2020年3月18日水曜日

Wonder Woman: Paradise Lost 感想

※Wonder Woman (1987-2006)の各シリーズの感想はこちらをご覧ください。

※このシリーズの各巻感想は以下をご覧ください。

 Artemis(アルテミス)やDonna Troy(ドナ・トロイ)が出ているというので、Wonder Woman: Paradise Lostを読んでみました。そうしたらこの作品が、Wonder Woman(ワンダーウーマン、ダイアナ)の仲間たちとバットファミリーのチームで戦う話を描いていたり、アマゾン族の故郷であるセミッシラ島での内乱をじっくり描いていたりと実に読み応えのある作品でした。

【基本情報】
Writers: George Pérez, Joe Kelly, Devin Grayson, J.M. DeMatteis, Phil Jimenez
Pencillers: Adam Hughes, Phil Jimenez
Inkers: George Pérez, Cam Smith, Andy Lanning, Adam Hughes, Phil Jimenez
発行年 2003年(単行本の発行年。連載されていたのは2000年頃)

公式サイトはこちら。



まずこの本について特筆しなければならないのは、本編に入る前に主な登場人物を紹介するページがあるということです!
本当に、アメコミには登場人物紹介ページがないから余計にとっつきにくくなっているのだということを実感させられました。同じキャラクターでも時期によって微妙に設定が違うわけですから、このエピソードではどういう設定なのかということをあらかじめ書いておいてくれると、読んでいる途中に「この時期、このキャラクターの設定って……?」と検索をかける手間が省けます。
単行本全部に主な登場人物とこれまでのあらすじ(続きものの場合)をつけてもいいと思うのですが。日本の漫画だと大体そういうページがありますから、不可能だとは思えません。アメコミを読むハードルを下げるためにも、ぜひ全ての単行本に入れることを検討してもらいたいものです。


さて。

本作には、「バットマンが活躍するゴッサム市に戦争神アレスの子供たちが目を付け、ゴッサム市を恐怖で支配しようとしたためワンダーウーマンとバットマンが止めようとする話」「ドナ・トロイの設定についての簡単な説明」「セミッシラ島で内戦が起きる話」の3つが収録されています。ドナ・トロイの設定はごく短いものですが、あとの二つは中編です。どちらも面白いので、両方について感想を書こうと思います。

その前に、ドナ・トロイの設定について。本作では、
・もともとはダイアナが子供のころ、遊び相手として産み出されたダイアナの鏡像
・しかし邪悪な存在(Dark Angel)に奪われ、いくつもの苦難の人生を経験することになる
・死者の世界へと落ちた彼女の魂だったが、ティーターン族の神であるレアにより助けられ、偽りの人生をインプットされたのちに再びヒーローとして歩み始める
・ダイアナの魂から生まれた存在であるため、ダイアナの母であるアマゾン族の女王ヒッポリタに娘と認められている

というものになっています。この作品が書かれた2000年の時点で相当複雑な設定になっていますが、ティーターン族と絡んでいたり偽りの記憶を持っていたりと、2005年のThe Return of Donna Troy (感想はこちら)や、2017年のTitans (2016-) Vol. 2: Made in Manhattan(感想はこちら)の設定と共通する部分も多いですね。

では、以下は二つのエピソードの感想です。

1. バットファミリーと共にゴッサム市で戦う話
2. セミッシラ島で内乱が起きる話


1. バットファミリーと共にゴッサム市で戦う話

戦神アレスの子供である争いの女神エリス、恐怖の神デイモス、敗走の神ポボスは犯罪の蔓延するゴッサム市に目を付け、ここに戦神アレスの信仰の地を産み出そうと目論む。彼らはそれぞれポイズン・アイビー、ジョーカー、スケアクロウの身体を奪うと活動を始めるのだった。
一方、彼らの動きに気づいたワンダーウーマンはバットマンの反対を聞かず、アマゾン族の戦士であるアルテミスと共にゴッサム市に乗り込む。ゴッサム市には神々が与えた黄金のリンゴの影響ですでに恐怖と争いに支配された人々がいた。果たしてヒーローたちはゴッサム市を守ることができるのか――? というのがあらすじです。

とにかく、ワンダーウーマンたちとバットファミリーの共闘が見どころです。戦いの中盤以降に、ドナ・トロイやWonder Girl (ワンダーガール、キャシー・サンズマーク)も登場します。この作品では二人ずつのコンビを組んで戦うのですが、
・ワンダーウーマンとバットマン(当然のコンビですね)
・ドナ・トロイとナイトウィング(若手ヒーローチームTitansで一緒に活動している二人です)
・ワンダーガールとティム・ドレイク(若手ヒーローチームYoung Justiceで一緒に活動しています)
という、分かりやすいコンビに加えて、

