2022年11月28日月曜日

Trial of the Amazons (2022) 感想 -そのミステリー要素、必要ですか?-

  Trial of the Amazonsは

 の3誌にまたがって連載されたWonder Woman (ワンダーウーマン、ダイアナ)とアマゾン族たちを中心にした一大イベントです。

 

 ワンダーウーマンとアマゾン族中心のイベントといえば、筆者がぱっと思いつくのはAmazons Attack! (感想はこちら)ですが、DCコミックスの歴史でもアマゾン族を中心にしたイベントはあまりないようです。

 Amazons Attack! が直近のアマゾン族イベントだったかどうかは分からないのですが、少なくとも2011年以降はこうしたイベントはなかったように思います。そもそも2011年の時点でアマゾン族のキャラクターがかなり登場しなくなっていたように思いますし。2016~2021年のRebirth期の終盤で、さまざまなアマゾン族たちがコミックに再登場するようになってきたので、ようやくアマゾン族をメインにしたイベントが描けるようになったということかもしれません。

 というわけで、アマゾン族ファンである筆者としては期待の高かったこのイベントを読んでみました。

 DCコミックス社としても気合が入っているらしく、こんな動画が公開されています。

 

 筆者は一話ずつばらばらに本イベント関係のエピソードを読みました。その場合は、

 Trial of the Amazons #1
 ↓
 Nubia & the Amazons #6
 ↓
 Wonder Woman #785
 ↓
 Trial of the Amazons: Wonder Girl #1
 ↓
 Wonder Woman #786
 ↓
 Trial of the Amazons: Wonder Girl #2
 ↓
 Trial of the Amazons #2

 

 という順番で読むことになります。現在はこれらのエピソードをまとめた単行本も出版されています(アマゾンのリンクはこちら)ので、単行本の方が読みやすいと思います。

 

【基本情報】
Art by: Skylar Patridge, Laura Braga, Elena Casagrande, Joëlle Jones, Adriana Melo, Alitha Martinez, Rosi Kampe, Becky Cloonan
Written by: Stephanie Williams, Vita Ayala, Joëlle Jones, Michael Conrad, Becky Cloonan
発行年 2022年


公式サイトはこちら(単行本の方です)。



 セミッシラの地下に怪異を封印しているDoom's Doorwayに異変が起き怪物たちが外に逃げ出す事件が起きる。これ以上の被害を防ぐため、セミッシラのアマゾン族、そこから分岐したBana-Mighdallのアマゾン族、Esquecidaのアマゾン族の3つの部族が集まりDoom's Doorwayを監視するためのチャンピオンを決めることにした。時を同じくして、人間界に行っていたヒッポリタ前女王とダイアナもセミッシラ島へと帰還する。

 アマゾンの各部族は決して良好な関係ではないため、3部族合同の宴会が開かれても緊張感は続く。そんな中、宴会を中座したヒッポリタ前女王が何者かに毒殺される。

 アマゾン族たちは犯人を探しながらもチャンピオンを決めるための大会を進めていき、やがてDoom's Doorwayの異変の原因を知ることになるのだった――というのが物語のあらすじです。

 

 筆者としては大いに期待していた作品だったのですが、いろいろと中途半端になっているのではというのが第一の感想でした。

 あらすじから分かるように、このストーリーには

  •  アマゾン族のチャンピオンを決めるための、かつ、Doom's Doorwayの異変と戦うためのバトルもの
  •  ヒッポリタ前女王の殺人事件を解明するミステリー

 

 という2つの軸があります。主軸はバトルの方で、ミステリーの要素はサスペンスを高めるために加えられたのだと思います。が、さほど効果的に機能していません。

 ヒッポリタ前女王の殺害が部族間の対立にさらなる緊張感をもたらすわけでもなく(殺害前からあった緊張感と大して変わりがありません)、アマゾン族の間に強力な疑心暗鬼をもたらすわけでもありません。せっかくミステリー要素を入れるなら、もっとお互いを疑ってさらに事件が起きるといった展開にしても良かったのではないでしょうか。

 これはアマゾン族の皆さんが割と理性的&現女王のヌビアが賢王すぎるからいけないのだと思います。殺人事件によりパニックになってさらに事態を混迷に叩き込むような行動をとる人がいてこそサスペンスも高まり、ミステリー要素の意味も感じられるというものです。

  

 またキャシー・サンズマーク(ワンダーガールの一人)が探偵役として事件を解決するのですが、正直に言って推理が甘いと思います。犯人が犯行を認めたから話が進んだものの、いくらでも反論できそうな推理で事件が解決してしまったなという印象でした。これについてはこの記事の終盤の、ネタバレを含む感想でさらに描きます。

 

 では、バトルものとしてはどうか。といいますと、Bana-Mighdallの女王Faruka IIが自分たちの部族の代表としてDonna Troy (ドナ・トロイ)を選んでいたりしてなんだか良く分かりません。筆者はドナが好きですし、この展開のおかげでドナに活躍の場が与えられたのは分かるのですが、そもそもドナとBana-Mighdallにはほとんど関係がないように思います。

 Faruka IIはドナを選ぶにあたって、

"ONE WHO COULD LEAD ANY TRIBE TO VICTORY...ONE WHO WILL GET INTO THEIR HEADS"

「どの部族にも勝利をもたらすことができる者、どんな部族の者たちのことも理解できる者」とドナのことを評価しているのですが、えーとFaruka IIとドナって今まで何か絡んだことありましたっけ?

