2022年12月4日日曜日

Tales of the Amazons 感想その1 -最強の敵は最強の友 (Artemis: Wantedを中心に)-

 Trial of the Amazons (感想はこちら)の前日譚や後日譚など関連のエピソードをまとめたTales of the Amazonsを読みました。5つの作品が収録されているのですが、どれも面白い! という感想です。5つの作品は、

  •  Wonder Woman (ワンダーウーマン、ダイアナ)が幼い頃、初めてNubiaと出会う話。とにかく可愛い。
  •  Road to Trial of the Amazons: Trial of the Amazonsの前日譚。Trialに参加したBana-Mighdallの目的が明らかに。Faruka IIがクールビューティー。
  •  Nubia: Coronation Special: Trial of Amazonsの後日譚。ヌビアの戴冠式。ヌビアの過去のことが明らかに。
  •  Artemis: Wanted: Trial of Amazonsの後日譚。逃亡したアルテミスを追うDonna Troy (ドナ・トロイ)とCassie Sandsmark (キャシー・サンズマーク)の話。ヒッポリタ前女王殺人事件の全貌がついに明らかに。
  •  Olympus: Rebirth: Trial of Amazonsの後日譚。ヒッポリタ前女王がオリュンポスで頑張る話。

 というものになっています。この記事はArtemis: Wantedの感想です。他の4作品については、もう一つの記事に書いています。なお、Artemis: Wantedについてしっかりネタバレしていますので未読の方はご注意ください。

 

【基本情報】
Written by: Michael Conrad, Becky Cloonan, Jordie Bellaire, Vita Ayala
Art by: Darryl Banks, Caitlin Yarsky, Paulina Ganucheau, Skylar Patridge
Cover: Nicolla Scott, Annette Kwok
発行年 2022年


公式サイトはこちら。

TALES OF THE AMAZONS

The world of the Amazons is growing! Thanks to the recent discovery of a mysterious third tribe, the Esquecida, the warrior women of the DC Universe and their stories have only just begun. You won't want to miss this enthralling collection that features tales ranging from the deserts of Egypt all the way to the top of Mount Olympus!



 

 カバーも非常にいいのですよね。現在のアマゾン族の主要登場人物が揃っていて。Infinite Frontier期に大活躍が予想されるヤーラとヌビアはもちろんですが、アルテミスとドナ、キャシーがちゃんとこの中に入っていることが嬉しいです。

 


 Artemis: Wantedは、Trial of the Amazonsの中でヒッポリタ前女王を毒殺したアルテミスがその後のどさくさに紛れて逃亡したのを追うドナ・トロイとキャシー・サンズマーク――というところから始まります。そもそもTrial of the Amazonsで残った最大の謎は「なぜ誇り高い戦士であるはずのアルテミスがヒッポリタを暗殺したか?」というものでした。

 Trial of the Amazonsで探偵役だったキャシーはその真相をアルテミス自身の口から聞き出そうとして追っています。一方、ヒッポリタを殺された怒りに燃えるドナはアルテミスを捕らえ、殺すことも辞さない覚悟でアルテミスを追っています。

 筆者はまず、ドナとキャシーの思いの違いがきちんと描かれていることに感動しました。そもそも二人の過去を振り返ってみると、

  •  ドナ:セミッシラで育てられている。育ての親はヒッポリタ前女王だったかも(Teen Titans: Endless Winter Special #1での描写から)。一方、アルテミスとの接点はそれほどでもない。
  •  キャシー: 人間界で育ち、ヒッポリタ前女王と対面したのはヒーローになってから。アルテミスとはWonder Girl誌で知り合い、友人になっている。

 と、被害者(ヒッポリタ前女王)・加害者(アルテミス)との距離感がそれぞれ違うのですよね。キャシーがアルテミスに事情を聞こうとするのも、ドナが怒りにかられるのも自然です。

 同時にこの本では、ドナがBana-Mighdallの一員になったことも強調されていました。考えてみれば、Bana-Mighdallの一員であるアルテミスが犯した犯罪にはBana-Mighdallの誰かがケジメをつけさせなければいけないのかもしれません。