・アルテミスとハントレス
というコンビが生まれます! アルテミスはワンダーウーマンの周りのキャラクターの中で、ハントレスはバットマンの周りのキャラクターの中で、割と乱暴という共通点がありますのでこの二人がコンビを組んだらどんな展開になるのだろう……とわくわくして読んでいたら、最初は揉めながらもお互いを認めていくという熱い展開に。
ハントレスは敬虔なクリスチャンでもあり、今回の話は神を信仰するということも大事なエッセンスになってきますのでアルテミスとハントレスがお互いの信じる神について論争する場面も見られます。

Huntress/Spoiler (感想はこちら)の時も思ったのですが、ハントレスはBirds of Preyだけではなく他のヒーローとコンビを組むのでもなかなかいい活躍をするキャラクターだと思います。今後も新しい組み合わせに期待したいです。

話の終盤にはヒーローたちが恐怖に囚われる場面があるのですが、そこでアルテミスがハントレスを励ましたり、ナイトウィングがドナを励ましたり、ドナがワンダーガールを一喝したりする場面もお互いのことを理解しているようで大変良いです。

ドナ・トロイやワンダーガールがワンダーウーマンと一緒に活躍しているところを見たい! という時に最適のエピソードだと思います。


2. セミッシラ島で内乱が起きる話

 こちらのエピソードは、この本のサブタイトルである"Paradise Lost"という言葉に直結しています。

そもそもこの作品が書かれたころのセミッシラ島は、昔からずっとセミッシラ島に住み続けているアマゾン族と、一度セミッシラ島を出て新天地を求めたもののまたセミッシラ島に帰ってきた(その時戦いもあった)、Bana-Midghallのアマゾン族という二つの部族が暮らしていました。ダイアナや女王ヒッポリタはずっとセミッシラ島に暮らしていたアマゾン族、アルテミスはBana-Midghallのアマゾン族の出身になります。
二つの部族は多少交流があるもののあまり仲は良くなく、お互いに「相手が戦いを仕掛けてくるのではないか」と疑心暗鬼になっている状態でした。そこにつけこみ、アマゾン族の殲滅を狙う人物が内戦が起きるように仕向けて――というのがあらすじになります。

この頃、女王ヒッポリタはダイアナの代わりにワンダーウーマンを務めたこともあるらしく、すっかりそちらが楽しくなってしまったようでセミッシラ島の統治にはあまり力が入っていません。という状態の中、とある人物が暗躍しとうとう内戦が起きてしまいます。ドナとダイアナは内戦を止めようと奮闘し、アルテミスも二人とは別の立場からまた止めようとしますが一度起きてしまった戦争を止めることは困難です。やがて女王ヒッポリタがセミッシラ島に帰還するのですが、戦争を止めセミッシラ島に平和をもたらすため、彼女は意外な決断をします。

読んでいて「ヒッポリタさんしっかりしてよ」という気持ちになる作品です。そもそもヒッポリタさんがセミッシラ島の統治を真面目にしていなかったからこうなってしまったような気がするわけで……。そんな中、平和をもたらすためにヒッポリタさんが下した決断は確かに「平和をもたらすためにはこれしかない」と思えるので、そこの判断はさすがです。これについては、ネタバレを含んでしまうので下の方で書きます。

このエピソードはアルテミスがBana-Midghallのアマゾン族のShim'Tar (一族を守る最強の戦士)になるお話でもあります。Rebirth期のRed Hood and the Outlaws Vol. 2 (感想はこちら)では、幼馴染のAkilaがアルテミスに先んじてShim'Tarになってあれこれありましたが、この頃はShim'TarのAkila (幼馴染というわけではない)から比較的穏やかにその座を譲り受けたようです。

以下、ネタバレを含む感想です。話の最後までネタバレしています。

 
ヒッポリタ女王が下した決断は、「ヒッポリタは女王の座を降り、アマゾン族は王制をやめる」というものでした。確かに、ヒッポリタやダイアナがアマゾンの女王であると名乗り続ける限りBana-Midghallのアマゾン族とは微妙な関係が続くわけです。王制をやめてしまって、二つの部族の代表で協議して物事を決めていくようにするほうが、公平ですし皆の納得は得られやすいでしょう。

というわけでこの決断には頷けるものの、可哀そうなことになってしまうのがダイアナです。というのも、アマゾン族たちから「島を出て行ってほしい」と言われる始末。まあ、旧王族の人間がうろうろしていると新体制にとってはどうしても面倒なことになるというのは分かります。とはいえ、傷つくダイアナ。
この傷ついた気持ちを、Lois Lane(ロイス・レーン)からのインタビューで彼女は打ち明けます。このインタビューのエピソードはLois Lane: A Celebration of 75 Years (感想はこちら)にも掲載されていたものですが、改めて読んでみてなるほどこのダイアナのセリフはこういう文脈だったのか……と理解できました。

そしてアメリカで不穏なことが起きていそうな予感をさせたところで、物語は次作へと続いていきます。