 筆者はドナが好きなのでFaruka IIがドナを高く評価しているのは嬉しいのですが、Faruka IIが何を根拠にドナのことをここまで信頼しているのかは謎に包まれています。そもそもFaruka IIがセミッシラ島で育ったアマゾン族のことをそんなに好意的に見ているとは思えません。

 ストーリーの展開上、ドナをBana-Mighdallの代表として出しておくと都合がいいのは分かります。ただ、そこに至るまでの仕掛けに説得力が薄いと感じました。

 ストーリー全体としては、3部族が力を合わせて共通の敵と戦ったことでお互いの間に信頼が芽生えたという形で終わります。Esquecidaのアマゾン族の一人であるYara Florもダイアナと初めて対面し、"Wonder Girl"というヒーロー名を名乗ることになります。なお、20歳を越えているのに"Girl"というのは本人も複雑な思いのようですが。この辺り、歴史あるヒーロー名と現代の感覚にずれが生じてしまっているわけですがそれはいいとして。

 

 もしかすると、アマゾン族たちの物語はむしろこれから横のつながりが増えて盛り上がりを見せるのかもしれません。後から振り返ればこのイベントはプロローグに過ぎなかったと思うようになるのかもしれません。とはいえ、久々のアマゾン族イベントとしてはちょっといろいろともったいなかった作品だと思いました。


 以下、ネタバレを含む感想です。ヒッポリタ前女王の殺人犯についてもネタバレしています。


 

 ヒッポリタ前女王を殺したのはBana-Mighdall随一の戦士であるアルテミスなのですが、前に書いたようにキャシーの推理が甘すぎます。

 まず彼女は「ヒッポリタ前女王が死んだと考えられる時刻に動けるのは誰か」ということから犯人を絞っていくのですが、そもそも殺害方法が毒殺ですよね。ヒッポリタ前女王が死ぬずっと前に毒は混入されていた可能性は考えなくていいのでしょうか。

 容疑者の一人であるPhilippusをシロだと判断する理由についても、「ヒッポリタが死んだ後もそのことを知らず、彼女との待ち合わせ場所にいたから」ということなのですが、犯人が犯行を隠すために「被害者が死んだことを知らないかのように振舞う」というのはよくあることではないでしょうか。少なくともミステリーの世界の登場人物には。

 アマゾン族は推理小説なんて読まないので犯行を隠すための複雑な手段は取れないのです! ということなんでしょうか。

 

 アルテミスはキャシーに問い詰められて殺害を認めるのですが、こんな感じでいくらでも反論できたと思うのですよ。

 

 また、ヒッポリタ前女王は3部族合同の宴会の席を唐突に離れて自分の私室に戻りそこで殺されるのですが、そもそも宴会の場を離れた理由が分かりません。

 この場面、本当に突然ヒッポリタが私室に戻るので(ヒッポリタが宴会に参加しているコマの後、ページをめくると私室にいるヒッポリタの場面になっています)

「これは私室に戻った理由が殺害に関わっているに違いない」

 と筆者は思ったわけですが、特に語られません。

 

 探偵役であるキャシーも、他のアマゾン族たちもヒッポリタが突然中座したことを不審には思っていないようでそれがまた不自然です。

 セミッシラ島で他の部族と共に行う宴会なら、いくら「前」女王とはいってもヒッポリタはホスト寄りの立場でしょう。そんな立場で理由なく中座はないんじゃないかな、せめて「疲れた」と一言言うシーンがあれば納得して読み進められたのにと思います。

 

 ぼんやりと読んでいる筆者のような読者でも気づくくらいの不審点に探偵役が気づかずそのまま話が進んでいくと、探偵役が間抜けに見えてしまうので避けてほしいのですよね。探偵役が不審点に気づかないのが当然だと思えるように何か工夫をこらしてほしいです。

 

 こんなに中途半端なミステリー要素なら、ない方が良かったんじゃないでしょうか。ミステリー要素で読者の興味を引き付けたかったのかもしれませんが……。

 

 

 そしてアルテミスがヒッポリタ前女王を殺したからには気になるのが動機ですが、このイベントでは明かされません。イベント後に出版されたArtemis: Wanted (Tales of Amazons 収録)で明らかになるようなので、次はこれを読みたいと思います。

→Tales of the Amazonsを読みました。感想はこちら。