 そんなこんなで、アルテミスを追うドナとキャシーが彼女に追いつき、キャシーが真相を聞き出そうとするもアルテミスは言おうとせず、ドナが怒りに任せてアルテミスを殺そうとした――ところで、事態は「ヒッポリタ前女王が降臨する」という大胆な方法で落ち着きます。

 Trial of the Amazonsみたいにミステリー仕立ての物語で死んだ被害者が降臨して真相が分かったら「それは反則でしょ……」となるところですが、これはミステリー仕立てにはなっていないのでほとんど抵抗なく読めました。むしろギリシア神話で人々や神々の争いに唐突にゼウスが介入して止めるシーンを思いおこさせます。

 ヒッポリタ前女王の口から語られた真相は、

  •  真の敵であるカオスに対抗するため、巨大な犠牲を神にささげる必要があり「アマゾン族の模範」ともいえる存在であるアルテミスに殺してもらった
  •  神の助力を得るためには、アマゾン族たちの真の苦悩と嘆きとが必要だったのだ

 

 ということらしいです。

 

 「それなら最初に言っておいてよ!」とドナが怒るのも当然ですが、何だかんだとヒッポリタ前女王はドナとキャシーの働きをほめ、その場はとりあえず落ち着きます。

 その後、アルテミスはBana-Mighdallで裁きを受けることになるのですが、ここで彼女を弁護するのがドナ、というのが実に熱くて筆者はとても好きです。キャシーも真相は知っているわけですからキャシーが弁護してもいいはずなのですが、物語の前半であれだけアルテミスを目の敵にしていたドナがアルテミスを助ける姿には「最強の敵は最強の友」という言葉を思い出しました。

 この物語の前半ではドナとキャシーの違いが描かれていたわけですが、アルテミスはどちらかというとドナの方に似ていると思うのですよね。一方、ダイアナはどちらかというとキャシーの方に似ていると思います。


 アルテミスとドナ、これまであまり接点のなかった二人ですがBana-Mighdallのために共闘したりお互いのことを思ったりするシーンが増えるかも、と思ってわくわくできる作品でした。

 そして。

 この作品、アルテミスとドナの若い頃について結構衝撃の描写をしてきました。

 まずアルテミスについて。

 アルテミスの若い頃(中学生くらい?)といえば、Red Hood and the Outlaws Vol. 2 (感想はこちら)で描かれた、「Bana-Mighdall最強の戦士であるShim'Tarになるため、友人であるAkilaと日々鍛錬を積んでいた」というエピソードが記憶に新しいところです。

 しかしこの作品では、アルテミスが小学生~中学生くらいまで、人間の世界で暮らしていたらしいことを描写しています。

 この単行本に収録されたRoad to the Amazon Trialでは人間界からBana-Midhdallにやって来てアマゾン族として受け入れられる女性がいることも描かれています。ですから、アルテミスが幼少期を人間界で過ごしていたとしてもおかしくはないのですが、かなり意外な設定です。他の作品でもこの設定が使われていくかはまだ良く分かりません。

 

 次にドナについて。

 ヒッポリタ女王があれこれとドナのことをほめるシーンにこんなコマがあります。ドナの幼少期~若い頃の回想シーンっぽいですね。

 

 ……左の下の方に、火の中で助けられている赤ちゃんがいますね。これは「ドナはダイアナに火事の中から助けられた人間の赤ちゃんで、家族が見つからなかったためセミッシラ島に連れ帰りアマゾン族の一員とした」というドナの最初期の設定では……。

 New52期~Rebirth期で、ドナの設定は「ダイアナを倒すための兵器として作られた」ことになったため、「ダイアナに助けられた子」というのはRebirth期Titans誌 で「兵器として作られたドナにダイアナとアマゾン族が与えた『偽の記憶』」ということになっていたはずですが(※ドナのいろいろな設定については彼女の紹介ページをご覧ください)。

 えーと、昔の設定が甦るんでしょうか? Death Metal(感想はこちら )でいろんな世界の歴史が混ざることになったからでしょうか?

 

 ドナの設定についても、今後どうなるかは分かりません。もしかするとあんまり突き詰めて考えない方がいいのかもしれません。


→この本に収録されている他の作品についての感想はこちら。