2020年3月23日月曜日

Wonder Woman: Paradise Found 感想

※Wonder Woman (1987-2006)の各シリーズの感想はこちらをご覧ください。

※このシリーズの各巻感想は以下をご覧ください。

Wonder Woman: Paradise Lostの続編にあたる、Paradise Foundを読みました。前作ではゴッサム市やセミッシラ島が舞台になっていましたが、今作は世界を揺るがすスケールの事件も起きています。

【基本情報】
Writer: Phil Jimenez
Pencillers: Brandon Badeaux, Phil Jimenez, Travis Moore, Adam Hughes
Inkers: Adam Hughes, Lary Stucker, José Marzán, Jr., Andy Lanning, Kevin Conrad, Marlo Alquiza
Colorist: Adam Hughes
発行年 2004年

公式サイトはこちら。



物語は大きく、地球レベルの危機が訪れる前半部と、ワンダーウーマン(ダイアナ)のことが嫌いな魔女Circe(キルケ)が暗躍する後半パートに分かれます。……こう書くと、キルケさんのしていることがとても器の小さいことに見えますが、……まあ実際小さいのですが、結果的には世界中の女性ヒーローが関わる一大騒動に発展しますのでどちらもスケール感の大きな物語という読後感です。

対キルケさん編で出てくる多数の女性ヒーローたちには、「こんなヒーローもいたのか!」とか「名前だけは知ってたけどこの人はこんな感じなのか!」という驚きをもって読むことができました。2011年、2016年の設定リセットに伴い最近はもうあまり登場しなくなってしまったヒーローも多いのですよね。それぞれに魅力があったのでしょうから、活かす方法を考えてほしいものです。

筆者の好きなZatanna (ザターナ)が大変いい動きをしていたのと、Cassandra Cain(カサンドラ・ケイン、この頃はバットガール)がキルケさんと戦うためにワンダーウーマンの率いる部隊に加わろうとするものの、「一杯いる」とヒーローの多さに尻込みしていたのが印象的でした。
そんなカサンドラをさりげなくフォローするBarbara Gordon (バーバラ・ゴードン)とBlack Canary (ブラック・キャナリー、ダイナ・ランス)。いいお姉さんたちです。

お話としてはWonder Woman by Greg Rucka (感想はこちら)の直前ということもあり、Greg Ruckaの物語で描かれていた設定はどうしてああなっていたのか、ということが分かる話でもあります。
筆者がうれしかったのは、Wonder Woman by Mike Deodato (https://dc-female-heroes334.blogspot.com/2019/10/wonder-woman-by-mike-deodato.html)以降、セミッシラ島に住み続けていたアマゾン族と、一度島を出てまた戻ってきたアマゾン族の間にずっと存在していた抗争に決着がついたことです。大きな犠牲を伴うものではありましたがアマゾン族らしい決着でした。

そしてこの本の中の重要な要素はダイアナとその母にしてアマゾン族の女王、ヒッポリタの関係です。以下、二人についてネタバレを含む感想です。話の核心部までネタバレしています。


 


前巻にあたるParadise Lostで、ヒッポリタさんの失政が明らかになり彼女はセミッシラ島の王位を捨て、人間界へと移り住みます。ということで娘にあたるダイアナが女王になるかというとそうではなく、セミッシラ島は王制をやめることになります。

元々、セミッシラ島に二つのアマゾンの部族が住んでいるのに王位は一方の部族で継承しているというのがいびつなわけです。それを直すためには確かに王制をやめてしまうのが手っ取り早いのですが、旧王族の人間が島にいると困るということでダイアナさんは島から追い出されるという気の毒な展開になっています。
そして人間界で顔を合わせると、母ヒッポリタの過去の失政について責めるダイアナ。娘としても、かつての王族の一員としてもダイアナの発言は理解できるところではありますが、ヒッポリタさんにすればそんなにいろいろ言われても――となるわけで、母娘は揉めます。

そうこうするうちに、地球を揺るがすレベルの敵が来襲したことで二人とも戦いに出向きます。二人がここで取る行動はよく似ていて、なんだかんだ言ってダイアナはヒッポリタの娘であることが実感できます。
敵の力でピンチになり二人はお互いのことを守ろうとするのですが、母を思う娘の愛よりも娘を思う母の愛の方がほんの少し大きかったらしくダイアナを守ってヒッポリタは死ぬ展開になります。

敵が襲ってくる前に二人は大げんかしていたということもあり、この展開は読んでいて切ないものがありました。一寸先は闇とはいうものの、喧嘩した後に死別というのはきついものがあります。この本を全体としてみれば間違いなくハッピーエンドなのですが(サブタイトルが"Paradise Found"ですしね)、ヒッポリタさんの死はやはり重くのしかかってきますね。

この作品の後に展開したWonder Woman by Greg Ruckaではヒッポリタさんはまったく登場しません。何でかなと思っていましたが、確かにこれだけの展開で死亡したら簡単には再登場できないなと納得できました。