2023年3月26日日曜日

GCPD: The Blue Wall (2022) 感想 -組織人であり個人であり-

  Renee Montoya (レニー・モントーヤ)を主役にしたミニシリーズ、GCPD: The Blue Wallを読みました。かつてはゴッサム市警の一刑事、後に探偵のQusetionとして活躍し、現在はゴッサム市警本部長になっているレニーの死闘を描いた全6話の物語です。

 読んでいて辛いけれど読み応えのあるお話でした。

【基本情報】
Writer: John Ridley
Artist: Stefano Raffaele
Cover: Reiko Murakami
発行年 2022年


公式サイトはこちら (#1)。

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 物語はレニーに加えて、三人の新人警官を中心にして進みます。第一話の表紙にその三人が載っていますが(下図)、右から順にEric Wells、レニーを挟んでSam Park、左端がDaniel Ortegaです。




 警察学校を同期で卒業した彼らはこれからの警官としての日々に胸を膨らませるのですが、ゴッサム市警の現実に直面して心をすり減らして行くことになります。

 ゴッサム市警本部長であるレニーは彼らにどう応えるのか? というのが大まかなあらすじです。

 

 

 以下、ネタバレを含む感想です。

 

 

 

 レニーはゴッサム市警本部長であり、バットマンたちに頼らない、市民に信頼される組織として警察を立て直そうとしています。新人警察官三人もそんなレニーに期待を抱いているのですが、

 

  • Sam Park: 容疑者に発砲しなかったことで一時はヒーローになるも、実際はとっさに撃てなかっただけで次の事件では市民を守れず批判される
  • Eric Wells: 仮釈放中の人物を守り切れず、家族のために犯罪を犯すのを止められない
  • Daniel Ortega: プエルトリコからの移民であることを理由に警察内で執拗にいじめを受ける

という事態になります。彼らはゴッサム市警改革に取り組むレニーに期待をするのですがレニーは何もできず、Orgetaの場合にはレニーに直訴するも「大したことではない」と切り捨てられいじめは悪化します。耐えられなくなったOrtegaはレニーの家族を殺し、レニーへ宣戦布告するのだった――と、物語は進みます。


 はっきり言って、本部長としてのレニーは警察組織の運営を考えるあまり個々の警官の正直な思いに寄り添えていません。また、かつてドミニカ移民として、女性として、レズビアンとして差別を受けてきたレニーだからこそ若者が受けた差別を「大したことではない」と一蹴してしまっています。

 

 事態が殺人にまで発展したことでやっとレニーは彼女個人の思いに立ち返り、Ortegaを殺してでも止めるという捜査方針に反して彼を死なせないために身体を張ることになります。

 もちろん警察組織としては、逮捕する過程で彼が死んでくれた方が差別が表ざたにならないので都合がいいわけですが、個人としてのレニーは彼を生かして裁判等で何があったかを明らかにすることを望みました。

 このシリーズを読んでいて、レニーが若い警官たちの思いを踏みにじっていることに若干いらいらしてしまったのですが、ようやくここで本来のレニーに立ち戻った――という印象です。

 

 レニーはこの事件を経てもゴッサム市警本部長の地位にとどまり、組織と個人の間で引きさかれることを引き受けることになっています。

 ゴッサム市警本部長の地位に就いたことで、組織人としての立場がレニー個人の本来の姿を潰していたことで起きた大事件を解決するために「個人としてのレニー」が「組織人としてのレニー」を抑え込んだという物語だと思いました。

 

 レニー・モントーヤのファンとしては、本部長の地位にあること自体が大変そうなので辞めてしまった方がいいんじゃないかなと思うのですが、しばらく本部長時代は続きそうです。