2022年6月15日水曜日

Aquaman (2016-) Vol. 1-2 感想: ならず者国家、アトランティス

※このシリーズの各巻感想はこちらをご覧ください。

 2016年から始まったRebirth期のAquaman誌、Vol. 1, 2を読みました。2011年から始まったNew52期に一区切りついてのRebirth期、というわけでAquaman誌の雰囲気が少し変わったかというと、New52期最終巻(感想はこちら)のライターだったDan Abnettが再びライターを務めているため、ほぼ変わりません。

 New52期のVol. 8がRebirth期の序章だったのでは、という感じさえします。

【基本情報】
Written by: Dan Abnett
Art by: Philippe Briones, Andrew Hennessy, Bradley Walker, Scot Eaton, Various
Cover by: Andrew Hennessy, Bradley Walker
発行年 2017年


公式サイトはこちら (Vol. 1)。



 この2冊で描かれているキャラクターは、大きく4つの陣営に分かれます。

 ・Aquaman (アクアマン、アーサー・カリー)陣営

 アトランティスの王にしてヒーロー、アクアマンであるアーサーはアトランティスと地上の国々との親交を深めようとしている。

 彼の恋人、Mera (メラ)はアーサーに協力している。地上に建設したアトランティスの大使館で大使として活動し、Aquawomanとしてちょっとした人気を博している。

 アトランティスでは、アーサーの前の王にしてアーサーの異父兄弟、Ormの異母姉妹であるTulaが摂政を務めている。Tulaはアトランティスに平和をもたらすためアーサーに協力している。

 

 ・アトランティスの多くの人々

 地上のことをよく思っていない。また、海底人とは言ってもXebel出身であるメラのことも良く思っていない。メラについては、アトランティスの予言にある"Fatal Queen"ではないかという説も。


 ・地上人の多く

 アーサーの前の王であるOrm統治下にあったアトランティスが戦争を仕掛けてきたので、アトランティスのことを良く思っていない。アクアマンも、ヒーローとしては二線級と思われている。

 アーサーの故郷であるAmnesty Bayの人たちはヒーローであるアクアマンを信じている。

 

 ・Black MantaとN.E.M.O.

 アクアマンに恨みを抱くブラックマンタが秘密組織N.E.M.O.と結託し、地上とアトランティスの間に戦争を引き起こすため、アトランティスの兵器を使ってアメリカを攻撃する

 

 

 というもので、アーサーの掲げる理想は美しいものの前途多難です。物語は、N.E.M.O.の陰謀に翻弄されるアーサーとアトランティス、それにアメリカの姿を描いていきます。


 二冊読み終えた感想は「信用がないのは辛い」というものでした。

 上にも書きましたが、Orm統治下の時の一件があるためアトランティスという国家は中々信用されにくいという問題があります。

 またアクアマン自身も、ヒーローチームJustice Leagueのメンバーにしては人々からそこまで信頼されているわけではない――という自覚があるため、他のヒーローたちに素直に助けを求めることができないままに事態の混迷を招いていきます。 

 ブラックマンタの目的が偽旗作戦によって(※これは作中、本当に"False Flag Operation"という言葉が登場しました、コミックでも普通に使われるくらい一般的な言葉なんですね)アトランティスとアメリカを戦争させることにあるのなら、アーサーの対応はとにかく味方を増やすことしかありません。

 最終的にジャスティス・リーグがアトランティスに乗り込んで来たときにアーサーがこれまでに集めた様々な証拠を見せて納得してもらい、スーパーマンがアメリカへの仲介を引き受けます。 

 この時、アトランティスの街並みを見たグリーンランタン (サイモン・バズ)のセリフが印象的でした。

"ATLANTIS...I NEVER THOUGHT IT WOULD BE SO......BIG. (略) A NATION. MILLIONS OF LIVES."

「アトランティス……こんなに大きいなんて思わなかった (略)。こんな国で。何百万人もの人たちがいるなんて」


 アーサーがアトランティスの王であるということを知っていたのですから、サイモンは漠然と海底の国のイメージは持っていたはずなのです。とはいえ、実際にアトランティスを見て初めて、アーサーが守ろうとしているものを実感したのかなと思いました。そう考えると、アトランティスでなくても様々な国に実際に行ってみることはやはり大切なことかもしれません。

 そしてこの二冊を読んで気になったのは、アメリカはアトランティスを"Rogue Country (ならず者国家)"とみなしたらしく、そのトップを除くための暗殺部隊を派遣するという展開になることです。

 アーサーは暗殺部隊を退けますが、アメリカに復讐はしません。"Rogue Country"ではないことを示すために、という理由が語られます。

 

 しかしこれ、現実に起きていることを考えるととても危うい展開ですよねえと思います。ここについてはぜひ、アメリカの読者の感想を聞きたいところです。

 アーサーがアメリカに復讐しないのはそもそも彼がアメリカ出身でアメリカと友好関係を保ちたいからに過ぎないのでは? "Rogue Country"と呼ばれ、指導者への暗殺者を派遣された国々がアメリカへの恨みつらみを蓄積していってしまうのはごく自然なことでは? と思うのですが、アメリカの読者にはどう読まれたのでしょう。