2024年4月7日日曜日

Far Sector 感想 -急性期の治療のやめ時-

  Far Sectorを読みました。最近Green LanternになったJo Mulleinが、最初の赴任先であるFar Sectorでどのように活動したかという話です。

 大変な状況を止めるために打ち出した強硬策を修正するのも一苦労、という話として読みました。

【基本情報】
Artist: Jamal Campbell
発行年 2021年
Writer: N.K. Jemisin

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 Far SectorにあるCity Enduring は、複数の部族が暮らす星である。かつては内戦で自滅寸前であったが、部族同士が協力し合うことで再び繁栄の時を迎えていた。しかし、危機を予感した者の求めに応じてGreen LanternのJoが派遣される。

 やがて連続殺人事件が起こり、Joはその捜査にあたるのだったが星全体もデモ隊の抗議活動が激しくなるなど危うい状況になっていくのだった。果たして連続殺人の背後にある経緯とは――というのがあらすじです。

  物語の鍵になるのが、City Enduringの人々がかつての内戦を収めるためにEmotion Exploitという技術を使っていることです。これは感情を抑えることで、部族間の闘争が発生しないようにしています。

 一方で、闇で売られるSwitchoffという薬物は一時的に感情を取り戻せる効果を持っています。

  というわけで、連続殺人事件の裏には闇市でのクスリのやり取りがあるのだ――という構図かと思いきや、さらに物語が転がっていくさまが面白い一篇でした。

  右も左も分からないJoが(Green Lanternは予備的な知識がないままに遠い星に派遣されすぎなのでは)、かつて地球で警察官として務めた経験をもとに、そして地球の警察官としては果たせなかったことをGreen Lanternとして果たしていく姿が見どころになっていると思います。 

 

 以下、ネタバレを含む感想です。

 

 現在起きている過激な状況(内戦)を止めるために極端な方法(感情の抑制)をとったけど、今度はその方法をいつ修正したらいいか分からない――というような状況だなと思って読みました。感情を抑制したままだと創造性がなく、社会がいつまでも停滞しているのだそうです。  

 医療なんかですと、専門家である医師が「症状がひどい時に一時的に使う薬」と「少し落ち着いたら使う薬」を分けて処方してくれるので強い薬のやめ時が分かるのですが、社会的な政策の話だと専門家ごとにいうことが違ったり、過去の経験がそのままあてはめられなかったりするので手探りにしかならないだろうなというのは想像できます。このFar Sectorも、話としてはめでたしめでたしで終わっているのですが一世代後にはまた内戦状況に陥ったりしているのかもしれません。部族のリーダーたちの賢さが光るのですが、次世代のリーダーたちが変な意地や見栄に囚われず大局的な判断ができる人たちだといいなと思いました。