2024年5月3日金曜日

Justice League: Cry for Justice, Justice League: Rise and Fall感想 -ヒーローにはどこまで許されるのか-

  Justice League: Cry for Justice, Justice League: Rise and Fallを読みました。単行本2冊に分かれていますが、つながった1つのストーリーになっています。

 2006年から始まったJustice League of America の"When Worlds Collide" (感想はこちら)を読んでいた時、Justice League of Americaのヒーローたちが次々に抜けていくため議長のBlack Canary (ブラックキャナリー、ダイナ・ランス)がJLAの解散を決めるというエピソードがありました。

  そもそもこの頃バットマンなどのヒーローたちが死亡したという流れがあり、これまでのJLAの活動では悪人を止められないということでダイナの夫であるGreen Arrow (グリーンアロー、オリバー・クィーン)とGreen Lantern (グリーンランタン、ハル・ジョーダン)が率先してJLAを抜けたのでした。その後のグリーンアローの活動を中心にしたスピンオフ作品がこのCry for JusticeとRise and Fallになるわけですが、とにかく地獄のような展開です。

 JLAはぬるいというのはグリーンアローたち二人だけの思いではなく、悪人たちに対するJustice (裁き)を求めるヒーローたちが次々に彼らのもとに集います。それはPrometheus (プロメテウス)というヴィランとの決戦に繋がって行きますが、そこで起きる悲劇が彼らの人生を決定的に変えていく……という話になっています。

 【基本情報】(人数が多すぎるためArtists, Coloristsは4人ずつ掲載)
Writers (Cry for Justice): Len Wein, Mark Waid, James Robinson, Sterling Gates
Writer (Rise and Fall): J.T. Krul
Artists (Cry for Justice): Fabrizio Fiorentino, John Dell, Marlo Alquiza, Geraldo Borges
Artists (Rise and Fall): Fabrizio Fiorentino, John Dell, Marlo Alquiza, Geraldo Borges
Colorists (Cry for Justice): Giovani Kososki, Siya Oum, Federico Dallocchio, Ulises Arreola
Colorists (Rise and Fall): Michael Atiyeh, Andrew James Troy, Greg Horn, Hi-Fi 
Letterers (Cry for Justice): Travis Lanham, Ken Lopez, DC Lettering
Letterers (Rise and Fall): John J. Hill, Travis Lanham, DC Lettering
発行年 2010-2011年


公式サイトはこちら (Cry for Justice)


公式サイトはこちら (Rise and Fall)


Amazonのページはこちら (Cry for Justice)


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 バットマンたちヒーローが殺され、"Justice"を求めてJLAを脱退したグリーンアローとグリーンランタン。彼らのもとには同じように親しい人を殺されたヒーローたちが集まってくる。彼らの敵はプロメテウスだった。プロメテウスは決して有名なヴィランではなかったが、ヒーローたちの弱点を的確に分析、攻撃を加える。彼がヒーローたちの最も大きな弱点としてみなしたのは、彼らがそれぞれに愛する町の普通の住民たちだった。グリーンアローたちにとらえられたプロメテウスは、自らの解放を要求する。手始めに、グリーンアローが守ってきたStar Cityを破壊し、さらなる破壊を望まないなら自らを解放しろと告げるのだった。そしてStar Cityでは、グリーンアローが息子として接してきたRed Arrow (レッドアロー、ロイ・ハーパー)の娘、リアンが破壊された町の中で死んでいたのだった……というのがあらすじです。

 

 この悲劇に対して、グリーンアローであるオリバー・クィーン、レッドアローであるロイ・ハーパーがどう動くのかというのが主題になっています。

 

 一番の問題は、復讐は許されるのかという点です。ヒーローであれば殺人は許されない。バットマンやスーパーマン、ワンダーウーマンなら絶対にそういうでしょう。しかしこの時点でバットマン自身が死亡しており、オリバー・クィーンはJLAのぬるさに脱退を決めたという経緯があります。

 果たして、リアンの復讐のためにオリバーは何をするのか、何をしてはいけないのかというのが見どころになっています。

 

 

 以下、ネタバレを含む感想です。

  

 

 オリバーはプロメテウスを殺します。その時点でダイナや他のヒーローたちからは突き放される展開になるのですが、物語はここでは終わりません。彼の部下で、リアンを殺すことになる直接の原因を作った人物をもオリバーは追い求めます。 

 ここからが面白いところで、オリバーが追いついた先には当時リアンの子守をしていた(そしてリアンを守れなかった)Speedy (スピーディー、ミア・デルデン)がいます。彼女は彼を殺そうとしていたのですが、ここでオリバーは殺せ殺せというのではなくミアを止めるのです。

 殺人は罪である、ということはオリバーも分かっており、それでもプロメテウスを殺してしまったのであり……というのは、人間臭くて物語として非常にいいなと思いました。しかしここで話は終わらず、最終的にはみんなに(オリバーにも)止められているにも関わらずリアンの父であるロイ・ハーパーが暴走して薬物に手を出し、プロメテウスの手下をオリバーの前で殺す……という展開になります。実に、救いのない物語でした。

 

 こんな風にオリバー・クィーンを中心とするグリーンアローファミリーが大ピンチに陥ったときに期待されるのがダイナ・ランス(オリバーの妻であるためにロイやミアから見ると母的な存在でもある)の人間力なのですが、はっきり言ってここまでくるとダイナでもどうしようもないということが分かる展開になっています。オリバーは言うことを聞きませんし、息子にあたるロイは八つ当たりをしてきますしどうしようもありません。子供を産めないダイナに「あんたに子供を失う親の気持ちは分からん」というのは言っちゃいけないセリフだろう、と思います。

 同時期に連載されていたBirds of Prey誌 (感想はこちら)で、ダイナが離婚したりいろいろあったっぽいなというのは分かっていたのですが、ダイナにオリバーから離れて楽しくいられるチームがあって良かったと思います。

 

 

 

 なお、余談ですがCry for Justiceではバットマンがいないゴッサムを主にBatwoman (バットウーマン、ケイト・ケイン)が守っている設定になっているため、本当に脇役ですがバットウーマンがちらちら登場します。グリーンアローたちにゴッサムの現状を伝えているあたりで笑ったのがこのコマ。

 


"...AND AFTER THAT WE GOT TO TALKING. SHE WAS SHY AT FIRST BUT I TURNED ON MY CHARM..."

「そのあとで私たちは話した。彼女は最初は恥ずかしがっていたけど私の魅力を出してみたら……」


セリフと絵が全然合っていませんよ、と悲惨な物語の中で唯一笑えたシーンでした。