2020年10月17日土曜日

Batman and the Outsiders (2019-) Vol. 1: Lesser Gods 感想

※このシリーズの各巻感想はこちらをご覧ください。


  2018年から連載されているBatman and the Outsiders第1巻を読みました。Batman (バットマン、ブルース・ウェイン)がOutsidersというチームを率いるのは久しぶりだと思います。

【基本情報】
Written by: Bryan Edward Hill
Art by: Dexter Soy, Cian Tormey
Cover by: Tyler Kirkham, Arif Prianto
発行年 2020年

公式サイトはこちら。


 表紙はこちらです。Black LightningにKatana、OrphanといったこれまでのOutsidersに入っていたメンバーに加え、Signal(黄色いコスチュームのヒーロー)もメンバー入りです。




 このシリーズに関してまず何と言っても言わなければならないことは、絵が美しい! ということだと思います。このブログをお読みの方は薄々お気づきかもしれませんが、筆者はあまり絵に触れることがありません。たぶん読んでいるとき文章を読む方に夢中になっていて絵の方をあんまり見ていないからだと思うのですが、そんな筆者でも感じるほど絵が美しく、アクションシーンも格好いいです。

 特に、チームの中で末っ子を見守るお姉さん的に描かれているCassandra Cain (カサンドラ・ケイン)や、チーム全体を一歩引いたポジションからよく観察しているKatana (カタナ)さんが生き生きしていて素晴らしいと思います。

 ちなみに巻末には、KatanaとBlack Lightning (ブラックライトニング)が日本で怪異と戦う短編も収録されています。これもおすすめです。


 さて。

 

 久しぶりのOutsidersですが、最初期のOutsiders (感想はこちら)やNew52期の大規模設定リセット前のOutsiders (感想はこちら)とはあまり関係はなく、新しく組まれたチームです。とはいえ、チームメンバーには以前のOutsidersの関係者が多いですね。メンバーは以下の通りです。

 

  •  Batman (バットマン、ブルース・ウェイン):チームを創設した。1巻ではあまり前線で戦うことはない。
  •  Black Lightning (ブラックライトニング、ジェファソン・ピアース):普段は学校の先生。電気パワーで戦う。人格者であり、Outsidersの現場でのリーダー。
  •  Katana (カタナ、タツ・ヤマシロ):敵の魂を奪う魔剣、Soultakerで戦う。夫の魂がその中に囚われており彼が苦しんでいることに悲痛な思いを抱いている。
  •  Orphan (オーファン、カサンドラ・ケイン):バットファミリーの中でも格闘戦の腕は随一。DCコミックス界最強の暗殺者、Lady Shivaの娘である。
  •  Signal (シグナル、デューク・トーマス):イベントRobin Warではゴッサム市の少年少女のリーダー格になっていた。バットマンのもとで本格的にヒーローとしての活動を開始したようだ。光を鋭敏に感じる能力を持っている。

 

 という5人のメンバーなのですが、割とはっきり保護者世代 (バットマン、ブラックライトニング、カタナ)と被保護者世代(オーファン、シグナル)に分かれているのが特徴だと思います。作中での描かれ方もあって、オーファンやシグナルは若手ヒーローというよりは「保護されるべき」世代のヒーローという印象です。

 

 敵方はRa's Al-Ghul (ラーズ・アル・グール)とその部下たちであり、今のところ二つのチームがSofia Ramosという女性を奪い合う――という構図になっています。彼女はかつて謎の計画の被害者となり、望まぬうちにスーパーパワーを得てしまった女性です。かつてバットマンは彼女を助け、彼女や彼女の家族の保護を約束しました。しかしラーズが彼女を誘拐したことから、彼女を守るべく始動した――というお話になっています。

 

 読んでいて印象的なのは、Outsidersのチームメンバーがそれぞれ問題を抱えていること、Outsidersのあり方とラーズたちのあり方が対比して描かれていることでした。

 

 以下、ネタバレを含む感想でこれらの点について触れたいと思います。

 

 

 ***ここからネタバレ***

 

 Outsidersのチームメンバーは、それぞれ以下に示すような爆弾を抱えています。

  •  ブラックライトニング: 自分をスカウトしておきながら情報をあまり開示してくれないバットマンへの不信(これはバットマンの問題かも……)。
  •  カタナ:Soultakerに閉じ込められている夫への思いと同時に、武器 (=Katana)であろうとする危うさ。殺人へのハードルの低さ。
  •  オーファン:未来の自分への不安。
  •  シグナル:(他誌で描かれたKarmaという敵との戦いの結果)自分の弱さへの恐怖。

 

 この巻ではシグナルの持っている恐怖に焦点が当たっていましたが、それぞれのメンバーが抱えている問題が今後もスポットライトを浴びることになってくると思います。特に筆者としては、カタナさんが掘り下げられることに期待しています。

 カタナさんがカタナという名前を名乗っているのは武器であろうとしているからで、人間ではなく鋼鉄であろうとしている。というのがブラックライトニングによるカタナ評です。カタナさんが夫を亡くした悲しみを抱えていることはこれまで様々な作品で語られてきましたが(それが彼女のアイデンティティの一つでもあります)、あまりこうしたアプローチは見たことがなかったのでどう展開するか楽しみです。

 

 そして、武器であろうとしているカタナさんであるがゆえに、今回の敵、ラーズ・アル・グールがカタナさんを自分の部下にしたいと思っているらしいことも納得がいきます。

 

 ラーズは、今回のキーキャラクターであるSofia Ramosを誘拐し自分の部下にするべく洗脳しようとします。バットマンたちが彼女を守ろうとしても力が及ばないことを見せつけつつ、自分の言うことを聞けば安心だと思いこませ、自分の武器として行動するよう求めます。

 

 印象的なのは、この洗脳の場面に対比される形でバットマンたちがシグナルを励ますシーンが入っていることです。バットマンたちは小芝居を討ちつつ、仲間が必ず彼を助けることを示します。

 

 はたから見ていると、二つの組織で行われていることはよく似ているように見えます。違いがあるとしたら、おそらく、Sofia Ramosはラーズの言うことを聞かなければ殺されるでしょうがシグナルがOutsidersを離脱しても殺されることはないという点でしょう。

 ラーズはSofiaを自分の組織に置き、自分の意のままに動く限りは生存を認める――という様子ですが、バットマンたちはシグナルの意向を尊重しつつ、彼の苦しさを助けるために協力する――という様子です。

 手法はよく似ていても、本人の意向が認められているかどうかが重大なポイントかなと思いました。

 

 ――とはいえ、バットマンがとった手法はやはり危うい気もするわけで。シグナルを対象にしたこの小芝居のために、のちのち足元をすくわれる可能性もあるなと思うのでした。