最近、DCコミックスの世界は5年に1回ほどの割合で世界観の設定変更を行っています。2016年から始まったのがRebirth期、Rebirth期の設定を踏襲しつつ2021年から始まったのがInfinite Frontier期です。
今回読んだWonder Woman (2016-) Vol 1: AfterworldsはInfinite Frontier期 Wonder Woman誌の第一巻ということになります。
Rebirth期の終わりに描かれたDark Nights: Death Metal (感想はこちら)では、世界を消滅から救うためにWonder Woman (ワンダーウーマン、ダイアナ)が戦う姿が描かれました。その結果として世界は救われましたがダイアナは姿を消し、死んだと思われました。
実際にはダイアナはいわゆる「死」を迎えたわけではなく、死後の世界でもまた頑張っていたのでした――というのがこの巻で物語られているお話になります。
Writers: Becky Cloonan, Michael Conrad
Artists: Emanuela Lupacchino, Jill Thompson, Andy MacDonald, Travis G. Moore
発行年 2021年
公式サイトはこちら。
WONDER WOMAN VOL. 1: AFTERWORLDS
After her heroic sacrifice in Death Metal, Wonder Woman is swept away to the Sphere of the Gods. But when Diana lands in Asgard instead of Olympus where she belongs, an unexpected odyssey begins. Along the way she'll meet old foes, new allies, and a deadly enemy that threatens to wipe her from existence forever!
Dark Nights: Death Metal (Writer: Scott Snyder) のラスト付近でダイアナは
"you must ASCEND, to help us protect this fresh new reality..."
「あなたは天に行かなければいけない、私たちがこの新しい現実世界を守るのを手伝うために……」
と神のような存在から言われています。というわけでこの作品ではダイアナが現実世界を守るためのハードな戦いが描かれるに違いないと筆者は思っていたのですが、ちょっと思っていたのと違いました。
確かにダイアナは世界を救っているのですが、それは「いつものように」という感じでDeath Metalの時ほどの深刻さはありません。……まあ、Rebirth期を終わらせるための一大イベント級の深刻さをWonder Woman個人誌で展開することはそうそうないのかもしれません。
この巻の前半では、死んだはずのダイアナが北欧神話の世界に行きます。そしてそこでであった英雄ジークフリートと良い仲になり、神樹ユグドラシルにすむリスであるRatatoskとも協力しあう関係になります。
しかしダイアナの居場所はあくまでギリシア神話の神々の居所、オリュンポス――というわけでオリュンポスに戻るとそこはすっかり荒廃していた、というのがこの巻の後半のスタート地点です。ローマ神ヤヌスの半身がオリュンポスを崩壊させたらしいと知ったダイアナは、半身を探してあちこちの世界を探し回るのでしたというのが後半の物語になっています。
後半のヤヌス探しのエピソードは「現実世界を守るための手伝い」と言えるのかもしれません。ただ、探し回るあちこちの世界の住民のコミカルさもあり、だんだんとドタバタ喜劇のようにも見えてきます。
世界を救うための深刻な戦いを描いた物語というよりも、ジークフリート、Ratatoskを連れたダイアナが異世界で繰り広げる冒険譚を読む楽しさがある一冊でした。
物語の語り手が誰なのかは最後に明かされるのですが、このオチを知るとずっと絵本を読んでいたような感覚にもなる作品です。
様々な異世界のキャラクターが登場する本作ですが、筆者のお気に入りはリスのようなRatatoskです。北欧神話に本当に登場する存在らしく、本作ではメッセージを伝える存在でありトリックスターとして描かれています。故意に隠しごとをすることもあって100%の信頼はおけないのですが、なんか可愛いし頑張っているので許せてしまうという存在です。
なにしろ見た目がこんな感じです (下図)。ダイアナを助けるマスコット的存在としてずっとそばにいてほしいという気持ちになりました。