2022年6月12日日曜日

DC Pride 2022 #1 感想 -ノンフィクションの力-

 ※このシリーズの各巻感想はこちらをご覧ください。

 DC Pride 2022を読みました。6月はLGBTQ+などの性的マイノリティーの権利を啓発するプライド月間なので、このコミックはそれに合わせて性的マイノリティーのキャラクターをクローズアップした短編集です。このプライド月間記念コミックは2021年から始まりました。

 

【基本情報】
Art by: Brittney Williams, Travis G. Moore, Meghan Hetrick, Nick Robles
Written by: Danny Lore
発行年 2022年

(このアーティスト、ライター名は公式サイトに載っているそのままですが、短編集ですので実際にはもっと多くの人たちが制作に関わっていてコミックに名前が掲載されています。)


公式サイトはこちら。


 LGBTQ+のキャラクターがメインということで、レズビアンのBatwoman (バットウーマン、ケイト・ケイン)や、トランスジェンダー女性のAlysia Yeoh (アリシア・ヨー、バーバラ・ゴードンの友人としてNew52期Batgirl誌などに登場)が主役の短編が掲載されています。

 どれも無難な短編で、今までよく知らなかったけれど実はこのキャラクターはLGBTQ+なんだね、という知識を得ることもできます。

 が。

 上にも書きましたがどれも「無難な短編」なのです。まあ、各キャラクターとも数ページずつしか掲載スペースがないわけですし、その中できれいにまとめようとしたらこんな感じになっちゃうよね、仕方ないよね、といった印象を受けました。

 

 ところが、一番読み応えのある作品は最後にありました。といってもこの作品、フィクションではなくBatman: The Animated Seriesでバットマンの声を演じたKevin Conroyの半生を描いたノンフィクションです。

 彼は家庭の事情に加え、ゲイであることがその人生に重くのしかかっていたようです。「ゲイである」ことに対して彼の周りの人々の差別意識が時として牙をむく、その恐怖がぎゅっと濃縮して描かれていました。

 この本はこの一話だけが収録されているというだけで、読む価値がある一冊です。

 

 ……ただ、最後にこのノンフィクションがあるからこそ、その前に収録されているヒーローたちのストーリーが「無難な作品群」として色あせて見えてしまったのも事実です。これはフィクションの敗北では、この本はこの構成で良かったのかなと思ってしまいました。

 

 とはいえ、ヒーローコミックを入り口に、自分の身の回りのLGBTQ+の人々(自分自身も含め)の人生に思いを馳せることができるという点ではこの構成で正しいのかな、とも思うのでした。