2023年4月12日水曜日

Batman: Detective Comics (2016-) Vol. 3: Arkham Rising 感想 -壮大な予告編-

 ※このシリーズの各巻感想はこちらをご覧ください。


 Detective Comicsは、Batman (バットマン、ブルース・ウェイン)やその仲間であるバットファミリーの活躍を描くシリーズです。

 2021年から始まったMariko Tamakiがメインライターを務めるDetective Comicsの第三巻であるこの巻では、ゴッサム市に新たに建設されるArkham Towerをめぐる不穏な物語が展開されます――おそらく次の巻あたりでこの建物にまつわる大バトルが描かれると思うのですが、一巻分かけてその予告編を見せたというような一冊でした。

 

【基本情報】
Art by: David Lapham, Dan Mora
Written by: Mariko Tamaki, Matthew Rosenberg, Stephanie Nicole Phillips
発行年 2022年


公式サイトはこちら。



 Vol. 2でいろいろ大変な目に遭ったナカノ市長。彼はゴッサム市のため、精神面の病気を抱える人たちをケアするための施設、Arkham Towerを開設することにするのだった。しかし、Arkham Towerには建設中に殺人が起きるなど不穏な気配がつきまとう。Batman (バットマン、ブルース・ウェイン)は巨大な悲劇が起きるのを防ぐため調査をするのだったが――というのがあらすじです。

 ナカノ市長の発想自体は正しく、犯罪を犯した人を含めきちんと精神面でのケアがなされるべきというのは登場人物の誰も否定していません。ただ、もともと精神面に問題のある犯罪者を治療する病院であったはずのArkham Asylumが、実際には犯罪者たちが新たな犯罪を企んだり軽犯罪の犯人を凶悪犯罪に引きずり込む場に変貌してしまった現在、果たしてその理想は実現するのか、というのが問題です。

 Arkham Towerという名前自体が良くない、せめて変えましょうという意見もありこれは結構常識的だな――と思いました。

 そんなわけで、Arkham Towerは果たして理想を果たせるのか、それとも新たな呪いの場になってしまうのかという不安を抱えたままこの巻は終わるのですが。

 そもそもバットマンの物語は、犯罪者を捕まえてArkham Asylumに送るところでとりあえず終わってしまうから結局次から次へと起きる犯罪を止められないという構造があり(この構造には、もちろんバットマンという作品を終わらせたくない出版社と読者も加担しているのです。結局みんなバットマンと有名ヴィランとの戦いを繰り返し読みたいので)、果たしてゴッサム市に本質的な解決をもたらすことができるのかというという問いは面白いなと思いました。

 

 また、印象的だったのはバットマンと他のバットファミリーの距離感です。たとえばJames Tynion IVがメインライターを務めていたころのDetective Comics誌 (感想はこちら)では、バットマンが自らチームのメンバーに様々な支持を出すというやり方でした。

 一方現在は、バットマンはファミリーから距離を置き、ファミリーのメンバーは主にOracle (オラクル、バーバラ・ゴードン)のもたらす情報に沿って自分で考えた行動をとっているという印象があります。製作者側の意識していることかどうかは分かりませんが、ファミリーの成長が感じられていいなと思いました。

 そんな中、嬉しかったのはBatwoman (バットウーマン、ケイト・ケイン)とオラクルが共演していたことです(下図)。こういうシーン、これまでありそうで実はあまりなかったので。