民のためにできることはあるように思います。

最終的に、ケイトはベスをもとの状態に戻し、療養所に入れるのではなく一緒に暮らすようになります。ケイトの人生の中で、ブリュッセルで事件が起きる前以来の穏やかな生活になるのではないでしょうか。
この穏やかな日々が少しでも長く続くことを祈りたいです。