※このシリーズの各巻感想はこちらをご覧ください。
以前、第5巻にあたる一冊を読んだ (感想はこちら) Justice League of Americaの2006年から2011年のシリーズですが、Black Canary (ブラックキャナリー、ダイナ・ランス)やVixen (ビクセン、マリ・マッケイブ)やHawkgirl (ホークガール、ケンドラ・ソーンダーズ)がレギュラーメンバーとして活躍しているようなので思い切って1巻から読んでみることにしました。
Written by: Brad Meltzer
Inker: Mariah Benes, Karl Story, Andy Lanning, Sandra Hope, J.G. Jones, Adam Hughes, Ed Benes, Arthur Adams
Introduction: Damon Lindelof
Penciller: Chris Sprouse, J.G. Jones, Phil Jimenez, Adam Hughes, Ed Benes, Arthur Adams
発行年 2013年 (単行本の発行年。連載されていたのは2006-2007年)
公式サイトはこちら。
この本を読むとき、何をおいてもまず読むべきなのは序文です。序文を読んでいるかいないかで、分かりやすさが全然違います。
この一冊はちょっとトリッキーな展開になっていまして、複数のキャラクターがそれぞれバラバラなものを追いかけていながら最後にはその物語が一本の河のようにまとまってくる――という形式になっています。それ自体はさほど珍しいものではありませんが、ストーリーの主軸になるのはBatman (バットマン、ブルース・ウェイン)、Superman (スーパーマン、クラーク・ケント)、Wonder Woman (ワンダーウーマン、ダイアナ)の3人、トリニティと呼ばれるDCコミックス社の三大ヒーローではありません。
Red Tornado(レッド・トルネード)という、アンドロイドのヒーローがストーリーの主軸を担いますのでとにかく彼の物語を追いかけていくように読むのがおすすめです。
物語は、スーパーマンたちトリニティの3人が新たにヒーローチームJustice League of Americaを立ち上げるにあたり、メンバーを選ぼうと3人で協議するところから始まります。そもそもはIdentity Crisis (感想はこちら)のあたりでヒーローたちの間に不信感が広がり、以前のJustice League of Americaは解散してしまったのでした。
その後に起きたInfinite Crisis (感想はこちら)のあと、少し時間を置くためにトリニティの3人はヒーロー活動を停止します。そしてこのシリーズで、もう一度ヒーローチームを立ち上げようとしている、わけなのですが。
トリニティのそうした思惑とは別に、事態はレッドトルネードを中心にどんどん動いていました。レッドトルネードはアンドロイドですが、人間の妻と娘がいます。このシリーズの少し前に壊された? のか、物語が始まった時には魂がアンドロイドの身体を離れた状態になっています。彼は人間になるために、人間の死体の中に入り込んで人として生まれ変わるのですが、実はその背後には敵の策略があり――というのが物語の主軸になっています。
そして、ホークガールやビクセン、ブラックキャナリーらはそれぞれのポジションからレッドトルネードの事件に関わり、最終的にはトリニティの協議とは関係なくこの事件の関係者がJustice League of Americaのメンバーとなります。
スーパーマンたち3人の思惑を超えたところで他のヒーローたちが動き、チームの構図までも変えていくというのは多分いいことなのでしょう。3人だけでは思いつかないような形のチームになったのですから。
このストーリーの中で最も印象的だったのは、レッドトルネードの人間になりたいという思いと、ブラックキャナリーがArsenal (アーセナル、ロイ・ハーパー)の成長を喜ぶエピソードだと思うので以下簡単にまとめます。最後の方の展開までネタバレしています。
・レッドトルネードの人間になりたいという思い
レッドトルネードはかなり前から人間になりたいと思っていて、敵の策略と知らずに人間の身体を得ることになります。汗をかくだとか、匂いがするだとか、これまで知識としてしか知らなかったことを実感するレッドトルネードの場面は読者としても「良かったね」と素直に思える場面です。
とはいえ、敵の策略が徐々に露見し、どんどん状況は悪くなっていきます。そんな中、レッドトルネードはとにかく自分の妻と娘を守ることを考えていますし、妻と娘もレッドトルネードの無事をひたすらに祈って戦います。
こんな姿を見ていると、身体はどうあれ彼はもう人間ということでいいのではという気持ちになります。最終的に彼は機械の身体に戻るのですが、わずかの間の人間としての経験を持ってアンドロイドとして生きていってほしいと思える展開でした。
・ブラックキャナリーがアーセナルの成長を喜ぶエピソード
この巻の中で、ブラックキャナリーはアーセナル、ハル・ジョーダン(宇宙の警察的な組織、グリーンランタンの一員)と行動を共にしています。ブラックキャナリーはGreen Arrow (グリーンアロー、オリバー・クィーン)と行動を共にすることが多いのですが、この頃オリバーが引退状態なのか、オリバーの弟子的な存在であり弟分ともいえるアーセナルとも一緒に行動しています。
ハル・ジョーダンもオリバーの友人で、アーセナルから見ると兄貴分的な存在であるようです。
こんな、アーセナルを近くで見守ってきた大人二人、ハルとダイナが彼と一緒に行動するという展開になっているのですが。アーセナルはかつて薬物中毒に陥っていたらしく(ハル・ジョーダンもオリバーも「アーセナルを見捨ててしまった」と後悔しているようです)、そこから立ち直ってヒーローとして戦っている――ということになります。
そしてレッドトルネードの一件に絡んで大活躍したことでブラックキャナリー、ハル・ジョーダンと共にJustice League of Americaに招待されることになります。
この時、招待状を持ってきたブラックキャナリーとハル・ジョーダンがさらに彼にもう一つのプレゼントを持ってくるのです。そのシーンがこちらです。
これはオリバーの着るコスチュームによく似たコスチュームで、彼は今後グリーンアローならぬレッドアローというヒーロー名で活躍することになるようです。着替えた姿を見た、ハル・ジョーダンとブラックキャナリーの表情をご覧ください。これまでに色々あって、それでもこんなに立派になった――という二人の感慨が伝わってくるようです。もしかするとこれは、ブラックキャナリーやハル・ジョーダンといった昔から活躍しているヒーローたちが育てた新しいヒーローの存在が新しいJustice League of Americaを支えていくということを象徴しているシーンであるのかもしれません。
序文でDamon Lindelof氏が書いているように、この巻はスーパーマンと言ったビッグネームよりもレッドトルネードやアーセナル(レッドアロー)といった脇役に回りやすいヒーローが強く印象に残る一冊でした。この後はどういう展開になるのか、続きを読んでいきたいと思います。