2020年1月25日土曜日

Batman: War Games Book 1-2 感想

 ヒーロー、Spoiler(スポイラー)として活動するStephanie Brown(ステファニー・ブラウン)にとって重大なことが起きるらしいということでBatman: War Gamesという作品を読みました。2冊合わせて1000ページぐらいと長いのですが、割とさくさく読むことができます。

【基本情報】
Writers: Various, Devin Grayson, Bill Willingham, Ed Brubaker
Artists: Various, Pete Woods, Mike Huddleston, Brad Walker
発行年 2015年 (単行本の発行年。連載されていたのは2004年頃)

公式サイトはこちら (BOOK 1)。



ある出来事をきっかけに、ゴッサム市のギャング団たちの間で次々と抗争が起き普通の人たちもそれに巻き込まれていく。果たしてこれは誰かが仕組んだゲームなのか。ゴッサム市はギャング団たちの戦場と化すのだった――というのがあらすじです。

全二巻のうち、本編の前提となるエピソード群、本編、本編の後のエピソード群がそれぞれ三分の一ぐらいずつを占めています。
本編の印象としては「Batman Eternal(感想はこちら)に似ている」というのが第一印象でした。あちこちで事件が起こり、バットマンやバットファミリーが対応しきれないという状況になっている辺りがそう感じさせたのだと思います。もしかすると、Batman Eternalはこの作品を下敷きにしているのかもしれないとも思いました。
しかし、本編後のエピソードが収録されていることでBatman Eternalとの印象はだいぶ異なったものになりました。本編後のエピソードははっきり言ってお通夜のような雰囲気なのですが、本編の前提となるエピソード群と重ねて読むことでより味わいが増す構成になっています。


この話の大きな前提になっているのは、これまでバットマンの相棒、Robin(ロビン)として活動していたTim Drake (ティム・ドレイク)が普通の生活に戻るためにロビンをやめていることです。その結果、彼ともよく一緒に行動していたステファニーはロビンになることを志願し、バットマンに受け入れられます。何度か一緒に活動したバットマンとステファニーですが、最終的には「バットマンの指示をきちんと聞かなかった」という理由でステファニーは解雇されます。

という一連の流れが悲劇につながっていくわけですが、以下、ネタバレを含む感想になります。話の核心部分までネタバレしています。



このストーリーの中でステファニーはバットマンの敵であるBlack Maskに殺されるのですが、そこには三人の人物がおかしたそれぞれの過ちが関わっています。以下、簡単にそれぞれの過ちについて感想を書きます。


  •  バットマン:若手ヒーローへの接し方を間違えている。

"No Man's Land"の時の思ったのですが(感想はこちら)、バットマンは若手ヒーローたちに「バットマンに認められるために」「文字通り命を賭けてでも頑張る」と思わせてしまう状況を作ってしまっています。これはバットマン本人の意図するところではないと思いますが、結果的には若手ヒーローたちに「危険な状況にも飛び込んでいく」という行動をさせてしまっているわけです。バットマンは若手たちの教育者としてはあまり良くないのではないか、と思います。


  • ステファニー:未熟さゆえの過ちを犯している。

ロビンとして認められなかったことが災いし、彼女はもう一度バットマンに認められようと頑張りました。その結果、自分にできること/できないこと、現在の状況でするべきでないこと/すべきことの見極めができないという状態に陥りました。最終的にはそれが彼女自身の命を奪うことになります。上述した"Batman Eternal"という作品では、このあたりを克服し、さらに幸運にも恵まれたステファニーの姿が描かれているとも言えると思います。


  • Leslie Thompkins:過労ゆえの判断ミスを犯している。

彼女はバットマンやゴッサム市の皆から厚い信頼を寄せられている医師であり、瀕死のステファニーの治療をした人でもあります。ステファニーはもしかしたら一命をとりとめることもできたのかもしれません。しかし実際には死んでいきます。プロローグで語られている彼女の過去の姿と重ね合わせると、より一層もの悲しさが増します。

といった感じで、スリルに包まれた話でありながらも登場人物たちの行動に「あー、それはいかん」と思うところも多いストーリーでした。決して爽快な読後感ではなく、むしろ鬱々とした気持ちになりますが心に残る作品だと思います。


なおこの作品、脇役で印象的な人もいたので以下簡単にまとめます。


  • Barbara Gordon

この頃は下半身不随で、バットファミリーの情報収集・分析を担当するOracleとして活動していました。そして作中で一番無茶苦茶なことをしています。普段活動していたClock Towerという基地にBlack Maskが踏み込んできて、そこにバットマンが突入して戦いの場となります。怒りに燃えるバットマンがBlack Maskを殺しかねないのを見て取ると、バーバラはClock Towerの自爆装置を稼働させ、炎の中で「バットマンの助けがなければ私は逃げられない」と迫り、バットマンとBlack Maskの戦いを中止させるのでした。
……普段誰よりも冷静なバーバラですが、唐突に誰よりも凄まじい行動をとることのある人だよね……と思います。こうなった時のために彼女のそばにはBlack Canary (ブラックキャナリー、ダイナ・ランス)が必要なんだ、というのはBirds of Preyのファンとしての感想です。


  • Renee Montoya

ゴッサム市警刑事の彼女が登場することは全く期待していなかったのですが、登場します! しかも一話だけとはいえかなりクローズアップされます。ゴッサム市警とバットマンとの信頼関係がなくなった後に、唯一バットマンのことを信頼している刑事として登場します。しかもバットマンとのやり取りが格好いいです。出番は本当に一話だけなので彼女を読むため「だけ」にこの長いストーリーを読むのはどうかな……とは思いますが、バットファミリーの活躍も楽しみつつ彼女の登場するエピソードも読みたいということでしたらおすすめです。
なお、彼女の登場する話は連載時には"Batman: Secret Files & Origins allies 2005"というタイトルだったようです。